【大阪工業大学】淀川城北ワンドから新種「ヒスイボルボックス」日本国内の3ヶ所で発見

―翡翠のように輝く球体は、まだ名を持たなかった―

学校法人常翔学園

 大阪工業大学(学長:井上 晋)の松﨑令講師、法政大学自然科学センター・法学部の植木紀子教授、同大学の野崎久義兼任講師(研究当時)、東京大学大気海洋研究所の小林愛美技術補佐員らの研究グループは、日本ではこれまで報告のなかった2 mmを超える大型のボルボックスを3ヶ所から採取しました。これらを形態学的・分子系統学的に詳細に解析した結果、未記載種であることが判明し、Volvox chrysoprasus sp. nov.(和名:ヒスイボルボックス)として新種記載しました(図1)。本種は成熟すると最大約2.8 mmに達する大型の種で、既知種によく似るものの、有性生殖によって形成される接合子の構造やDNA解析において明確な差異が認められました。本研究の成果は、2026年9月16日付で国際藻類学会誌『Phycologia』に掲載されました。

◆ポイント

・埼玉県、大阪府、山口県からこれまで日本では記録のなかった 2 mm  を超える大型のボルボックスを採取し、本種を詳しく調べた結果、Volvox chrysoprasus sp. nov.(和名:ヒスイボルボックス)として新種記載しました。

・ヒスイボルボックスは、成熟した無性個体が最大約2.8 mmに達する緑の宝石を思わせる大型のボルボックスです。一見するとタイやインドに生息する既知種Volvox dissipatrixによく似ていますが、接合子の壁の形態や、接合子を取り囲むゼラチン質の構造に明瞭な違いが見つかりました。

・葉緑体5遺伝子および複数の核DNA領域を用いた解析でも、ヒスイボルボックスとV. dissipatrixはそれぞれ異なる系統として示され、形態と分子の両面から別種であることが支持されました。

図1. 新種「ヒスイボルボックス」(Volvox chrysoprasus sp. nov.)の無性球体。内部に複数の娘球体をもつ。実体顕微鏡下で、暗視野に近い照明条件で撮影。

◆概要

  ボルボックス(Volvox)は非常に古くから知られている多細胞性の球状緑藻類で、世界各地から約26種が報告されています。その中で無性個体が2 mm を超える巨大な種が4種、アフリカや南アジア等から報告されていました。しかし、日本からのこのような大きなボルボックスの報告はこれまでありませんでした。今回、大阪工業大学、法政大学、山口大学、東京大学大気海洋研究所、国立環境研究所、タイ・コンケン大学、日本女子大学の研究グループは、日本の3ヶ所から 2 mmを超える巨大種を採取することができ、この大型のボルボックスを形態学的・分子系統学的に詳しく調べました。

 研究対象となったのは、埼玉県松伏町、大阪府の淀川城北ワンド、山口県阿武川ダムから得られた3株です。これらは小さな体細胞が10,000個以上表面に並ぶ大きな緑色の球状個体をもち、長径は約2.4~2.8 mmに達し、緑の宝石を思わせます(図2)。

 これらのボルボックスは、これまでフィリピン、インド、タイ、オーストラリアなどから報告されている巨大種Volvox dissipatrixと、無性個体の形態が非常によく似ていました(図3)。しかし、有性生殖によって形成される接合子を詳しく比較すると、重要な違いが見つかりました。

 日本産3株では、成熟した接合子の壁は二層からなり、外層は平滑ですが、内層には波状または網目状の構造が見られます。また、それぞれの接合子は広いゼラチン質の層に包まれ、受精前の卵があった位置をほぼ保ったまま成熟します。

 一方、タイ産V. dissipatrixでは、成熟した接合子の壁は内外ともほぼ平滑で、日本産3株に見られるような広いゼラチン質の層は確認されませんでした。また、接合子は卵があった位置から移動し、互いに近接することもありました(図4)。

