シェアサイクルの「あるべき台数」をデータで導く
千葉市での実証運用で再配置1台あたりの機会損失回避が向上
発表のポイント
◆東京大学と三井不動産株式会社、OpenStreet株式会社の研究グループは、シェアサイクルの各ステーションについて時間帯別の「目標台数」と優先順位を算出し、現場スタッフの再配置判断を支援する手法を開発しました。
◆巡回ルートまで中央で指示する従来手法とは異なり、簡便な計算で求めた目標台数と優先順位だけを現場に示し、動かし方は現場の裁量に委ねる「ハイブリッド型」の設計に新規性があります。
◆千葉市での2週間の実証運用では、再配置1台あたりの機会損失回避が従来運用を大きく上回り、少ない運用コストで利便性を高める仕組みとして地域交通への貢献が期待されます。

概要
東京大学先端科学技術研究センターの江崎貴裕特任准教授、井村直人プロジェクトリサーチフェロー、西成活裕教授と三井不動産株式会社、OpenStreet株式会社らによる研究グループは、シェアサイクルの車両再配置を過去の運用データに基づいて支援する新しい手法を開発し、その効果を実際のサービス環境で明らかにしました。ステーション型シェアサイクル(注1)では、各ステーションの収容台数に上限があるため、空車では借りられず、満車では返せないという機会損失が生じます。本研究では、各ステーションの貸出・返却の実績と空車・満車の発生記録から、2時間ごとの「目標台数」と優先順位を算出して現場に提示し、巡回の順序や経路は現場スタッフの裁量に委ねる仕組みを構築しました。千葉市のHELLO CYCLING(注2)の電動シェアサイクル網で2週間の実証運用を行った結果、再配置1台あたりの機会損失回避(注3)は、従来の運用および単純な目標台数に基づく再配置をいずれも上回りました。大規模な最適化計算を必要としないため、地域の事業者でも日常業務に組み込める点に新規性があり、シェアサイクルの利便性向上に役立つことが期待されます。

各ステーションの過去の貸出・返却データから需要パターンを5類型に分類し、2時間ごとの需給の増減と二つ先の時間帯までを考慮して「目標台数」を算出する。
発表内容
ステーション型のシェアサイクルは、公共交通を補完し災害時にも機能する移動手段として普及が進む一方、ステーションごとに収容できる台数の上限があるため、空車で借りられない、満車で返せないという二つのサービス失敗が日常的に発生します。この不均衡を解消する再配置については、これまで数多くの最適化モデルが提案されてきました。しかし実際の現場では、渋滞や刻々と変わるステーションの状況に厳密な巡回ルートを合わせ続けることが難しく、依然としてスタッフの経験と勘に頼った運用が続いていました。中央で最適化計算を常時動かし続けるには計算資源やリアルタイムのデータ連携が必要であり、規模の小さい地域の事業者にとって負担が大きいことも、導入の壁となっていました。
本研究チームは、「どこの台数をどれだけ増減させるか」の判断を中央が支援し、「どう動かすか」は現場に委ねる、中央集権型と分散型のハイブリッド型の枠組みを提案しました。中央側では、千葉市内の約510のステーションについて、過去の貸出・返却データと空車・満車の発生記録から需要パターンを5類型に分類し、2時間ごとの需給の増減を予測します。さらに二つ先の時間帯までを考慮して、過不足が生じにくい「目標台数」を各ステーションについて算出し、効果の大きい順に並べた優先順位付きの一覧表として現場に提示します。現場スタッフは現在の台数と目標台数を見比べて何台動かすかを判断し、巡回の順序や経路は自らの裁量で決めます。計算は大規模な最適化ではなく簡便な規則に基づくため、計算コストを抑えたまま日々の巡回業務に組み込むことができます。
効果の検証は、OpenStreet株式会社が運営するHELLO CYCLINGの千葉市内ネットワークにおいて、各時間帯で需要の多い上位20ステーションを対象に、2週間(12月15日〜28日)の実証運用として実施しました。評価指標には、移動後6時間以内に空車・満車による貸出・返却の失敗をどれだけ防げたかを表す「再配置1台あたりの機会損失回避」を用いました。
その結果、提案手法では返却側で0.583台/回、貸出側で0.563台/回となり、従来運用(それぞれ0.305、0.071)およびランダム再配置(同0.027、0.104)をいずれも上回りました。一覧表の指示に沿って実行された再配置に限ると0.719、0.732とさらに高く、全体の指示遵守率は76%でした。需要の空間的な構造は、目標台数の算出に用いた事前分析期間(4〜7月)、従来運用期間、実証期間の間で高い相関(相関係数0.98〜0.99)を示し、実証期間の需要水準も従来運用期間より高くはなかったことから、今回の改善は需要環境の違いによるものではないと考えられます。加えて、経験に基づく従来の運用では見過ごされやすかったステーションにも作業が向けられたことが確認されました。
本手法は特定の事業者に固有のものではなく、EVバッテリー交換ステーションや電動キックボードなど、ステーション型のシェアモビリティ全般に応用できます。「いつでも借りられ、いつでも返せる」状態に近づけることで、地域の移動利便性の向上と、シェアモビリティの持続的な運営に貢献することが期待されます。今後は、対象ステーションの拡大、季節変動や新規ステーション開設への追随、車両運搬経路の最適化、さらに利用者側のインセンティブ設計との組み合わせが課題となります。

