弱肉強食、優生思想……誤解され、誤読されることが多いダーウィンの進化論。「生物学」の扉を開いた不朽の名著『種の起源』を進化生物学者、長谷川眞理子氏が読み解き、そこから花開いた生物学の発展も見渡す!
『NHK「100分de名著」ブックス ダーウィン 種の起源 未来へつづく進化論』が8月25日に発売
著者・長谷川眞理子氏による「はじめに」から、本書の読みどころを紹介します。
- 本書「はじめに」より
しかしこの本は、ダーウィンが自分の理論を証明するために、可能な限り数多くの事例を挙げて説明を試みていることから、冗長でまわりくどい文章になり、生物学に馴染みのない人にとっては読みにくく感じるかもしれません。また当時は、遺伝子の仕組みなどについては解明されていなかったため、間違った記述も少なからず見受けられます。そのためでしょうか、今ではダーウィンの著書を実際に読んだ人はあまり多くないと思います。
さらに残念なことには、「生存競争と自然淘汰の中で生物は徐々に変化していく」というダーウィンの考え方を「弱肉強食の論理」だと思っている人が非常に多いのです。なかには、ナチス・ドイツが提唱した優生思想(ユダヤ人差別)と進化論を結びつけて、人種差別を助長する論理だと勘違いする人までいる始末です。
これでは、ダーウィンが浮かばれません。『種の起源』をじっくり読んでいけば、それらの見方が表層だけをとらえた、とんでもない誤解であることがわかるはずです。ダーウィンは決して弱者を排除しようとしていたわけではないし、戦いを肯定していたわけでもなく、生物に関する科学的な法則を見つけようとしていました。逆に彼は、価値観という点では人種差別、奴隷制度の反対論者で、ミミズであろうともヒトであろうとも、すべての生き物は、上も下もなく平等であり、生き物は多様性があるからこそ素晴らしい──と考えていました。本書では、「進化とは何か?」について知っていただくとともに、ダーウィンと『種の起源』に対する誤解を解くことに主眼を置きたいと思います。
ダーウィンによる進化論は決して過去の理論などではありません。本のなかにちりばめられた疑問のなかには、未だ解き明かされていないものも多く、想像力が刺激されます。さらには、ダーウィンが仮説を立ててそれをさまざまなデータから証明していくくだりには、推理小説を読むような面白さがあります。それをみなさんに少しでも伝えることができましたら、ダーウィンの研究者として、またダーウィンのファンの一人として、これほどうれしいことはありません。
本書は、ダーウィンが著した『種の起源』という著作の内容がどんなものであり、ダーウィンがどのように考えて進化論を組み立てたかについて述べています。本書の第4章では、そうやってダーウィンが撒いた種から発展して、現代の進化生物学がどのような状況になっているか、いくつかの話題を取り上げて解説しました。また、最後のブックス特別章では、今の私たちの生物進化の理解とダーウィンの理解との間に、とくに大きなギャップが見られる話題を取り上げました。
ダーウィン自身の構想の大きさ、深さとともに、ダーウィン以後、進化生物学が明らかにしてきた生物の世界の面白さをじっくり味わっていただければと思います。
【本書の構成】
はじめに 生き物の多様性こそすばらしい
第1章 「種」とは何か?
第2章 進化の原動力を解き明かす
第3章 「不都合な真実」から眼をそらさない
第4章 進化論の「今」と「未来」
ブックス特別章 『種の起源』が開いた扉
読書案内
あとがき
■商品情報
出版社:NHK出版
発売日:2020年8月25日
定価:本体1000円+税
判型:四六判
ページ数:142ページ
ISBN:978-4-14-081826-8
URL:https://www.amazon.co.jp/dp/4140818263/
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