【台湾情報】参入分野は半導体からEVまで、ハイテク職人の精鋭科技(アペックス・ダイナミックス)<ワイズ機械業界ジャーナル2023年5月第1週号発行>
〜台湾機械・エネルギー・電子・自動車業界の最新動向を分析する〜
ワイズコンサルティング グループ(本社:中華民国台北市、代表取締役:吉本康志)は台湾機械業界専門誌「ワイズ機械業界ジャーナル」の2023年5月第1週号を発行しました。今週号では機械伝動業界、医療器材業界、機械業界企業とエネルギー業界の動向を紹介します。
<参入分野は半導体からEVまで、ハイテク職人 精鋭科技(アペックス・ダイナミックス)>
中部科学園区(中科)に本社を置く台湾精鋭科技(アペックス・ダイナミックス)は、遊星歯車減速機の世界市場でトップの座を争う「隠れたチャンピオン(hidden champions)企業」だ。製品の品質が高く、かつそれほど高価格ではないという強みを生かし、半導体、液晶パネル、電気自動車(EV)分野に参入し、毎年、大幅な業績成長を実現している。このような好業績を挙げられるようになったきっかけは、20年前に張重興董事長がドイツ人に抱いた怒りだった。
アペックスの中科工場内には、一年を通じて一定の温度が保たれる実験室があり、そこでは所狭しと並べられた高価なドイツ製の計測機器でギアの精密度を測定している。「これらギアを加工する際の公差は3マイクロメートル以下です」──アペックスの郭総経理は機器の上で検査を待つ、かさ歯車(ベベルギア)を見つめながら、製品に誤差が生じれば、ネットワークでつながった生産ライン装置が自動的に修正されると説明した上で、「われわれはハイテクな職人なんです」と半分まじめな顔で冗談を口にした。
髪の毛の直径は100ミリメートル未満誤差の小ささが髪の毛の数十分の一というこのギアは、アペックスの主力製品、遊星歯車減速機の50ある部品の一つに過ぎない。
一個のギアにまで、人間の肉眼では見ることのできないレベルのこだわりを堅持することでアペックスは台湾トップクラスの遊星歯車減速機メーカーに成長し、世界での舞台でも最大手のドイツ、ヴィッテンシュタイン社に迫る地位に付けており、中部工場から世界に向けて毎年、45万個以上の減速機を出荷している。アペックスの売上高構成比は、半導体、液晶パネル、医療設備、工作機械の生産ライン向け減速機が80%以上を占めている。
モーター用減速機の隠れたチャンピオン
アペックスは当初、減速機ではなくプラスチック射出成形作業用のロボットアームを製造していた。ロボットアームは各軸にモーターの駆動力を必要とし、そのモーターの動力を高い精度で伝えるためには減速機が欠かせなかった。
独メーカーの納期にがまんできず自ら製造
「17、8年前、減速機市場はヴィッテンシュタイン社がほぼ独占していた」と郭総経理は話す。同社の製品は品質が良いため価格も高かったが、アフターサービスの反応が遅く、納期は半年にも達していた。これに業を煮やした張董事長は、自分たちで作った方が早いと判断したのだった。
当時、台湾で減速機を手掛けるメーカーは存在せず、ましてや高い精度が求められる生産ライン専用の遊星歯車減速機などは言わずもがなだった。遊星歯車減速機は位置決め精度が要求される生産ラインで利用されることが多く、製造の難易度が高い。
強みその1:スピード
アペックスが高い経営効率を実現した鍵は、業界の常識に反する2つの戦略「高い在庫水準」と「外部委託への低依存」だった。同社の在庫回転日数は同業の実に2倍以上に上る。一般の投資者やビジネス・マネジメントの教科書的には「どうしてこれほどの在庫を抱えるのか?」となるだろう。しかし、業界が追求するトヨタ式の在庫をなくすマネジメント手法に対し、郭・総経理は「在庫水準を高めることで素早い納品が可能となり、すぐに販売できる」と、異議を唱える。
かつての顧客は、減速機は部品が多いことを理由にドイツメーカーの納品が遅いことに理解を示していた。一方でアペックスは素早く出荷できるよう、工場内に大量の半製品と精度の高い部品を常備した。同社の戦略は、受注規模を大きく上回る生産能力を用意して素早く出荷し、売り上げに変えるというもので、郭・総経理は「われわれは『受注見通しが何カ月』といった言い方はしない」と語る。スピーディーで品質が良いため、ディーラーへの返品率は1%以下にとどまっている。このことがわずか40日前後という、業界でも突出した売掛金回収日数の少なさにつながっている。
強みその2:部品の自社製造
アペックスでは部品のほとんどを自社製造している。郭総経理は「オイルシールとベアリングを除き、われわれは全ての工程を自ら手がけているため、ギアメーカーとも言える」と語る。その上で、業界では部品、特に大量に必要となるギアは外部に発注するのが通例となっていることに対し、「一定の水準を保ったまま量産しようと思った場合、技術力を備えていれば外部からの影響を受けにくくなる」と強調する。
ドイツのベルリン工科大学で工学博士号を取得した郭総経理は、「われわれは合金材料を調達し、その金属強度を精密加工に必要なレベルに高めるため、自ら熱処理を行っている」と語り、技術者としてのこだわりを見せる。
垂直統合を進めることで製品の品質管理を徹底し、さらに極めて短い納期を打ち出すことでアペックスは十数年の間に急速にシェアを拡大、ヴィッテンシュタインのお膝元、欧州市場に参入したほか、韓国市場でシェア1位、日本市場でもシェア2位の地位に付けている。
郭総経理は「減速機はインダストリー4.0(第4次産業革命)やスマートマニュファクチャリングの基礎となる部品だ」と指摘し、台湾で新設される半導体工場やドイツの巨大EV工場の生産ラインから餃子を作るための食品加工機や高速印刷機、遊園地のプールに導入されている波製造装置まで、至るところにアペックスの減速機が使用されていると胸を張る。(後略)
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