浜松市と包括協定を結ぶ浜松医科大学が「with コロナ」社会の負担を減らし国民の安心を促進する新検査技術の実証実験を行いました
卓上電子顕微鏡を用いた新型コロナウイルスの高感度抗原検査
<研究成果のポイント>
■現行のイムノクロマトグラフィ(ICG)のマーカーとして用いられている金属ナノ粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察・カウンティングする新型コロナウイルス検査法を確立しました。
■浜松医科大学発の NanoSuit 法の特徴を用いて、ICG が有する簡便かつ迅速であるという長所を活かしたまま、実効的にRT-PCR法と同等の高感度な検査法の確立に成功しました。
■本法は、RT-PCR 検査法と共に、医療現場などで必要な高感度・迅速検査法として「withコロナ」社会のニーズに即した健康管理技術として用いることが可能です。
※本研究成果は、国際学術誌「Biomedicines」オンライン版に日本時間 2月15日正午に公表されました。
■現行のイムノクロマトグラフィ(ICG)のマーカーとして用いられている金属ナノ粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察・カウンティングする新型コロナウイルス検査法を確立しました。
■浜松医科大学発の NanoSuit 法の特徴を用いて、ICG が有する簡便かつ迅速であるという長所を活かしたまま、実効的にRT-PCR法と同等の高感度な検査法の確立に成功しました。
■本法は、RT-PCR 検査法と共に、医療現場などで必要な高感度・迅速検査法として「withコロナ」社会のニーズに即した健康管理技術として用いることが可能です。
※本研究成果は、国際学術誌「Biomedicines」オンライン版に日本時間 2月15日正午に公表されました。
<概要>
浜松医科大学は、浜松市、(株)日立社会情報サービス、NanoSuit(株)、浜松医療センター の協力、(株)タウンズとの共同研究のもと、既存のイムノクロマトグラフィ(抗原検査)キ ットに対し新検査法を開発し、新型コロナウイルスの高感度化検証実験を実施しました。 新型コロナ感染をはじめとして、多くの感染症において感染爆発時の社会的・経済的な負担は膨大なものになります。簡便かつ迅速性がある抗原定性検査は、世界的にも広く活用され、社会の大きな安心につながっています。
しかし現行の抗原定性検査の感度は、PCR の感 度に比べて劣るとされ、世界中で PCR 検査が優先されてしまう傾向にあります。ところが PCR 検査は、検査時間が長く、コストが高く、検査に要する技術者不足という問題とともに、遺伝子増幅による高感度化によって感染陽性判定と感染性の齟齬が生じるという懸念があります。社会の経済活動継続と感染抑制の両立を図ることのできる適切な検査法が求められています。
浜松医科大学は、卓上 SEM とナノスーツ法を組みあわせ、新型コロナウイルス患者検体と 通常の市販イムノクロマトグラフィキットを検査資材として用いることで、PCR の問題を克服し、PCR に匹敵する高感度の結果を引き出せることを確証しました。この成果はスイス MDPI 社の国際学術誌「Biomedicines」オンライン版に、2月15日に公表されました。
人類は常にパンデミックの脅威にさらされており、新型コロナウイルス感染者は世界中で4 億人を超えました。このような感染症の蔓延を防ぐため、早期診断検査は常に求められています。PCR では検査結果取得まで時間がかかり、特に救急現場など迅速性を求められる状況での利用に難があります。
一方、イムノクロマトグラフィは操作が簡便かつ迅速で、現場の医療従事者が検査可能な非常に便利な検査ツールですが、PCR より感度が劣っていました。 近年、我々は、「生物機能の高度活用技術」の一つとして、生物試料を「生きたまま・濡れたまま」高真空を必要とする電子顕微鏡で観察できる NanoSuit®法を確立しました。 NanoSuit®溶液を塗布するだけの操作なので、より簡便・迅速に多くの試料をそのまま電子顕微鏡で観察することができるようになりました。この技術の特徴は、試料にバリア性能と導電性と洗浄効果を付与するという点です。この極簡単な操作により、既存のイムノクロマト グラフィキットの金属粒子を電子顕微鏡で観察できるのです。