 さらに、5種類の葉緑体遺伝子を用いた分子系統解析では、日本産3株はV. dissipatrixに最も近縁でありながら、独立した系統として示されました。核DNAのITS2領域には日本産3株に特有の85塩基の挿入がありました。また、actin1、atp2を含む複数の核DNA領域を用いた解析でも両種は明瞭に分かれました(図5)。複数の核DNA領域を連結した配列を用いた解析では、両種間の組換えを示す統計的に有意な証拠は得られませんでした。

 以上の形態的・分子系統学的な証拠から、研究グループはこの日本産ボルボックスを新種Volvox chrysoprasus M. Nagashima & N. Ueki sp. nov.として記載しました。

図2. 本研究で解析したヒスイボルボックス3株の採集地と無性球体。図3. ヒスイボルボックスの無性球体と有性球体(埼玉株)。無性球体の形態的特徴と雌雄同体型の有性生殖様式はVolvox dissipatrixと共通していた。
図4. ヒスイボルボックスとVolvox dissipatrixの成熟接合子の比較。接合子壁の構造、広いゼラチン質層の有無、受精前の卵の位置を保持するかどうかに明瞭な違いが見られた。図5. 葉緑体5遺伝子および核DNAの3領域を用いた分子系統解析。ヒスイボルボックスとVolvox dissipatrixはそれぞれ独立した系統として示された。

◆「ヒスイボルボックス」という名前

 種小名 chrysoprasus は、緑色の宝石であるクリソプレーズ(翡翠を思わせる緑色の宝石)に由来します。大きく成長した個体が、透明感のある緑色の球体として水中を泳ぐ姿から、和名を「ヒスイボルボックス」としました。

◆研究の意義

 ボルボックスは、多数の細胞からなる多細胞性の緑藻で、細胞分化、有性生殖、遊泳行動、多細胞化の進化などを研究するためのモデル生物として利用されてきました。

 今回の研究では、無性個体だけを見ると既知種と非常によく似たボルボックスでも、有性生殖時に形成される接合子の構造やDNA配列を詳しく調べることで、別の種であることが明らかになりました。

 また、現在「Volvox」と呼ばれている生物は系統的には一つのまとまりではなく、将来的には属レベルの分類体系そのものを再検討する必要があります。ヒスイボルボックスの発見と記載は、ボルボックス類の種多様性だけでなく、その分類体系や進化を理解するための新たな材料となります。

◆著者コメント

 ボルボックスは、人間がその存在を知るよりもはるか昔から、光の差す方へ泳いだり硬い殻をもつ接合子を形成して冬を越したりしながら、水の中で命をつないでいます。私たちはその世界をそっと覗き見て、その姿、そのしくみに美しさを感じています。今回、ヒスイボルボックスという美しい存在に、私たちが気づけたことを嬉しく思います。

【論文情報】

論文名:Large green spheroids and taxonomy of Volvox chrysoprasus sp. nov. (Volvocaceae, Chlorophyta) from Japan

著者:Noriko Ueki, Mayu Nagashima, Ryo Matsuzaki, Emi Kobayashi, Osami Misumi, Masanobu Kawachi, Wuttipong Mahakham, Hisayoshi Nozaki

掲載誌:Phycologia

DOI:10.1080/00318884.2026.2723994

URL:https://doi.org/10.1080/00318884.2026.2723994

掲載日:2026年9月16日

【発表者】

本研究の発表者は以下のとおりです。

松﨑 令(大阪工業大学・講師)

植木 紀子(法政大学自然科学センター/法学部法律学科・教授)

小林 愛美(東京大学大気海洋研究所・技術補佐員)

野崎 久義(研究当時:法政大学・兼任講師、現在:日本女子大学・客員研究員、国立環境研究所・研究協力、東京大学・客員共同研究員)

 

【他共同研究者】

長島 麻佑(研究当時:山口大学・学部生)

三角 修己(山口大学・教授)

河地 正伸(国立環境研究所・シニア研究員)

Wuttipong Mahakham(コンケン大学・講師)

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