ZOZOSUITⓇを用いたリンパ浮腫四肢測定
ZOZOSUITⓇで高精度かつ短時間で簡易に四肢測定を実現
■3D計測用ボディスーツZOZOSUIT®と検証用に開発したリンパ浮腫専用のスマートフォンアプリを用いた四肢周径測定が、リンパ浮腫の評価システムとして有用である可能性が示唆されました。
■本デバイスを用いた四肢周径測定は、精度が高く、従来の手計測に比べ短時間で簡易に測定できる画期的な方法です。
■本技術を応用することで、検査者なしに非侵襲的に自宅で繰り返しおこなえるリンパ浮腫評価システムの実用化への貢献が期待されます。
*ZOZOSUITは株式会社ZOZOの登録商標です。
<発表概要>
公益財団法人がん研究会 有明病院(所在地:東京都江東区、病院長:佐野 武)形成外科の辛川領、矢野智之と株式会社ZOZO(本社:千葉県千葉市 代表取締役社長兼CEO:澤田 宏太郎)は、共同研究により、同社が開発した3D計測用ボディスーツZOZOSUIT®と検証用に開発したリンパ浮腫専用のスマートフォンアプリを用いて、がん術後の二次性リンパ浮腫患者(ISL分類I~IIb期)(注1)の四肢周径測定が可能かの検討を行いました。その研究成果として、同デバイスを用いた四肢周径測定がリンパ浮腫の評価システムとして有用である可能性が示唆されました。今回の研究成果は、辛川らによりAnnual meeting of American Society of Reconstructive Microsurgery(米国再建マイクロサージャリー学会)(2024年1月12日~1月16日)で発表されました。
日本で推定15万人以上の発症者がいると言われている「リンパ浮腫」は、重症化を防ぐために早期発見と早期かつ適切な介入が重要です。しかし、患者数に対してリンパ浮腫を診察可能な施設は少なく、本来介入されるべき早期例や軽症例のリンパ浮腫患者に介入が行き届いていないという問題があります。
今回のZOZOSUIT®を用いた新たな方法では、簡易に短時間で、かつ、精度が高く測定できるため、リンパ浮腫の評価システムとして有用である可能性が示唆されました。本技術を応用することで、検査者なしに非侵襲的に自宅で繰り返しリンパ浮腫の治療効果判定、早期発見、早期介入を可能にする新規診断ツールの開発につながることが期待されます。
<発表内容>
(1)研究の背景:
リンパ流の鬱滞によって四肢に浮腫が生じる疾患「リンパ浮腫」(図1)のうち、 日本国内において、主に乳癌、婦人科癌術後のリンパ浮腫は増加しており、推定15万人以上いると言われています。進行すると患肢の体積や重さが増大し、感染を繰り返すようになり、QOL(Quality of Life)を低下させる慢性進行性疾患です。リンパ浮腫は一度発症すると全例に有効な根治療法は現状なく、進行を防ぐために弾性着衣に代表される保存療法や手術療法の併用が必要です。
重症化を防ぐためには、早期発見、早期介入、適切な介入が重要です。一方、患者数の割にリンパ浮腫を診察可能な施設は少なく、本来介入されるべき早期例や軽症例のリンパ浮腫患者に介入が行き届いていないという問題があります。
こうした背景からリンパ浮腫患者の重症化を防ぐために、そしてリンパ浮腫診療の効率化を目指し、「簡易で精度高く評価できる、リンパ浮腫評価システムの開発」が必要とされていました。
(2)研究の内容:
今回、研究チームは株式会社ZOZOとの共同研究により同社が開発した3D計測用ボディスーツZOZOSUIT®と検証用に開発したリンパ浮腫専用のスマートフォンアプリを用いて、がん術後の二次性リンパ浮腫患者(ISL分類I~IIb期)の四肢周径測定が可能かの検討を行いました。被験者はZOZOSUIT®を装着した状態で、1.5m離した位置に設置したスマートフォンのアプリの指示に従い、30°ずつ向きを変えていき、12枚の写真を撮影します。撮像した12枚の写真からアプリ内で自動的に体表の3Dモデルが生成され、このモデルから取得したリンパ浮腫診療で重要な測定点の周径測定値を抽出します。今回の研究では、このシステムを用いた方法の反復測定の精度検証や、従来のリンパ浮腫治療従事者による手計測との周径測定値や計測時間の比較を行いました。反復測定における全測定点の平均誤差が10mm未満で、従来の測定方法との平均絶対誤差は概ね20mm未満でした。さらに、このシステムによる測定時間は、手計測に比べ、有意に短いものでした(86秒vs.235秒, p<0.001)。精度が高く、短時間で簡易に測定できるため、リンパ浮腫の評価システムとして有用である可能性が示唆されました。
(3)今後の展望:
研究の結果から、本技術を応用することで、将来的には検査者なしに非侵襲的に自宅で繰り返しリンパ浮腫の治療効果判定、早期発見、早期介入を可能にする新規診断ツールの開発につながることが期待されます。さらには、本システムを用いた精度の高いデータ蓄積から、未解決課題の多いリンパ浮腫治療におけるエビデンスの構築につながる可能性もあります。実用化にむけてはまだ課題もありますが、本技術を応用したリンパ浮腫評価システム開発が可能となれば、重症化されるまで見逃されていたリンパ浮腫患者を適切なタイミングで検知・医療機関に誘導できる、リンパ浮腫治療の遠隔診療が可能となる、などの患者への恩恵が期待されます。大掛かりな手術治療を回避することができる症例が増えることは患者へのメリットのみならず、医療経済的なメリットにも繋がると考えられます。
<共同研究について>
本研究は、公益財団法人がん研究会 有明病院と株式会社ZOZOの共同研究により実施されました。
研究課題名:リンパ浮腫における、採寸用ボディスーツおよびスマートフォンを用いた、四肢周径測定方法の実行可能性および有用性の検討
研究代表者名(所属機関名):辛川 領 (有明病院形成外科・副医長)
研究チーム:
公益財団法人がん研究会 有明病院
形成外科
矢野智之(部長)
吉松英彦(副部長)
リンパケアルーム
小笠原麻衣子(セラピスト)
宇津木久仁子(室長)
株式会社ZOZO
川端医院
<用語解説>
(注1)ISL分類I~IIb期:国際リンパ学会(International Society of Lymphology: ISL)分類。
0期:リンパ液輸送が障害されているが、浮腫が明らかでない潜在性または無症候性の病態。
I期:比較的蛋白成分が多い組織間液が貯留しているが、まだ初期であり、四肢を挙げることにより治る。圧痕がみられることもある。
IIa期:四肢の挙上だけではほとんど組織の腫脹が改善しなくなり、圧痕がはっきりする。
IIb期:組織の繊維化がみられ、圧痕がみられなくなる。
III期:圧痕がみられないリンパ液鬱滞性象皮病のほか、アカントーシス、脂肪沈着などの皮膚変化がみられるようになる。
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