フローレンス、障害児支援団体や当事者らと共同で仙台市の障害児支援について改善を訴える要望書を仙台市長に提出
仙台市発達障害支援センター(アーチル)の支援体制の早期改善を
仙台市の公的福祉支援体制の問題/保護者に不安・不満の声つのる
東北地方の最大都市であり、約109万人が暮らす仙台市。しかし、様々な事情を抱える親子を支える福祉サービスは、十分とはいえません。
フローレンスでは、2014年に東京都で「障害児保育園ヘレン」を開園して以降、長年にわたって障害児保育・支援問題に取り組んできました。
仙台エリアにおいては、2021年に医療的ケアに対応したシッターサービスである「医療的ケアシッター ナンシー」のサービスを開始したほか、2022年からは医療的ケア児家庭に食料品をお届けする「医ケア児おやこ給食便」、2023年6月からは集団保育が難しいお子さんを対象とした居宅訪問型保育、2023年8月からはSNSを活用したデジタル相談支援「医ケア児おやこよりそいチャット」などを提供しています。これら一連の活動は「#医ケア児もいっしょに まざらいんキャンペーン」として、障害児・医療的ケア児家庭へ多角的な支援を届けています。
▼「#医ケア児もいっしょに まざらいんキャンペーン」について 詳しくはこちら
https://specialneeds.florence.or.jp/mazaline/
今般要望書の提出に至った背景は、フローレンスや仙台エリアで障害児・発達障害児などの支援に携わる事業者に、仙台市発達相談支援センター(通称:アーチル、以下アーチル)に関する保護者からの不安や不満の声が多数あがっていることです。
課題①:アーチルの相談待ち期間は最大4ヶ月、その間療育に辿りつけず追い詰められる保護者も
こどもの発達に不安があったり、健診等で障害があると疑われたり診断を受けたりした場合、児童発達支援サービスを受けるには、各自治体が発行する受給者証(障害福祉サービス受給者証)が必要です。仙台市の場合、児童発達支援に関しては受給者証の発行をアーチルが担っているため、療育の支援を受けるためには必ずアーチルへ相談に行く必要があります。
しかし、現在アーチルでは増加する相談への対応が遅れており、予約を入れてから相談に至るまで最大で約4ヶ月の待ち時間が発生*1しています。その間保護者は不安を抱え、専門の支援に繋がらないまま過ごさなければなりません。「こどもへの接し方がわからない」「相談相手もいない」と孤立して精神的に追い詰められる保護者もいます。こどもも療育を受けられないまま過ごすため、二次障害を引き起こす可能性もあります。フローレンスにも保護者から悲痛な声が届いています。
<実際に寄せられた保護者の声> ・ここ(アーチル)に相談しなければ初期療育も児童発達も利用できません。相談できるまでの母の不安は強く、相談が出来ない期間にこどもの症状や状態が悪化するのではないかと、さらに不安が募ります。不安な親の気持ちを理解してほしい。 ・初めての子育てで発達が遅い我が子と2人で過ごす4ヶ月間は孤独と不安に押しつぶされそうな長い期間でした。 |
*1:仙台市の発達相談支援センター「アーチル」初相談まで最大4カ月待ちー河北新報(2023年5月3日)
https://kahoku.news/articles/20230502khn000030.html
課題②:相談時に通所先の選択肢がすべて提示されず、保護者が就労を諦めざるを得ないケースも
こどもに療育の必要性があると判断された場合、本来は児童発達支援センター・児童発達支援事業所のどちらでも療育を受けられます。しかし、アーチルの窓口では、まずは児童発達支援センターを紹介し、児童発達支援事業所の存在を伝えられないケースも発生しています。「児童発達支援センター以外の選択肢を知らなかった」という保護者も多数存在します。
仙台市のほとんどの児童発達支援センターでは、利用時は常に保護者が付き添わなければいけません。しかし、保護者が就労していたり、きょうだい児がいる場合、付き添いが難しいこともあります。療育を優先し保護者が就労を諦めざるを得ないケースもあり、「児童発達支援センターだけでなく児童発達支援事業所も同じように紹介してほしい・選ばせてほしい」という声があがっています。
<実際に寄せられた保護者の声> ・民間の児童発達の情報提供はされず、児童発達センターに通所するために仕事を辞めました。「母子通園の療育施設しか仙台市にはないので辞めてもらう選択肢しかありませんよ」とアーチルの方に言われました。 ・アーチルから市の管轄の療育施設のみをすすめられ入所しましたが、後々調べてみると民間の児童発達支援施設や、民間で障害児を受け入れている保育園があったことを知りました。なぜ全ての選択肢を伝え、親に委ねてくれないのでしょうか。 |
課題③:療育と保育園・幼稚園などとの並行通園が困難、支給日数の不足などの現状が他市と乖離も