移動後6時間以内に空車・満車による貸出・返却の失敗をどれだけ防げたかを、再配置1台あたりで比較した。提案手法は返却側0.583台/回、貸出側0.563台/回で、従来運用(0.305、0.071)およびランダム再配置(0.027、0.104)を上回った。
発表者・研究者等情報
東京大学 先端科学技術研究センター
江崎 貴裕 特任准教授
井村 直人 プロジェクトリサーチフェロー
西成 活裕 教授
三井不動産株式会社 イノベーション推進本部 産学連携推進部
藤塚 和弘 統括
OpenStreet株式会社
田澤 朗 執行役員 グロース管掌
山田 慧史 COO室 シニアプロフェッショナル
見城 紳 COO室 データサイエンスグループ グループリーダー
論文情報
雑誌名:Transportation Research Part A: Policy and Practice
題 名:Data-driven rebalancing support for station-based bike sharing: A hybrid centralized–distributed deployment in Chiba city
著者名:Takahiro Ezaki*, Shin Kenjo, Akira Tazawa, Keiji Yamada, Kazuhiro Fujitsuka, Naoto Imura, Katsuhiro Nishinari
DOI: 10.1016/j.tra.2026.105190
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0965856426003319
研究助成
本研究は、東京大学と三井不動産株式会社による産学協創の枠組み「三井不動産東大ラボ」の支援を受けて実施されました。また、実証実験の実施およびデータの提供にあたり、OpenStreet株式会社の協力を得ました。
「三井不動産東大ラボ」は、東京大学と三井不動産が2020年に開始した、都市・街づくり分野における産学協創の取り組みです。東京大学の知見と三井不動産の街づくりのフィールドを活用し、都市の新たな価値創造や社会課題の解決に向けた実践的な研究を進めています。
用語解説
(注1)ステーション型シェアサイクル
定められたステーション(駐輪ラック)で自転車を借り、返却する自転車の共同利用サービス。ステーションごとに収容できる台数の上限があるため、空車では貸し出せず、満車では返却できない状態が生じる。
(注2)HELLO CYCLING
OpenStreet株式会社が提供する全国規模のシェアモビリティ・プラットフォーム。本研究では、そのうち千葉市内の電動アシスト自転車のネットワークを対象とした。
(注3)機会損失回避(台/回)
再配置した自転車1台あたり、移動後6時間以内に空車・満車によって生じるはずだった貸出・返却の失敗をどれだけ防げたかを表す指標。値が大きいほど再配置1回の効果が高い。
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像
- 種類
- 調査レポート
- ダウンロード
