【震災10年】「東日本大震災」関連倒産、累計2000件超に 120カ月連続で発生、影響は今もなお残る

「直接被害型」の倒産、ピークより低下も10年目で4割を占める

株式会社帝国データバンク

東日本大震災の発生からまもなく10年となる。政府は、震災直後の2011年度からの5年間を「集中復興期間」、さらにその後5年を「復興・創生期間」として集中的な復興事業を推進し、再建に向けた取り組みが進められた。

その一方、震災による影響は津波により壊滅的な被害を受けた東北3県の太平洋沿岸部から始まり、国内サプライチェーンの寸断、相次ぐ自粛、東京電力福島第一原子力発電所事故による風評被害、取引先の被災による販路の喪失などで直接的に被害を受けなかった企業にも波及して全国各地に拡大。その結果、10年を経た今もなお東日本大震災の影響が残り倒産に至るケースも発生しており、震災により苦境に陥った企業の“復興”には厳しい道のりが続いている。
<調査結果(要旨)>
  1. 東日本大震災が発生した2011年3月から2021年2月までの10年のうち、震災被害が倒産の直接または間接的な要因となった「東日本大震災関連倒産」は2061件に達した。負債総額は累計1兆7143億円となった
  2. 過去10年の発生うち、累計件数で最も多かった業種は「サービス業」の463件だった。全業種中初めて400件に達した5年目をピークに、6年目以降は発生ペースが鈍化したが、件数では依然として多い
  3. 都道府県別の発生状況では、島根県を除く46都道府県で「東日本大震災関連倒産」が判明した。10年目累計で最も多かったのは「東京都」の478件で、以下「宮城県」(205件)、「茨城県」(122件)、「静岡県」(115件)と続いた。6年目以降、中部以西の西日本を中心に1件も判明しなかった県が散見されるなど、年数の経過とともに震災の影響は薄まる地域もある

震災関連倒産は10年間で累計2061件発生、「直接被害型」の割合が高まる

「東日本大震災」関連倒産 発生状況「東日本大震災」関連倒産 発生状況

東日本大震災が発生した2011年3月から2021年2月までの10年のうち、震災被害が倒産の直接または間接的な要因となった「東日本大震災関連倒産」は累計2061件に上った。負債総額は累計1兆7143億円となった。

最大震度7の大地震に加え、岩手・宮城・福島の3県沿岸部を中心に襲った巨大津波、福島第一原発における事故などで、直接・間接を問わず過去に類を見ない非常に広範囲な地域が甚大な被害を受けた。企業活動も例外でなく、工場など設備の損壊、従業員・取引先の被災などで事業継続がままならなくなった企業が続出し、震災発生直後から東北3県を中心に倒産が多く発生。震災1年目だけで513件に達し、1995年に発生した「阪神・淡路大震災関連倒産」の394件、「平成28年熊本地震関連倒産」の61件(件数はともに2月時点の累計)をも優に超え、5年目にかけては毎年100件超が発生した。

6年目以降は本格化した震災復興工事をはじめ、被災地域での生活再建、地域経済の再始動も背景に関連倒産は年々沈静化の傾向をたどり、10年目となる2021年(2020年3月-21年2月)では40件と、発生から10年で最も少なかった。
 

「直接被害型」の占める割合 経年変化「直接被害型」の占める割合 経年変化

ただ、震災関連倒産のうち地震や津波による建物の倒壊・喪失など「直接被害型」の倒産が占める割合は、震災直後に比べて大きく高まっているのが近年の傾向として挙げられる。1年目の9.2%から5年目以降急速に拡大し、ピークとなる8年目には全体の半数超(56.1%)を占めたほか、10年目でもなお4割を占めた。震災を乗り越え、グループ補助金など政府・自治体の経営支援も活用して工場や事業所などハード面は再建したものの、取引先の廃業、需要の低迷などで売り上げが当初の想定よりも下回ったことで次第に資金繰りが苦しくなり、最終的に経営が破綻するケースが多く、震災がもたらした影響は10年を経た今でも企業経営に色濃く影を落としている。こうした要因も背景に、東日本大震災関連倒産は発生から10年、120カ月連続で発生し続けている。


