『2024年TNFD開示の潮流と日本企業の対応状況』を発表 ~日本企業65社の開示状況を調査した実践的な参考情報として~

公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(東京都港区、会長:末吉竹二郎、以下WWFジャパン)は、TNFD*の提言に基づいて、日本企業65社による2024年の開示情報を調査し、同年の開示で見られた傾向と今後の開示において期待したい点をまとめた調査レポート『2024年TNFD開示の潮流と日本企業の対応状況』を発表しました。本調査は、2024年のTNFD開示状況を整理・考察することで、開示を行なった企業にとっては今後開示情報を更新する際の指針となること、これからTNFD開示を始める企業が参考とするべき先行事例の一助になることをめざしています。

■『2024年TNFD開示の潮流と日本企業の対応状況』(PDFファイル)
https://www.wwf.or.jp/activities/data/20250828-TNFD-report.pdf

本調査では、WWFジャパンが2024年に作成した「TNFDキーポイント」に基づき、対象企業の開示情報が各キーポイントに設定された指標の、どの段階に該当するかを確認しました。調査対象企業は、2024年1月1日~12月31日にTNFD提言に基づいて情報開示した日本企業65社です。開示情報は、TNFD開示およびTNFD開示に掲載されているURLリンク先から得られた情報を参照しています。

TNFDの発表する膨大な資料の中で、特に重要視すべき項目は、操業するマーケットの特性や、企業の事業形態、取り組みのレベルなどによって変化します。そこでWWFジャパンは、自然資本や生物多様性の毀損を低減する観点から、日本企業が初期のTNFD開示で重要視すべきと考える点をTNFDから4点を抽出し、「TNFDキーポイント」として発表しました。「TNFDキーポイント」の視点から見えた2024年の開示の主な傾向は以下となります。

*TNFD:自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)

2024年の開示から見えた主な傾向

  • 開示アプローチ(財務マテリアリティやインパクトマテリアリティ)が明示されているか?
    TNFDの提言のなかの一般要件にて要求されているように、選択したマテリアリティ・アプローチを明示した企業は65社中、13社でした。

  • 自然関連課題(依存、インパクト、リスクと機会)の特定・評価、および優先地域の特定が記載されているか?
    65社全てが、原材料として扱うコモディティや事業部門を特定するなど、依存・影響関係の分析を進めていたものの、多くの企業がENCOREのようなツールを活用した一般論の分析結果に止まっていました。場所に基づいた「自社と自然との」依存・影響に伴うリスク・機会に関して分析できている開示は、一部の企業に留まりました。

  • ミティゲーションヒエラルキー(企業のマイナスインパクト回避の優先)に沿った取り組み内容の開示があるか?
    マイナスインパクトの回避・軽減策として、節水目標など従来の取り組みとTNFDフレームワークとの親和性が一定程度みられました。しかし、バリューチェーン全体を俯瞰し、自然との依存・影響関係を分析したうえで、マイナスインパクトの回避・軽減に向けた全社的なコミットメントを掲げる企業は、依然として少数でした。

  • IPLC(先住民族と地域社会)と影響を受けるステークホルダーへのエンゲージメント内容に関する記載があるか?

    自然関連課題の視点からIPLCへの影響を分析するという視点は、未だ多くの企業の開示から抜け落ちていました。一方、国際的な人権規範への賛同は対象会社である65社全てが掲げていました。今後は賛同している人権規範に自然関連の課題の視点を組み入れ、具体的なエンゲージメントの実施、及びその取り組み内容の開示が求められます。

TNFD開示にて今後期待したい点

  • 事業活動の「何の要素が」「どこで」「どのように」自然に依存、影響するのかを、バリューチェーンの上流・直接操業・下流いずれにおいても、分析を一般的な記載内容に留めず、自社の特徴を踏まえて丁寧に進めることが重要と考えます。

  • 特定されたマイナスインパクトを回避・軽減するために、既存の事業モデルをどのように変革させていくかの戦略を立て、社内のコミットメントを得ながら取り組みを開始することが望まれます。

  • 今後はより情報入手が難しいバリューチェーンの上流・下流における自然への影響、さらに直接操業における具体的なインパクトの経路に基づいた検討・分析が期待されます。

