台湾文化センター 台湾映画上映会 映画『春行』トークイベントレポート
大阪アジアン映画祭で話題となった、妻の遺体を冷凍庫で保存しようとする夫と、その家族の姿を16㎜フィルムの美しい映像で綴った『春行』は、新人監督による低予算のインディペンデント映画だが、世界4大映画祭のひとつサン・セバスティアン国際映画祭2023にて最優秀監督賞、シンガポール国際映画祭にて最優秀脚本賞、最優秀女優賞を受賞した注目作だ。
「台湾映画は活き活きした“サシミ”のよう!」
台湾ニューシネマの新たな継承者、女性監督たちが切り拓く新しい台湾映画の魅力とは─
「大阪アジアン映画祭で上映されましたが、今日が東京初上映です。今日、工藤監督とみなさんとお会いできてうれしいです。」と、オンライン登壇したワン・ピンウェン監督とポン・ズーフェイ監督が挨拶すると、会場から大きな拍手が起きた。ベルリン国際映画祭でワン監督とポン監督と知り合ったという工藤将亮監督は「台湾とは映画を通しての縁が多くあり、昔、台湾映画に助監督として参加したこともあります。いまは自分の映画の編集を台湾の方が担当して下さっています。台湾映画も大好きなので、今日はポン監督、ワン監督とオンラインで再会して交流することができてうれしいです。」と、再会を喜んだ。
「『春行』からは、日本映画が忘れてしまった風景や音の使い方が感じられました。何よりも滝、雨、蛇口という、水というモチーフは、ツァイ・ミンリャン監督の『愛情萬歳』『河』に通じるものを感じました」と工藤監督が自身もファンであるという、ツァイ・ミンリャン監督の作品に絡めた感想を述べた。ワン監督もポン監督もツァイ・ミンリャン監督は大好きだとし、「脚本は彫刻を削るようにそぎ落としながら、脚本家と3人で作りました。現場はとても流動的で、水のモチーフのシーンは、その場でその場で様々な要素取り入れていきました。冒頭の滝のシーンは、脚本の段階で宜蘭にある滝の写真を見せてもらって、取り入れたものです。撮影が冬の終わりから春にかけてという、雨の多い時期で、撮影の時に雨が降っていたら、そのまま雨のシーンにすることもありました。」と、余韻を残す印象的なシーンの数々の秘話を語った。
「以前、ホウ・シャオシェン監督が「映画は監督の人格に由来することがある。理論的というより抽象的に表現されるのが映画」と話していましたが、そうしたパーソナルな部分を表現しながら、共同監督することになった経緯が気になります。」と工藤監督。「私はジャーナリズムを学んだ後、アメリカで映画の勉強をしました。商業映画がメインでしたが、私はアート映画に興味があり、その時に芸術を専攻していたスペインから帰国したポンに出会いました。すぐに意気投合し、『春行』を一緒に撮ることになりました。いままでは製作の際にストーリーを重視していましたが、ポンの影響もあり、精神性を重視した作りになったと思います。」と、ワン監督が共同監督をした経緯を説明し、背景がちがうふたりだからこそ、奥行きのある作品ができたと語った。
Q&Aでは「台湾語を使用しているのはなぜか」との問いに、「本作は16 mmフイルム撮影も含め、時代と共に失われていくものを撮りたかったのです。私たちが子どもの頃は、両親の世代は台湾語を使っていましたが、戒厳令下において台湾語は学校で使用は禁止されており、いまは台湾語を使う人は少なくなっています。」と、失われていく記憶をフィルム撮影に収めたとポン監督が語った。「夫ではなく妻が突然亡くなる設定にした理由」については、「この家庭は感情的にも関係が崩れていたが、それを母親が中心的に繋ぎとめていました。父と息子の関係もあまりありません。それが母の死で父と息子の関係が絶たれてしまい、父親と息子、息子の彼氏との関係がどう紡がれていくのかも描きたかったのです。」とし、「父親役のシー・シアンはホウ・シャオシェン監督作品、母親役ヤン・クイメイはツァイ・ミンリャン監督やアン・リー監督作品にも出演しており、台湾ニューシネマを代表する俳優です。私たちは彼らを通して、台湾ニューシネマの作り手たちとの対話、連続性を示したかったのです。」と、ポン監督が台湾ニューシネマへの思いを述べた。
最後に台湾映画の魅力を問われると、「台湾映画の魅力は語り尽くせいないものがあります。アートの本質とは「問い」にある。作り手が観客に問いを投げかけ、それが深ければ深いほど、観客の心に刺さる。ジャーナリズムは社会の動き、人間を観察することからはじまり、真実を曲げずにシンプルに伝えることが根本にある。ワン監督、ポン監督の『春行』には、これらの観客の心に突き刺さり、読後感をもたらすものがありました。本当に台 湾映画が好きでたまらない」と、工藤監督が台湾映画への熱い思いを語った。
ワン監督は「台湾映画には命の哲学のようなものが描かれている」と述べると、ポン監督が「台湾映画は活き活きとしていて、人を惹きつける、まるでサシミよう!」と言うと、会場は大きな笑いと拍手に包まれた。
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