パレスチナ:ヨルダン川西岸でも紛争の影響――心理ケアのニーズ高まる
ヨルダン川西岸地区では、2014年6月にユダヤ人入植者の少年3人の拉致事件が発生。イスラエル軍が地区全域で数百件に及ぶ家宅捜索や逮捕を展開し、今回の紛争へと事態が悪化した。地区内では、イスラエルへの抗議活動に参加している人びとに対し暴力的な取り締まりが行われており、多数の死傷者が出ている。その結果、住民の精神状態は一層、損なわれている。
ヘブロンでMSFプログラム責任者を務めるスリジータ・ヴェルマは「MSFは、強制的な家宅捜索、殴打、暴力を伴う逮捕などの侵害行為を目撃しています。暴力が過熱し、住民の生活に深刻な影響を及ぼしています」と証言する。
MSFは6月18日、ヘブロンに拠点を置く心理ケア・プログラムの一環で、心理ケアの緊急対応を開始した。地区内では、長期の占領状態と日常的な暴力に阻まれ、心理ケアのニーズに対し、提供はわずかだった。一方、住居侵入、逮捕、抗議活動時の負傷が増加していることで、心理ケアのニーズもはさらに高まっている。
ヘブロンでは、MSFの心理ケアを受けている患者の多くが子どもだ。親の逮捕や自宅の破壊といった暴力を目撃したことでショック状態に陥ったり、夜間に家宅捜索を受ける恐怖から睡眠障害を抱えたりしている。
自宅にブルドーザーがやってきて……
ゼイナブ・サイード・ダヘルさんは、イスラ エルとパレスチナの支配地域の境に位置するハレト・アル・フルンの住民で、MSFの診療を受けている患者の1人だ。
「自宅から出ていくようにと言われ、軍用ジープとブルドーザーがやって来て、自宅を破壊されたのです。ユダヤ人少年拉致事件のあとから、こうしたことが始まりました。10年以上もここで暮らしてきたのに、なぜ今になって家を壊されなければならないのでしょう」
アルーブ難民キャンプに滞在しているナセル・ムハマド・マフムドさんは「兵士たちは、石を投げる住民に対してではなく、住宅に向けて銃を撃っています。私たちの家にも銃弾が撃ち込まれ、投げつけられた催涙ガスや音響爆弾で窓やドアが壊されました。妊娠中の妻と子どもたちは自宅を離れざるを得ませんでした」と話す。
ヨルダン川西岸地区では暴力的な状況が長期化し、人びとの心の傷が癒える間がない。MSFのヴェルマによると、6月半ばに訪れた場所では、心理ケアを求める人びとにMSFの車両が取り囲まれてしまうほどだったという。「人びとは、望みも救いも見出せず、ただ途方に暮れています」
【国境なき医師団/パレスチナでの主な活動】
国境なき医師団Fは1989年からパレスチナで継続的に活動。度重なる緊急事態に対応し、ヨルダン川西岸地区およびガザ地区の複数の場所で無償の医療や心理ケアを提供している。2001年以降は、ヘブロンで医療・社会支援両面の要素を盛り込んだ心理ケア活動も行っている。ガザ地区では、MSFは10年以上活動しており、内科・外科診療および心理ケアを提供。2009年および2012年の紛争の際にも援助活動を行っている。
ガザ地区での紛争では、地区内のシファ病院へ外科チームを派遣、緊急医療用機器の提供、ガザ地区北部と南部の中央薬局への物資援助などを展開している。ただ、MSFが運営するガザ市内の術後ケア施設の稼働率は現在、通常の1~3割程度にとどまっている。激しい爆撃によって患者が通院をためらっているためだ。また、ハン・ユニス市にあるナセル病院での医療援助は、今回の武力紛争で一時停止を余儀なくされている。
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