「仙台市ならでは」の状況も、障害児と保護者の生活に支障を生んでいます。
受給者証が発行される際、「支給量」としてひと月に受けられる療育の上限日数が自治体によって決められます。
周辺の自治体ではすぐに十分な量(日数)を支給される一方で、仙台市では不十分な量からスタートになるので困る、という声が保護者および事業所からあがっています。
また、仙台市では幼稚園・保育所などと児童発達支援施設との並行通園についても認められづらい実態があります。厚生労働省は、各自治体に「インクルージョンを推進していく上では、こどもにとっても児童発達支援と幼稚園・保育所等との並行通園を推進していくことが重要」と通知しており、仙台市の実情とは乖離しています。
<実際に寄せられた保護者及び事業所の声> ・仙台市では民間の児童発達支援を使う場合基本的に支給量が5日からのスタートになるよう。そこから支給量を5日増やすのに1年かかった。名取市ではそんなことはない。(事業所の声) ・保育を利用すると児童発達支援センターは退園ですと告げられました。息子には療育も必要だと考えているので並行通園をさせてほしいとアーチルさんに何度も相談させていただいた結果、ようやく認められましたが、並行通園を認められない理由としてアーチルさんからいただいた回答に納得できない点もいくつかありました。保育と療育、母親の就労の3点を各家庭で選択できるよう制度を整えていただきたいです。(保護者の声) |
10月26日(木)、仙台市郡市長へ要望書を提出
フローレンスおよび障害児支援団体・支援者や障害児育児当事者らは、上述のような状況を改善するため、10月26日(木)仙台市郡市長に面会を行い、保護者や事業者の切実な声を取りまとめたアンケートとともに要望書を提出しました。
項目は以下の3点です。
・相談待ち期間の短縮
・民間の児童発達支援施設についての情報提供
・受給者証の柔軟な支給決定
※要望書詳細はこちら:
https://florence.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/10/Sendai-youbou.pdf
<共同発起団体及び支援者、当事者>(敬称略)
・医師 奈良隆寛
・りっきーぱーく保育園/児童発達支援・放課後等デイサービス リッキーガーデン
株式会社ミツイ 副社長 佐藤大介
・アンダンチ保育園 /アスノバ 児童発達支援・放課後等デイサービス
株式会社未来企画 代表取締役 福井大輔
・株式会社リアリノ 代表取締役 橋本浩一 執行役員 菊地浩司
・日本障害児者家族支援会 代表 手代木明美
・~infinity~ 宮城リトルベビーサークル/Challenged-Hands 黒田美由紀
・当事者
要望書を受け取った郡市長は、「アーチルの待ち期間が長いことについては、これまでも改善策をはかってはきているが、改めてしっかりとした対策が必要だと認識した。お子さんと向き合いながら日々不安な想いで、また仕事にも就けずに大変なご苦労をされている方が多くいらっしゃるということを重く受け止める。国のほうでも対応策が検討されていると承知している。その状況も踏まえて本市でも早急に対応をして参りたい。」とコメントしました。
この要望書提出により、仙台に住む障害児や保護者の現状が市全体で共有されるとともに、児童発達支援サービスを必要とする家庭を取り巻く過酷な現状が早急に改善され、全てのご家庭が「仙台で子育てできてよかった」と思う市になるよう、切に願っています。
フローレンスとしても仙台市の今後の動向を注視していきながら、各家庭の声を聞き、政策提言や事業としての課題解決に引き続き取り組んでまいります。
認定NPO法人フローレンスについて
こどもたちのために、日本を変える。フローレンスは未来を担うこどもたちを社会で育むために、事業開発、政策提言、文化創造の3つの軸で、社会課題解決と価値創造をおこなう国内最大規模のNPO法人です。
日本初の訪問型・共済型病児保育事業団体として2004年に設立し、ひとり親支援とこどもの貧困防止、こどもの虐待や親子の孤立防止、障害児家庭支援など、日本のこども・子育ての領域で総合的な活動をおこなっています。
2015年度に「小規模認可保育所」として国策化された「おうち保育園」をはじめとする保育事業、障害児家庭に保育や支援を届ける「フローレンスの障害児保育・支援」、こどもの虐待問題解決のため「フローレンスのにんしん相談・赤ちゃん縁組」、こどもの貧困を解決する「こども宅食」などの取り組みを全国に広め、たくさんの仲間と共に、社会に「新しいあたりまえ」をつくることを目指しています。
▶フローレンスコーポレートサイトURL: https://florence.or.jp/
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