累計件数で最多は「サービス業」 「製造業」は6年目以降に増加、2番目の高水準

業種別 累計件数推移業種別 累計件数推移

過去10年の関連倒産のうち、累計件数で最も多かった業種は「サービス業」の463件だった。全業種中初めて400件に達した5年目をピークに、6年目以降は発生ペースが鈍化したが、件数では依然として多い。

次いで「製造業」の423件、「卸売業」の417件と続いた。当初は、流通網の寸断や取扱商材の風評被害、取引先の廃業などの理由で需要が急減し、中間流通を担う卸売業者での倒産が多く目立った。しかし、ここにきて東北地方を中心に製造業の件数が増加しており、10年目では累計件数で6件差ながらも卸売業を上回った。製造業では、被災地を中心に補助金などを活用して工場施設を再建させるなど、地域経済復興のシンボルとして再稼働したケースは多い。しかし、工場など大規模な施設の再建やベルトコンベアなど製造機器類の新造・調達には多額の資金が必要となるなか、復興後の需要回復を見越してその大部分を借入金で賄った企業を中心に、当初の計画通りに売り上げが確保できなくなる一方で借入金の返済負担が次第に重くのしかかり、最終的に自力での経営再建や事業継続を諦めるケースが、震災から年数を経て特に目立ち始めている。
 

業種細分類別 累計件数推移業種細分類別 累計件数推移

10年間累計の業種細分類別トップは「ホテル・旅館」(134件)となった。地震・津波による宿泊施設の流失や損壊、観光客減少による客室稼働率の低下などを受け、借入金の返済猶予など資金繰り支援を受けつつも抜本的な収益環境の改善には至らず倒産に陥るケースが多く、震災から10年を経てなお多く推移している。以下、荷動きや取引先の減少などに見舞われた「一般貨物自動車運送」(51件)、震災直後の資材調達難といった影響を強く受けた「木造建築工事」(50件)、特に被災地の主力産業である一方、不漁や需要低迷などで業況の回復が鈍い「生鮮魚介卸」(38件)などが続く。




太平洋沿岸を中心に多く発生、6年目以降の5年間で最も発生件数が増加したのは「宮城県」
都道府県別の発生状況では、島根県を除く46都道府県で「東日本大震災関連倒産」が判明した。10年間累計で最も多かったのは「東京都」の478件で、以下「宮城県」(205件)、「茨城県」(122件)、「静岡県」(115件)と続いた。地震や津波の被害を直接的に受けるなど影響が極めて大きかった太平洋沿岸の県では、震災10年を経過してなお倒産が多発する一方、中部以西の西日本地域では5年間で1件も判明しなかった県が散見されるなど、年数の経過とともに震災の影響が薄まる地域もあり、エリアによって動向には差がみられる。

このうち、6年目以降の増加件数をみると10件以上増加したのは6都県に上り、最も増加したのは「宮城県」(5年目:145件→205件、60件増)だった。震災10年目で200件に達し、発生件数も増えるなど発生ペースは依然として衰えがない。以下、「東京都」(437件→478件、41件増)、「福島県」(55件→89件、34件増)と続いた。

都道府県別 都道府県別 発生件数都道府県別 都道府県別 発生件数

新型コロナなど経営環境に厳しさ増すなか、「息切れ型」の倒産再増を懸念
東日本大震災に起因する関連倒産は年々沈静化に向かっており、10年目となる2020年3月~21年2月までの1年間では40件と、1年目の513件に比べて1割未満の水準に減少した。しかし、震災から10年を経てなお未だ1件も判明しなかった月はなく、関連倒産は月平均3~4件のペースで発生するなど、震災による影響が未だに燻る現状がある。

この間、経営を再建させ事業を軌道へ乗せることに成功した被災企業がある一方、震災以降経営を立て直すことができずに行き詰った企業もあるなど、地域や業種によってその後の動向が二極化した。震災を要因とした倒産のなかには、復興当初に計画した想定需要などの甘さ、経営手法といった問題など、被災から10年が経過した今、一概に東日本大震災だけが経営破綻の引き金となったとは言い難い側面もあろう。しかし、特に被災地域では津波などによりほとんど全てを喪失した状態からの再スタートを強いられ、ギリギリの経営を迫られるなか、厳しい事業環境や変化が震災からの再建を妨げた点はどの倒産事例も共通する。震災以降、官民一体となった補助金・助成金などの資金調達による支援も続けられてきたが、地域経済の停滞やそれに伴う売り上げの低迷、風評被害といった問題を解決する抜本的な対策が業界や企業によっては依然として見当たらない点も、震災10年を経てなお関連倒産が発生し続ける遠因となっている。

