スラリー中のサブミクロン粒子の乾燥挙動を可視化する技術を開発しました
ファインセラミックスのプロセス・インフォマティクス構築を目指す
NEDOと国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は、ファインセラミックスのプロセス・インフォマティクス(PI)の構築を目指して、「次世代ファインセラミックス製造プロセスの基盤構築・応用開発」(以下、本事業)に取り組んでおり、ファインセラミックスのスラリー中に含まれるサブミクロン粒子の乾燥挙動を、大気圧下の実際の乾燥環境でレーザー顕微鏡により可視化する技術(以下、本技術)を開発しました。
本技術は、アルミナやシリカなどの汎用(はんよう)的なセラミックススラリーに適用できることを確認し、セラミックス材料の品質や寸法に影響を与える乾燥挙動をミクロレベルで観察することが可能です。
1.開発の背景と概要
ファインセラミックス※1の分野では、製造プロセス技術が「経験と勘」に基づくことが多く、製造プロセスの開発に時間とコストを要することが大きな問題です。本事業※2はファインセラミックスの全ての製造プロセスをカバーするPI※3を構築し、高度な計算科学、先端プロセス測定技術を駆使して革新的なプロセス開発の基盤構築を目指しています。このためには、ファインセラミックスのプロセスの中でも寸法、密度に影響するスラリー※4の乾燥挙動を可視化する技術の開発が必要です。
このような背景から、NEDO、産総研は2022年度から本事業において「製造プロセスの可視化技術及びメカニズム解析技術の開発」に取り組んでいます。その一環として、ファインセラミックスのスラリーの乾燥挙動を可視化および定量化する方法の開発を進めてきました。
従来のスラリー乾燥挙動の評価は、主にスラリーやシート成形体の乾燥中の重量変化や成形体全体の収縮の測定でした。また、乾燥中の粒子挙動を直接捉える測定法も検討されていましたが、真空環境や電子線照射下の測定が必要でした。
今回開発した技術は、レーザー顕微鏡と粒子画像流速測定法(PIV法)※5を用いることで、大気圧・空気中という実際の乾燥環境において乾燥中のサブミクロン粒子挙動を観察し、移動速度や厚み変位の定量化が可能です。実用厚みのシート試料を用いることができ、粒子の挙動観察に加えて、3D顕微鏡観察を統合することによりシート全体の収縮・反りについても同一環境で評価できる点が従来のスラリー評価法と比べて大きく前進した点です。
2.今回の成果
(1)レーザー顕微鏡を用いた可視化技術の開発
セラミックススラリーをレーザー顕微鏡でオペランド観察※6することにより、乾燥過程でのサブミクロン粒子の動的乾燥挙動を実際の乾燥環境で高解像度に可視化し録画しました。得られた動画に対してPIV法を適用することでスラリー中のセラミックス粒子の移動速度と方向を直接評価することが可能となりました。図1はレーザー顕微鏡を用いてスラリーを観察した時の画像とPIV法により解析した画像を示しています。右図(解析図)における色の違いは移動速度の違いを示しており、ベクトルの向きは移動方向を示しています。

※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。
(2)相対湿度がサブミクロン粒子の乾燥挙動に及ぼす影響の定量評価
相対湿度を制御可能なブース内において、異なる3条件下で同一スラリーの乾燥挙動をオペランド観察しました。得られた動画に対してPIV法を適用し、粒子の移動速度、移動方向および厚み方向の変位を定量化した結果、図2に示すように、相対湿度が低い条件ほど粒子の移動速度が増大し、膜厚の収縮がより早く進行することを、開発した可視化・定量化技術により明確にしました。

※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。
3.今後の予定
NEDOと産総研は、今回開発した技術を乾燥過程のPIへ適用するための開発を行います。また、さまざまな組成や粘度のスラリー、ペーストでの検証を進めていきます。本技術は、スラリーの乾燥プロセスの最適化やスラリー配合設計の精密化を可能とし、セラミックス製造プロセス全体の品質向上と効率化へ貢献することが期待されます。なお、本研究成果は、2026年5月19日に学術誌「Journal of the Ceramic Society of Japan」へ掲載されました。
【注釈】
※1 ファインセラミックス
化学組成、結晶構造、微構造組織・粒界、形状、製造プロセスを精密に制御して製造され、新しい機能または特性をもつ、主として非金属の無機物質です。
※2 本事業
事業名:次世代ファインセラミックス製造プロセスの基盤構築・応用開発
事業期間:2022年度~2026年度
事業概要:次世代ファインセラミックス製造プロセスの基盤構築・応用開発
https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100207.html
※3 PI
プロセス・インフォマティクス(PI)は、材料試作から工業的に利用可能な製造方法に至る開発をより加速させるため、実験科学、理論科学、計算科学と、近年の進展が著しいデータ科学を、統合的・融合的に活用することにより、目的材料の製造プロセスを効率的に探索する技術です。
※4 スラリー
固体の粉末を水や液体の中に均一に混ぜて、泥状・ペースト状の状態にしたものです。
※5 粒子画像流速測定法(PIV法)
流体の中にある目印となる粒子の動きを動画として撮影・解析することで、どの方向にどれくらいの速さで動いているかを数値化する方法です。
※6 オペランド観察
材料や現象を“実際に動いているその場そのままの状態”で観察する方法です。
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