視聴覚の時間的なずれが「素材」と「動作」の知覚に異なる影響を与えることを明らかに

日本女子大学大学院生が国際学術誌 i-Perception の「若手研究者ベスト論文賞」を受賞

学校法人 日本女子大学

 日本女子大学(東京都文京区、学長:篠原聡子)大学院人間社会研究科心理学専攻博士課程後期2年の林真由佳(はやしまゆか)さんと、同大学人間社会学部心理学科*の藤崎和香(ふじさきわか)教授は、映像と音の時間的なずれが、素材の性質や人の動作の質の知覚にどのような影響を与えるかを実験的に検討しました。

 その結果、同じ視聴覚刺激であっても、「素材がどのように感じられるか(素材の固さ)」と「動作がどのように感じられるか(熟達度)」では、映像と音の時間的なずれによる影響の仕方が異なることが明らかになりました。さらに、時間的なずれが素材の固さの判断に及ぼす影響には大きな個人差がみられる一方、その傾向は約1年後にも比較的安定していることが示されました。

 本研究成果は、知覚研究の国際学術誌 i-Perception に掲載され、第一著者の林さんは、本論文により同誌の若手研究者ベスト論文賞(Early Career Best Paper Prize)を受賞しました。

図1 本研究の概要(Graphical Abstract)

原著論文に掲載されたGraphical Abstractを転載。

出典:Hayashi, M., & Fujisaki, W. (2026). Audiovisual temporal asynchrony differentially influences material property and action quality judgements: Evidence for stable individual differences in material perception. i-Perception 17(5), 1–19. https://doi.org/10.1177/20416695261495447

© The Author(s) 2026, published by SAGE Publishing, licensed under CC BY-NC 4.0.


【発表のポイント】

  • 映像と音の時間的なずれは、素材の性質についての判断と、人の動作の質についての判断に異なる影響を与えることを明らかにしました。

  • 動作の質の判断は映像と音の時間的な対応関係と比較的よく対応する一方、素材の性質の判断には、時間的な対応関係だけでは説明できない要因が関わることが示唆されました。

  • 素材の固さの判断に対する時間的なずれの影響には大きな個人差がみられましたが、その個人ごとの傾向は約1年後にも比較的安定していました。

【概要】

 私たちは日常生活の中で、物を見ると同時に、その物が発する音も聞いています。例えば、食べ物を割ったり、物に触れたりするとき、目から得られる情報と耳から得られる情報を組み合わせながら、「硬そう」「やわらかそう」といった素材の性質や、「上手そう」「ぎこちない」といった動作の質を判断しています。

 映像と音のタイミングがずれると違和感を覚えることがありますが、このような時間的なずれが、私たちが感じる素材の性質や動作の質にどのような影響を与えるのかは、十分には分かっていませんでした。

 本研究では、映像と音の時間関係を実験的に操作した動画を用い、参加者に、映像と音が同時に感じられるか、どちらが先に感じられるかを判断してもらうとともに、素材の性質(固さ)および動作の質(熟達度)について評価してもらいました。

 その結果、動作の質についての判断は、映像と音の時間的な対応関係と比較的よく対応して変化しました。一方、素材の性質についての判断では、同じ時間的ずれであっても参加者によって影響の受け方が大きく異なりました。

 さらに、最初の実験に参加した11名を約1年後に再び調べたところ、時間的なずれが素材の固さの判断に及ぼす影響について、個人ごとにみられた傾向が比較的安定していることが確認されました。

 これらの結果から、視覚と聴覚を組み合わせて対象を知覚するとき、私たちは単純に「映像と音のタイミングが合っているか」だけを利用しているのではなく、何について判断するかによって異なる情報を利用していることが示唆されます。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

 これまで、映像と音の時間的な対応関係については、映像と音が同時に感じられる範囲や、どちらが先に感じられるかなどを中心に多くの研究が行われてきました。

 一方、現実の出来事では、時間的な対応関係だけでなく、「どのような素材に感じられるか」「動作がどのように感じられるか」といった複数の知覚が同時に生じています。

 しかし、映像と音の時間的なずれが、こうした素材の性質や動作の質についての知覚にどのような影響を与えるのか、また、その影響が時間的な対応関係の知覚とどのように関連するのかについては、十分には明らかになっていませんでした。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

 本研究では、視聴覚の時間的なずれに対する知覚と、素材の性質および動作の質についての知覚を同じ刺激を用いて比較することで、それぞれの判断がどのような情報に基づいているのかを検討しました。その結果、視聴覚の時間的なずれが知覚に及ぼす影響は、判断する内容によって異なっていました。特に、動作の質についての判断は視聴覚の時間的対応と比較的密接に関係していたのに対し、素材の性質についての判断では時間的なずれの影響に大きな個人差が確認されました。しかし、同じ参加者を約1年後に再び測定したところ、時間的なずれによる判断の変化のパターンは、個人内では比較的安定していました。この結果は、映像と音の時間的なずれが素材の感じ方に及ぼす影響には、個人ごとに特徴的なパターンがあることを示しています。

