代替肉バーガーは健康よりもボリュームが価値 ~明治大学商学部加藤拓巳准教授らが代替肉を対象とした「よだれの戦い」で有効なコンセプトを実証

学校法人明治大学

エシカル消費は、社会や他者への利益を強調する利他的動機より、消費者の個人的な利益を強調する利己的動機の方が大きな影響があります。そのため、食品の場合、環境配慮や動物福祉という利他的動機より、健康という利己的動機の訴求が重視されてきました。温室効果ガス排出量を削減できる代替肉においても、健康面の訴求に偏重しています。しかし、それでは十分な普及が難しい状況です。その原因は、バーガーショップでメニューを選ぶ際の「お腹いっぱい食べたい」という消費者心理を捉えきれていないことが推察されます。

そこで本研究は、日本における代替肉市場を対象に、新しいコンセプトを開発・実証しました。低カロリー・低脂肪という代替肉の商品特徴を踏まえて、満腹感に訴えかける商品コンセプトを提案し、それが健康よりも高い魅力があることを示しました。エシカル商品の場合、環境配慮や健康配慮に紐付けがされがちですが、消費者に選ばれるためには「よだれの戦い」から逃げてはなりません。この成果は、日本マーケティング学会の査読論文誌「マーケティングジャーナル」に掲載されました。

【論文情報】

 加藤拓巳・松田敦樹・伊熊結以・小泉昌紀. (2025). 利己的動機の新たな商品コンセプトと利他的動機の魅力を高める消費者経験―日本市場での代替肉を対象としたエシカル消費の推進―. マーケティングジャーナル.

DOI:https://doi.org/10.7222/marketing.2026.006

掲載日:2025年12月6日

【本件のポイント】

  • 日々深刻化する環境問題に直面して、企業はエシカル商品の開発に注力しています。特に食品メーカーは、持続可能性に注力している代表的な産業の1つです。消費者もその社会的背景をよく理解しており、自身の購入行動における倫理的妥当性を考慮する姿勢を表しています。しかし、環境への関心の高まりは、グリーン市場の経済成長を伴っていません。エシカル消費が普及しない理由の1つは、調査でのエシカル商品に対する態度と現実の購入行動に差異があることです。調査の環境では社会的望ましさバイアスによってエシカル商品に肯定的な態度が引き出される一方で、実際に自らの価値を損なう商品を好まないという実態があります。このような社会的望ましさバイアスは、マーケティング領域の実験で得られる結論を変えてしまう深刻な問題です。この状況は、アメリカ、イギリス、ドイツ、タイ、中国など世界共通です。

  • 調査環境でも社会的望ましさバイアスを抑え、エシカル消費を促進する価値を実証するには、以下2点のアプローチが重要です。1つ目は、ランダム化比較試験(randomized controlled trials、 RCT)を用いることです。ランダムに2グループに割り当て、片方には新しい処置を行い(処置群)、もう片方には従来方法の処置を行います(統制群)。これによって、交絡因子の影響を取り除き、純粋な処置の因果効果を評価することが可能で、RCTは最も信頼性の高い科学的根拠を提供する方法と認識されています。2つ目は、社会的意義ではなく、消費者視点での価値の明確化です。消費者が非倫理的な商品を避けると公言していても、実際にはお金に見合った最大の価値を得たいという欲求に即して行動します。そのためには、エシカル商品であっても、利己的動機に訴えかけ、「よだれ」を引き出す価値設計が重要です。

  • 代替肉に期待が集まる主な理由は、環境対策です。家畜が消化時にげっぷをすることでメタン(二酸化炭素に次いで地球温暖化に及ぼす影響が大きい温室効果ガス)が放出され、その量は牛1頭から1日あたり250~500リットルにも達します。その結果、現在の世界における温室効果ガス総排出量の約5%を家畜などの反芻動物のげっぷが占めている状況です。そこで、代替肉にシフトすることによる温室効果ガス排出量を大幅削減が期待されています。さらに、味と食感が加工肉に似ているため、ハンバーガーの形式での商品開発が活発です。その際の利己的訴求は、低カロリー・低脂肪という代替肉の特徴が利用されています。

  • しかし、代替肉バーガーは健康訴求だけでは十分な販売が難しいと指摘されており、他の側面からの商品コンセプトが求められています。そもそも、ハンバーガー(かつ、それと同時に飲食する傾向にあるフライドポテトと炭酸飲料)は不健康と認識されており、その価値は満腹感にあります。そして、代替肉の低カロリー・低脂肪という特徴を踏まえると、一般的な肉よりも多くの量を食べられ、満腹感を得やすいと考えらます。これは、腹8分目にして食べる量を抑えるという健康的な食生活の意識と正反対です。つまり、健康の訴求と満腹感は明確に違いがあります。そこで、「代替肉は低カロリー・低脂肪のため、量を多く食べられるという満腹感を訴求する利己的動機の商品コンセプトは魅力を高める」という仮説を導出しました。

  • 日本の20-60代の1,000人を対象にオンライン調査環境でRCTを行ないました。図1に示すとおり、統制群(Group 1)、利他的動機(Group 2:環境配慮、Group 3:動物福祉)、利己的動機(Group 4:健康、Group 5:満腹感)の5グループで構成し、各グループ200人を割り当てました。その結果、図2(左側)に示すとおり、魅力を感じた人の割合は、統制群が22.5%、利他的動機が24.5%、利己的動機が31.5%となり、統制群−利己的動機では有意に魅力が高まりました(p値=0.038)。図2(右側)に示すとおり、商品コンセプト別では、満腹感で魅力が最も高くなり(35.0%)、統制群と有意差が検出されたのは満腹感のみでした (p値=0.021)。よって、仮説は支持されました。

  • エシカル消費を促進したい実務家は、基本的には利己的動機を軸としたコンセプトを設計すべきです。代替肉バーガーを対象とする場合、健康という側面以外に、満腹感という価値があることを念頭に入れると有益です。ハンバーガーという食品の性質上、健康よりも満腹感の方が食事の際に重視されます。

                     図1. 実験に用いた4つのコンセプト
                      図2. ランダム化比較試験の結果

用語説明

社会的望ましさバイアス:社会的に望ましいと考えられている選択肢を選ぶという心理的な圧力

この記事に関連するページ

加藤拓巳准教授Webサイト:https://takumi-kato.com/

加藤拓巳准教授による経団連 消費者政策委員会企画部会での講演:「エシカル消費の普及には『よだれの戦い』から逃げてはならない」

https://www.meiji.ac.jp/koho/press/2025/qfki0t00000449h4.html

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