本実証実験では浜松医科大学光尖端医学教育研究センターナノスーツ開発研究部と附属病院検査部、浜松医療センターが協力して、新型コロナウイルス疑い患者に対してイムノクロ マトグラフィと PCR 検査を同時に行いました。抗原検査と PCR 検査の結果の相関性を、世界最高感度でイムノクロマトグラフィ法であるナノスーツ法-卓上電子顕微鏡を用いて調べました。その結果、我々の方法を用いることで、通常の市販の新型コロナウイルス検査用イムノクロマトグラフィキットでも、迅速にPCRに匹敵する高感度な検査を実施できることがわかりました。
<研究手法・成果>
・期間 :2020年12月〜2021年10月
・場所 :浜松医科大学(静岡県浜松市東区半田山1-20-1)
・検証対象者 :浜松医科大学・浜松医療センターの新型コロナウイルス感染疑いの外来・入院患者
・実施主体 :浜松医科大学 光尖端医学教育研究センターナノスーツ開発研究部
・協力団体 :浜松市、(株)日立社会情報サービス、NanoSuit(株)、浜松医療セン ター
・共同研究団体 :(株)タウンズ
その結果、定量性がありかつ感度向上を認めることが確認できました(全体では肉眼診断は43.3%、電子顕微鏡診断では86.7%の陽性感度)。肉眼診断より最高 500-1000 倍程度の大幅な感度向上を認めました。特に低コピー数 (Ct 値 30.0〜40.0) の範囲で肉眼診断では判定不能(感度 0%)な検体に対し、電子顕微鏡診断では感度73.3%と差は顕著となりました。
これは感染性のある患者を検出するPCR 診断とほぼ同等の検出能力を有していることになり、理論上も実践上でもイムノクロマトグラフィの最高感度です。この新たな技術を社会実装することで、イムノクロマトグラフィの迅速性を救急現場や入管検査で利用することは勿論、PCR 法や ELISA 法などと併用することで、罹患者への貢献はもとより、地域や国内外の社会免疫 の広がりよりを知ることもでき、安心・安全な社会の構築に役立つことができると期待されます。
<今後の展開>
将来的には新型コロナウイルスをはじめ、それ以外の感染症や、他の疾患に対する抗原検 査にこの技術が応用できるように、各社と協力して技術開発を進めていく予定です。この簡便かつ高感度な検査方法は、開業医、薬局などで、高感度抗原検査サービスとして展開されていく可能性があります。
<発表雑誌>
Biomedicines
<論文タイトル>
Highly sensitive and quantitative diagnosis of SARS-CoV-2 using a gold/platinum particle-based lateral flow assay and a desktop scanning electron microscope
<著者>
Hideya Kawasaki, Hiromi Suzuki, Kazuki Furuhashi, Keita Yamashita, Jinko Ishikawa, Osanori Nagura, Masato Maekawa, Takafumi Miwa, Takumi Tandou, and Takahiko Hariyama
<報道解禁日時>
日本時間 2 月 15 日(火)正午から掲載可能(紙面では 2 月 16 日朝刊以降)
<本件に関するお問い合わせ先>
浜松医科大学 光尖端医学教育研究センター ナノスーツ開発研究部 河崎秀陽 TEL/FAX 053-435-2504 090-2921-0011 Mail: gloria@hama-med.ac.jp
<用語解説>
浜松医科大学は、浜松市、(株)日立社会情報サービス、NanoSuit(株)、浜松医療センター の協力、(株)タウンズとの共同研究のもと、既存のイムノクロマトグラフィ(抗原検査)キ ットに対し新検査法を開発し、新型コロナウイルスの高感度化検証実験を実施しました。 新型コロナ感染をはじめとして、多くの感染症において感染爆発時の社会的・経済的な負担は膨大なものになります。簡便かつ迅速性がある抗原定性検査は、世界的にも広く活用され、社会の大きな安心につながっています。
しかし現行の抗原定性検査の感度は、PCR の感 度に比べて劣るとされ、世界中で PCR 検査が優先されてしまう傾向にあります。ところが PCR 検査は、検査時間が長く、コストが高く、検査に要する技術者不足という問題とともに、遺伝子増幅による高感度化によって感染陽性判定と感染性の齟齬が生じるという懸念があります。社会の経済活動継続と感染抑制の両立を図ることのできる適切な検査法が求められています。