(3)研究の方法

 研究では、日常的な動作を撮影した映像と音声を用い、映像に対して音声のタイミングを前後にずらした複数の刺激を作成しました。参加者には、映像と音が同時であるかを判断する同時性判断(Simultaneity Judgement: SJ)、映像と音のどちらが先であるかを判断する時間順序判断(Temporal Order Judgement: TOJ)に加え、素材の性質(固さ)と動作の質(熟達度)を判断してもらいました。これらの判断を同じ視聴覚刺激を用いて比較することで、映像と音の時間的な対応関係の知覚と、素材の性質および動作の質の知覚との関係を検討しました。また、約1年後に同じ参加者を対象として再び測定を行い、時間的なずれが素材の固さの判断に及ぼす影響について、個人ごとの傾向がどの程度安定しているかを調べました。

(4)研究の波及効果や社会的影響

 本研究から、映像と音の時間的な対応関係が、私たちのさまざまな知覚判断に一様に影響するわけではないことが明らかになりました。私たちは日常生活の中で、複数の感覚情報を組み合わせながら物や出来事を知覚しています。本研究は、同じ視聴覚情報を経験していても、何について判断するかによって利用される情報が異なり、さらに時間的なずれが素材の感じ方に及ぼす影響には、個人ごとに比較的安定した特徴が存在する可能性を示しています。こうした知見は、私たちが複数の感覚情報をどのように統合し、一人ひとり異なる「感じ方」を形成しているのかを理解することにつながります。

(5)今後の課題

 今後は、素材や出来事の種類を広げて検討することで、どのような視聴覚情報が素材の知覚や動作の知覚に利用されているのかを、さらに明らかにする必要があります。

 また、時間的なずれが素材の固さの判断に及ぼす影響に、なぜ個人差が生じるのかについても、引き続き検討していくことが重要です。

(6)研究者のコメント

林真由佳さん(日本女子大学大学院心理学専攻 博士課程後期2年)

 本研究では、映像と音の時間的なずれが素材の固さの判断に及ぼす影響には大きな個人差があり、その個人差の傾向が約1年後にも比較的安定していることが明らかになりました。普段はあまり意識することのない、私たちの「感じ方」の違いについて、少しでも理解を深めることができたのであれば嬉しく思います。また、このたび、このような賞に選んでいただき、大変嬉しく思います。本研究を評価してくださった i-Perception の編集部の皆様、そして、学部時代から現在まで長年にわたり研究をご指導くださっている藤崎先生をはじめ、これまで研究活動を支えてくださった皆様に心より感謝申し上げます。今回の受賞を励みに、今後もよりよい研究ができるよう精進してまいります。

(7)用語解説

視聴覚の時間的なずれ:映像と音のタイミングが一致せず、時間的にずれていること。

同時性判断(SJ):映像と音が同時に感じられるかどうかを判断すること。

時間順序判断(TOJ):映像と音のどちらが先に感じられるかを判断すること。

若手研究者ベスト論文賞(Early Career Best Paper Prize)について

 i-Perception の若手研究者ベスト論文賞(Early Career Best Paper Prize)は、博士課程在籍中、または博士号取得後5年以内の若手研究者が筆頭著者(primary author)を務める論文を対象とした賞です。論文の掲載決定後、同誌の編集者によって受賞論文が選出されます。

 本研究では、日本女子大学大学院人間社会研究科心理学専攻博士課程後期2年の林真由佳さんが第一著者として同賞を受賞しました。

(8)論文情報

雑誌名:i-Perception

論文名:Audiovisual Temporal Asynchrony Differentially Influences Material Property and Action Quality Judgements: Evidence for Stable Individual Differences in Material Perception

執筆者名(所属機関名):

Mayuka Hayashi(日本女子大学大学院人間社会研究科心理学専攻)

Waka Fujisaki(日本女子大学人間社会学部心理学科)

掲載日時(現地時間): 2026年10月27日

掲載URL: https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/20416695261495447

DOI:10.1177/20416695261495447

(9)研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)

 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JSPS KAKENHI、課題番号22K03198、26K06694)の助成を受けて実施されました。

*「人間社会学部心理学科」は2028年4月に人間科学部心理学科(仮称)へ改組を構想しています。「人間科学部(仮称)」は、現在の「人間社会学部心理学科」を前身とした「心理学科(仮称)」と、「家政学部児童学科」を前身とした「人間発達学科(仮称)」からなる1学部2学科で、本学初の学部横断による新学部です。⽂理融合的な視点から人間を科学的に理解し、理論と実践を行き来しながら、「人を知り、人に寄り添い、人を活かす」姿勢を大切にしつつ、人間社会の持続的な発展に貢献できる人材の養成を目指します。

日本女子大学は、日本初の組織的な女子高等教育機関として創立し、2021年に120周年を迎えました。私立女子大学唯一の理学部を有し、文理融合の教育環境をもつ女子総合大学です。「私が動く、世界がひらく。」のタグラインのもと、自ら学び、自ら行動し、新しい価値を創造できる人材を育てています。2024年度は「建築デザイン学部」を開設し、昨年度には「食科学部」を開設、さらに今年度には文学部2学科の名称変更をしました。2027年度には「経済学部」を開設予定、2028年度には「ファッションデザイン学部(仮称)」および「人間科学部(仮称)」の開設(構想中)、2029年度には理学部を発展させた「理工学部(仮称)」の開設(構想中)と、継続して大学改革を進めていきます。詳しくは、 https://www.jwu.ac.jp をご覧ください。

プレスリリース資料は、以下よりダウンロードしてください。

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上場
未上場
資本金
-
設立
1901年04月