【提言】人の「心」をモデル化するAI

ヒューマン・デジタルツインの可能性 信頼できる社会実装への3つの提言

株式会社三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所(代表取締役 社長執行役員:籔田健二、以下 MRI)は、人の感情や価値観、判断傾向などの心的状態・特性を用途に必要な範囲でモデル化する「ヒューマン・デジタルツイン(HDT)」の可能性と課題を整理しました。HDTを信頼性のあるかたちで社会実装するための3つの方策を提言します。

1. 背景

生成AIの急速な発展により、AIは文章や画像を「生成する」だけでなく、人と自然に対話し、状況に応じた判断や反応を示すようになりました。さらに、マルチモーダルAI(※)、心理・行動データ解析、生体センシング、社会シミュレーションなどの技術が融合することで、人や社会の受け止め方、行動を仮想空間で再現する新たな可能性が見え始めています。

生成AIが「答えをつくるAI」だとすれば、次に現れつつあるのは、「人の反応をモデル化し、未来の選択肢を試すAI」です。新しい政策やサービスに人々がどう反応するか、災害時にどの情報を信頼しどのように避難するかなどを、現実社会で実施する前に仮想空間で探索する手段になり得ます。

その中核となる概念をヒューマン・デジタルツイン(Human Digital Twin:HDT)と呼びます。HDTは、人の「心そのもの」をコピーするものではありません。会話、行動、生体情報などをもとに、感情、価値観、嗜好(しこう)、判断傾向などの心的状態・特性を、特定の目的に必要な範囲でモデル化するものです。

政策やサービスを設計する際、人の内面的な反応を把握するためには、アンケートなどでは率直な回答を得にくい、直接測定しにくい、長期・極端・心理的に高負荷な条件を現実社会では試しにくいといった制約があります。HDTは、現実には「聞けない・測れない・試せない」反応を仮想空間で探索し、実際の調査、専門家の判断、当事者参加を補完する、新たな意思決定を支援する手段となる可能性があります。

※:テキスト、画像、音声など異なる形式の情報を統合的に処理できるAI

2. 提言の概要

HDTは、①人を対象とした調査・実験の補完と検討の高速化、②長期・極端・心理的に高負荷な条件など、実社会では試しにくい条件への仮想的な試行、③不安や納得感、価値観なども踏まえ、人にきめ細かく寄り添うサービスやコミュニケーションの設計などに活用できると期待されます。

                                               図表1 HDTの活用のイメージ

三菱総合研究所作成

一方で、現在の技術は、人の反応を精密に予測できるレベルには至っていません。本研究の技術検証では、実際の人のデータに近い値や傾向を再現できたものの、従来の手法と比較して、十分な予測精度は確認されませんでした。

また、人の内面を扱うことによるリスクへの対応は不可欠です。MRIが20~60代の男女4,000人を対象に実施した調査では、本人が直接提供していない健康状態、性格、信条などまでをAIに推定されることについて、64.5%が懸念を示しました。

氏名や住所のような個人を直接特定し得るデータに加え、本人が明示的には提供していない情報から推定された「心理情報」も、管理する対象に含める必要があります。

こうした可能性と課題を踏まえ、MRIはHDTの社会実装に向け次の3つの方策を提言します。

① HDTの「信頼限界」を用途ごとに定める

HDTを社会で活用するには、「何を、どこまで再現できれば信頼できるか」を用途に応じて明確にすることが重要です。産業界が利用場面から性能・評価指標を設定し、科学的検証を重ねながら、仮説探索や意思決定支援など、それぞれの用途で信頼して使える範囲を定めることを提言します。

② 「実社会では試せない」用途から実証する

現実では試行を繰り返すことが難しい防災、医療・福祉、教育、地域の合意形成などの用途から、実証を進めることが有効です。類型化した集団を対象に、懸念や反発、少数意見、受容条件を探索し、HDTの価値と限界を見極めながら、段階的に活用範囲を広げることを提言します。

③ 「心理情報」を守りながら産業を育てる仕組みをつくる

HDTでは、個人情報に加え、感情、価値観、脆弱(ぜいじゃく)性、将来行動など、データから推定される「心理情報」も適切に保護する必要があります。行政が共通の最低要件を示し、官民で用途別のルールを整備・更新しながら、利用者の信頼と産業の成長を両立する市場基盤を構築することを提言します。

                          図表2 HDTの社会実装に向け、日本が進めるべき3つの提言

三菱総合研究所作成

3. 今後に向けて

HDTは、人を代替するための技術ではなく、人の反応をより丁寧に捉え、政策やサービスの設計に関する意思決定を支援する技術です。当面は、特定個人を精密に再現する用途ではなく、類型化された集団を対象とした課題探索や説明方法の改善などから、段階的に社会実装を進めることが必要です。

MRIは今後も、企業、行政、大学・研究機関、ユーザー・当事者と連携し、より良い意思決定を支えるHDTの社会実装に向けた研究・提言を深めます。HDTによって人の反応をどこまで再現できるか、用途ごとにどこまでなら使えるのかを検証する実証実験などを通じて、HDTを意思決定に活用できる範囲や条件を明らかにしていく予定です。

本研究成果の一部は、日本電気株式会社(当時NECソリューションイノベータ株式会社)とエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社との共同研究によって得られたものです。

レポート全文

人の「心」をモデル化するAI

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会社概要

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URL
https://www.mri.co.jp/
業種
情報通信
本社所在地
東京都千代田区永田町2-10-3
電話番号
03-5157-2111
代表者名
籔田 健二
上場
東証プライム
資本金
63億3624万円
設立
1970年05月