浜松医科大学は、卓上 SEM とナノスーツ法を組みあわせ、新型コロナウイルス患者検体と 通常の市販イムノクロマトグラフィキットを検査資材として用いることで、PCR の問題を克服し、PCR に匹敵する高感度の結果を引き出せることを確証しました。この成果はスイス MDPI 社の国際学術誌「Biomedicines」オンライン版に、2月15日に公表されました。
<研究の背景>
人類は常にパンデミックの脅威にさらされており、新型コロナウイルス感染者は世界中で4 億人を超えました。このような感染症の蔓延を防ぐため、早期診断検査は常に求められています。PCR では検査結果取得まで時間がかかり、特に救急現場など迅速性を求められる状況での利用に難があります。
一方、イムノクロマトグラフィは操作が簡便かつ迅速で、現場の医療従事者が検査可能な非常に便利な検査ツールですが、PCR より感度が劣っていました。 近年、我々は、「生物機能の高度活用技術」の一つとして、生物試料を「生きたまま・濡れたまま」高真空を必要とする電子顕微鏡で観察できる NanoSuit®法を確立しました。 NanoSuit®溶液を塗布するだけの操作なので、より簡便・迅速に多くの試料をそのまま電子顕微鏡で観察することができるようになりました。この技術の特徴は、試料にバリア性能と導電性と洗浄効果を付与するという点です。この極簡単な操作により、既存のイムノクロマト グラフィキットの金属粒子を電子顕微鏡で観察できるのです。
本実証実験では浜松医科大学光尖端医学教育研究センターナノスーツ開発研究部と附属病院検査部、浜松医療センターが協力して、新型コロナウイルス疑い患者に対してイムノクロ マトグラフィと PCR 検査を同時に行いました。抗原検査と PCR 検査の結果の相関性を、世界最高感度でイムノクロマトグラフィ法であるナノスーツ法-卓上電子顕微鏡を用いて調べました。その結果、我々の方法を用いることで、通常の市販の新型コロナウイルス検査用イムノクロマトグラフィキットでも、迅速にPCRに匹敵する高感度な検査を実施できることがわかりました。
<研究手法・成果>
・期間 :2020年12月〜2021年10月
・場所 :浜松医科大学(静岡県浜松市東区半田山1-20-1)
・検証対象者 :浜松医科大学・浜松医療センターの新型コロナウイルス感染疑いの外来・入院患者
・実施主体 :浜松医科大学 光尖端医学教育研究センターナノスーツ開発研究部
・協力団体 :浜松市、(株)日立社会情報サービス、NanoSuit(株)、浜松医療セン ター
・共同研究団体 :(株)タウンズ
45人の新型コロナウイルス感染疑い患者から88検体を採取し、肉眼診断とNanoSuit電子顕微鏡診断とRT-PCR診断法を用いて比較しました。新型コロナウイルスイムノクロマトグラフィ臨床検体を、ナノスーツ法を用いて安定化させ、テストライン上にある金粒子数を電子顕微鏡でカウント後、background 粒子数との差を統計処理し陽性判定をおこないました。
その結果、定量性がありかつ感度向上を認めることが確認できました(全体では肉眼診断は43.3%、電子顕微鏡診断では86.7%の陽性感度)。肉眼診断より最高 500-1000 倍程度の大幅な感度向上を認めました。特に低コピー数 (Ct 値 30.0〜40.0) の範囲で肉眼診断では判定不能(感度 0%)な検体に対し、電子顕微鏡診断では感度73.3%と差は顕著となりました。
これは感染性のある患者を検出するPCR 診断とほぼ同等の検出能力を有していることになり、理論上も実践上でもイムノクロマトグラフィの最高感度です。この新たな技術を社会実装することで、イムノクロマトグラフィの迅速性を救急現場や入管検査で利用することは勿論、PCR 法や ELISA 法などと併用することで、罹患者への貢献はもとより、地域や国内外の社会免疫 の広がりよりを知ることもでき、安心・安全な社会の構築に役立つことができると期待されます。
<今後の展開>
将来的には新型コロナウイルスをはじめ、それ以外の感染症や、他の疾患に対する抗原検 査にこの技術が応用できるように、各社と協力して技術開発を進めていく予定です。この簡便かつ高感度な検査方法は、開業医、薬局などで、高感度抗原検査サービスとして展開されていく可能性があります。
<発表雑誌>