政府は、2021年3月に終了する「復興・創生期間」を引き継ぎ、復興の取り組みをさらに後押しする「第2期復興・創生期間」を2026年3月まで定める。東北の復興事業も震災から10年を経て総仕上げの段階に入っており、被災企業でも今後は本来の自主経営を求められることになる。ただ、外部環境を見ると新型コロナウイルスによる景況感の落ち込みに加え、東北の主力産業でもある観光やイベントの自粛も続くなど、震災復興当時には到底想像しえなかった経営環境の激変がある。今後も、業界によっては震災前の水準まで回復が及ばないことも想定されるなか、11年目以降も被災地を中心に震災に起因した「息切れ型」の倒産増加も否定できず、動向にはなお注視が求められよう。


参考:近年の「東日本大震災関連倒産」事例
■主力の大船渡工場が全壊、再建進めるもサンマの不漁など「想定外」が追い打ち
太洋産業株式会社 (水産加工・販売)/ 東京都中央区、2018年民事再生法→破産 / 負債49億円
当社は「タイサン」ブランド知られた水産加工・販売業者。岩手県大船渡市などに自社工場を有し、1982年12月期には約330億円の年売上高を計上していた。

しかし、過去の設備投資負担を抱える中で東日本大震災により主力の大船渡工場が全壊。その後、2015年に復興補助金を活用して同工場を再建、同時に積極的な財務改善を進めていた。しかし、主力製品であるサンマの記録的な不漁が続き、原材料の仕入れが激減したことで赤字が拡大。2017年3月期の年売上高は約76億7800万円にとどまり、業況が改善しないなか資金繰りが限界に達し、2018年7月に民事再生法の適用を申請した。


■ 地域復興のシンボルとして再スタートも、主力の船舶関連需要が当初想定より伸び悩む
株式会社ヤマニシ (造船業)/ 宮城県石巻市、2020年会社更生法 / 負債123億円

 

ヤマニシの工場施設 (2020 年 1月ヤマニシの工場施設 (2020 年 1月

当社は石巻地区で老舗かつ最大規模の造船業者。小型漁船での技術力を強みに外航貨物船やコンテナ船など大型船の建造事業にも進出し、ピークの2010年3月期には年売上高約198億2100万円を計上した。

しかし、東日本大震災の津波により工場など製造設備が甚大な被害を受け、実質的に休業を余儀なくされた。その後、2012年2月に現・地域経済活性化支援機構(REVIC)などの支援を受け、地域経済復興のシンボルとして再スタートを切った。以降、設備の新造や新造船に加えて船舶修繕業の再開に漕ぎ着けたものの受注が伸び悩み、2018年3月期の年売上高は約68億9600万円と低迷していた。他方で災害からの復旧費用が嵩むなか財務内容は次第に悪化、2019年3月期には債務超過が約42億円に拡大し、先行きの見通しが立たなくなったことで、2020年1月に会社更生法の適用を申請した。


■震災と原発事故で宿泊客激減のなか、新型コロナが追い打ちとなり自力での事業継続を断念
有限会社田村屋旅館 (旅館)/ 福島県猪苗代町、2020年民事再生法 / 負債4億2000万円
当社は沼尻温泉内では最大規模の温泉旅館で、国内の利用客に加えて年間5000人ほどの外国人観光客利用があり、旅館施設のリニューアルなど設備投資も行ってきた。

しかし、東日本大震災および福島第一原発事故の影響で、震災前までは利用が多かった学生や訪日外国人観光客が激減。その後も客足は回復せず、2019年の売上高はピーク時の3割程度に落ち込み、過年度の旅館リニューアルに伴う借入金の返済にも苦慮していた。こうしたなか、暖冬によるスキー客の利用減に加え、新型コロナウイルスの影響で宿泊客のキャンセルが発生。そのため自力での事業継続は不可能と判断し、2020年3月に民事再生法の適用を申請した。

なお、本件が東北及び福島県内で初めての新型コロナウイルス関連倒産ともなった。

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業種
サービス業
本社所在地
東京都港区南青山2-5-20
電話番号
03-5775-3000
代表者名
後藤 信夫
上場
未上場
資本金
9000万円
設立
1987年07月