  • 自社の活動が具体的にどの場所で影響があるのかを特定することが、自然への具体的な影響、さらには先住民等を含む近隣住民への影響の分析を行なう上でも重要です。

企業の開示事例も紹介

本調査では、今後の開示の参考となるような企業の開示事例も紹介しています。

  • 住友林業株式会社における優先地域の特定

  • 花王株式会社におけるバリューチェーン上流のトレース状況の開示例

  • 王子ホールディングス株式会社における測定指標とターゲットの設定

  • 株式会社コーセーにおける場所に基づく依存、インパクトの分析

  • 花王株式会社におけるパーム調達に関する苦情受付体制

 ■ WWFジャパン専門オフィサーのコメント

WWFジャパン 自然保護室 金融グループ 小池祐輔

世界のTNFDアダプター611社のうち、日本企業は180社(2025年7月18日現在)と最多を占め、自然関連情報の開示を積極的に進めている点は高く評価されます。

一方で、既存の社内情報や外部データツールの内容をTNFDフレームワークに当てはめただけの開示が目立つことも否めません。

TNFD開示は、本来、自然関連課題の分析を通じて、自然に負荷をかけるビジネスモデルを根本から変革する契機となることが期待されています。そのためには、複雑な商流におけるトレーサビリティの確保、自社拠点での自然環境の状態把握、マイナス影響を減らすための戦略立案と実行力など、多岐にわたるノウハウ構築が不可欠であり、これには時間を要します。

TNFD開示を通じて先進企業が先例を示し、企業同士が学び合うことで、ネイチャーポジティブの実現に向かい、高めあっていくことが次のステージとして期待されます。当レポートではこうした難しい課題を推進している事例も紹介しています。今後、日本の企業がTNFD開示を進める上で参考となることを願っています。

■    調査対象企業(65社・五十音順)

アサヒグループホールディングス

中部電力

味の素

ツムラ

イオンモール

デンソー

伊藤園

東急不動産ホールディングス

伊藤忠商事

東京電力ホールディングス

王子ホールディングス

豊田通商

大阪瓦斯

日産化学

小野薬品工業

日清オイリオグループ

花王

日清食品ホールディングス

関西電力

ニッスイ

キリンホールディングス

日本空港ビルデング

クボタ

日本航空

熊谷組

日本製鉄

コカ・コーラ ボトラーズジャパン ホールディングス

日本ハム             

コーセー

野村不動産ホールディングス

サッポロホールディングス

ファミリーマート

サントリーホールディングス

富士フイルムホールディングス

資生堂

ブリヂストン

島津製作所

ポーラ・オルビスホールディングス

清水建設

マルハニチロ

住友ゴム工業

三菱商事

住友商事

明治ホールディングス

住友林業

森永乳業

積水化学工業

ヤマハ

積水ハウス

横浜ゴム

セブン&アイ・ホールディングス

リゾートトラスト

ソニーグループ

ロッテホールディングス

大王製紙

ANAホールディングス

大成建設

J.フロント リテイリング

大日本印刷

LIXIL

大和ハウス工業

TDK

竹中工務店

TOPPANホールディングス

TOYO TIRE

*社名中の「株式会社」は省略

*金融機関、サービス業、および自然資本の利用が相対的に少ないと考えられる企業等を除く

なお、「TNFDキーポイント」は特定の業種向けに作成されてはおらず、業種や各社の特徴によってTNFD開示に向けた取り組みの難易度は異なります。そのため、当ベンチマーク調査においては、開示の網羅性や、取り組み内容の質、パフォーマンスを評価したものではなく、各キーポイントの「開示」の有無の確認という側面に焦点を当てており、ランキングを目的としたものではありません。

 

【参考】

■WWFについて 

WWFは100カ国以上で活動している環境保全団体で、1961年に設立されました。人と自然が調和して生きられる未来をめざして、失われつつある生物多様性の豊かさの回復や、地球温暖化防止などの活動を行なっています。 https://www.wwf.or.jp

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会社概要

WWFジャパン

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URL
https://www.wwf.or.jp/
業種
財団法人・社団法人・宗教法人
本社所在地
東京都港区三田1-4-28 三田国際ビル3階
電話番号
03-3769-1714
代表者名
末吉竹二郎
上場
-
資本金
-
設立
1971年09月