Biomedicines
<論文タイトル>
Highly sensitive and quantitative diagnosis of SARS-CoV-2 using a gold/platinum particle-based lateral flow assay and a desktop scanning electron microscope
<著者>
Hideya Kawasaki, Hiromi Suzuki, Kazuki Furuhashi, Keita Yamashita, Jinko Ishikawa, Osanori Nagura, Masato Maekawa, Takafumi Miwa, Takumi Tandou, and Takahiko Hariyama
<報道解禁日時>
日本時間 2 月 15 日(火)正午から掲載可能(紙面では 2 月 16 日朝刊以降)
<本件に関するお問い合わせ先>
浜松医科大学 光尖端医学教育研究センター ナノスーツ開発研究部 河崎秀陽 TEL/FAX 053-435-2504 090-2921-0011 Mail: gloria@hama-med.ac.jp
<用語解説>
- イムノクロマトグラフィ:毛細管現象を用いた物質の分離と抗原抗体反応を組合せた迅速検査 (診断)の手法の 1 つ。インフルエンザの診断や妊娠検査薬など多様な検査に幅広く応用されている。いくつかの企業が、新型コロナウイルス(2019-nCoV/SARS-CoV-2)に対して、イムノクロ マトグラフィによる迅速診断キットを開発した。膜の端に測定試料を滴下すると、毛細管現象によって、もう一端に向かって広がっていく。測定試料中に抗原が存在すれば、抗原と標識抗体が免疫複合体を形成しながら移動し、膜上に固定されたキャプチャー抗体に捕捉されることで直線状に発色する(テストライン)。その後、抗原と反応しなかった標識抗体が、標識抗体に対する 抗体と反応することで直線状に発色すれば(コントロールライン)、検査が正しく実施されたと判断される。テストライン上の抗原抗体反応を直接電子顕微鏡で観察できれば、高感度な検査法となる。
- NanoSuit®法: 「ナノスーツ」法と呼ぶこのコーティング技術は、食品添加物の一種と化学的に類似した生体適合性物質を使うもので、NanoSuit®溶液を一滴加えるという極簡単な処理でナノメートル単位の薄さで柔軟性のある膜を形成して生体試料を保護する。電子顕微鏡がとらえる 電子の後方散乱を妨げることなく、生体内の水分の放出を抑制し、かつ導電性を付与する。従来の実験方法は、生物試料を化学固定した後、形をできるだけ維持する乾燥法により試料内部の液体成分を除去したのち、導電性を付与するために試料表面に金やオスミウムなどでコーティング をして観察していた。この従来法は、時間がかかるだけでなく、注意深く作業を行っても体内に水分が多い材料では変形をなかなか防ぐことができず、高倍率で観察すると未処理の変形に比べ て少ないとはいえ、微細構造に多くのアーチファクト(人工的に変形した構造)が観察されていた。たとえばボウフラを従来法で観察するとシワシワの微細構造が観察されたが、ナノスーツ法を用いて電子顕微鏡内で生きたままのボウフラを観察すると整然と並んだ蛇腹構造が観察された。つまり、従来法の電子顕微鏡観察では、その処理に時間がかかるだけでなく、処理による変 形を観察していた可能性がある。ナノスーツ法で観察すれば、数分間の処理で変形のほとんどない姿を観察することができる。本法は、導電性も付与できるので、ナノスーツ_イムノクロマト電子顕微鏡法として活用できる。
- Ct 値: Threshold Cycle 値の略で、反応の蛍光シグナルが Threshold Line と交差する時点のサイクル数を示す。Ct 値はターゲット(目的とする核酸)の初期量に反比例するため、DNA の初期コピー数の算出に使用できる。PCR 検査におけるCt 値が小さいほど、ターゲット量は多い。新型コロナウイルスの検査では、Ct 値を上げないとターゲットが検出されにくい場合、咽頭などから採取した検体中のウイルスの含有量が少ないと考えられる。一方、Ct 値を上げて増幅すれば高感度になる反面、ターゲット以外の信号をターゲットが存在すると判定してしまう危険性もある。
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