ウェルビーイング重視社会への転換を促す国際規格ISO 25554が発行
高齢化先進国の日本から、世界の地域や企業等で使えるガイドラインを提案
さまざまな組織でウェルビーイング(wellbeing)の推進を実践するために推奨される枠組みを示す国際規格ISO 25554:2024 「高齢化社会―地域や企業等でウェルビーイングを推進するためのガイドライン」(以下「本規格」という)が11月12日に発行されました。日本の事例として企業の健康経営®や自治体施策も紹介されています。本規格の発行によって多くの組織で活動が活性化され、人々のウェルビーイングを第一とする「ウェルビーイング重視社会」の実現に向けた第一歩となることが期待されます。
ISO 25554:2024
高齢社会―地域や企業等におけるウェルビーイング推進のためのガイドライン
Ageing societies -- Guidelines for promoting wellbeing in communities
税込価格:25,542円 A4判 19頁
※規格類は価格が変更される場合がございます。ご了承ください。
【ポイント】
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課題先進国である日本ならではの視点で構築された健康経営のエッセンスを抽出し、組織におけるウェルビーイングを推進するための枠組みを示すガイドラインを日本主導で開発・発行
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多様な組織で活用できるウェルビーイング推進方法を体系化
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国際規格に沿って地域・企業などがウェルビーイングの推進に取り組むことで、ウェルビーイング重視社会の実現へ
【規格の概要】
ISO 25554:2024高齢社会―地域や企業等におけるウェルビーイング推進のためのガイドライン
本規格は、地域や企業等あらゆる規模・性質の組織を対象に、組織とそこに属する一人一人のウェルビーイングを推進する取り組みを支援するためのガイドラインです。また、このガイドラインに沿った日本の事例として健康経営や自治体の取り組みの好事例、デジタル技術活用の概要も紹介されています。
本規格では、取り組むべきウェルビーイングの領域を地域や企業等それぞれの組織が明確に定めて活動することを推奨しています。また、その内容は世界保健機関(WHO)におけるヘルシーエイジングの理念やSDGs(持続可能な開発目標)における「誰一人取り残さない」という理念に則したものであることを前提としています。その上で、以下のようにウェルビーイングを推進するための実践方法を示しています。例えば、
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取り組みを構成する主要な要素(誰を対象とするのか、何を具体的な成果として目指すのか、そのために何をするのかなど)の設定
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実践するために推奨される工程(計測、評価、改善など)の設定
があげられます。加えて、データマネジメントをはじめとする、組織として留意すべき重要事項等も提示しています。
【規格開発の社会的背景】
世界的に高齢化が進むなか、年齢に関わらずウェルビーイングの維持・向上が国際的に重視されるようになりました。それに伴い、GDPなどの経済統計に代わり、人々の生活の質や豊かさを捉え評価するための指標開発の動きも活発化しています。日本でも、地域包括ケアシステムをはじめとする地域共生社会や従業員等への健康投資を行う健康経営などさまざまな施策が実施されてきました。しかし、これらの多様な取り組みに対して、どうやって計画し、評価・改善していくのかという実践方法は共有されず手探りの状況でした。
【規格発行までの道のり】
国際標準化機構(ISO)の専門委員会(TC) 314 “Ageing societies”(幹事国:英国、議長国:米国)は2017年の設立以来ウェルビーイングを重要な課題の一つとして位置づけてきました。これに呼応し、日本の健康経営の普及推進活動で実績のある一般社団法人社会的健康戦略研究所とISO/TC 314 国内審議団体を務める一般財団法人日本規格協会が連携し、国立研究開発法人 産業技術総合研究所と協力してウェルビーイング規格の開発を提案しました。
この提案を受け、ISO/TC 314 高齢社会対応標準化国内委員会 (委員長:東洋大学 山田 肇 名誉教授)のもと対応委員会が設置されました。同委員会では一般社団法人 社会的健康戦略研究所 浅野 健一郎代表理事が委員長を務め、学識経験者や医療関係者などの幅広いメンバーが議論を重ね、国内の意見をとりまとめました。
ISO/TC 314ではWG 4 “Wellbeing” という作業グループが設置され、国立研究開発法人産業技術総合研究所 佐藤 洋副領域長がWG コンビーナ(議長)およびプロジェクトリーダーを、一般財団法人 日本規格協会 水野 由紀子主席専門職がWGセクレタリをつとめ、2021年から本規格の開発が進められました。このプロジェクトには日本をはじめカナダ、スウェーデン、フィンランド、中国、オーストラリアなど約20ヵ国の専門家が参加し、活発な議論が行われました。
開発当初は、対象者や推進領域をどう定めるかについてさまざまな意見が交わされました。議論を重ねる中で、「ウェルビーイングは多義的で文化や背景によっても異なる」という認識を共有し、「取り組むべきウェルビーイングの領域は各組織が定める」という方向性となりました。こうして本規格は、多様な組織において実践可能な枠組みを提示する、ウェルビーイング推進のための世界共通のガイドラインとして発行されるに至りました。
【今後の予定・波及効果】
本規格により、世界中の組織が自らの状況に応じてウェルビーイング向上に取り組む基盤が整いました。
一方で本規格は多様な組織が活用できるように、抽象度の高い内容となっています。そのため、本規格の理解と普及を目的に、世界各地の事例を紹介する技術報告書の開発が ISO/TC 314/WG 4で進められています。これにより、規格の具体的な活用方法を広く共有し、持続可能な「ウェルビーイング重視社会」の実現を目指します。
さらに、本規格の利活用を通じて、ウェルビーイング分野への投資を促進し、ヘルスケアや関連サービス市場を拡大することで、日本の関連産業の発展にも寄与します。
※下線部は【用語解説】参照
用語解説
ウェルビーイング(wellbeing)
一般的には「快適かつ健康で幸福な状態」とされているが、本規格では、このウェルビーイングな状態をどのように実現するかを職域や地域など組織単位で検討することを推奨している。
健康経営®
従業員等の健康保持・増進の取組みが、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること。経済産業省により健康経営に係る各種顕彰制度として、「健康経営銘柄」の選定が行われ、「健康経営優良法人認定制度」が創設されている。
ISO(国際標準化機構)
ISO(the International Organization for Standardization、国際標準化機構)とは、国際連合規格調整委員会の提案により1947年に発足した非政府機関であり、2024年現在172ヶ国が参加している。科学技術や経済などの国際的活動や国家間協力を発展させることを目的として、ISOは電気・電子及び電気通信以外のあらゆる分野の国際規格を発行している。専門委員会(Technical Committee、TC)とはISOに設置された各分野の専門委員会のことであり、TCの下にある作業グループ(Working Group、WG)が国際規格の開発を担当する。
ヘルシーエイジング
人々が何歳になっても自分の意志でやりたいこと、ありたい姿を実現できるよう、その能力を発揮する機会や環境を整備すること。やりたいこと、ありたい姿を実現する能力としては、日常生活をすごすための基本的能力のほか、学び、成長し、自律的であること、活動的であること、社会的関係を築くこと、そして社会に貢献することも含まれる。WHOが 2020年に “Decade of Healthy Ageing” を宣言し、2021-2030年をヘルシーエイジング推進の十年と規定している。
(担当部門:システム系・国際規格開発ユニット 社会システム系規格チーム E-MAIL:cstd@jsa.or.jp)
●日本規格協会(JSA)グループについて
1945年12月に、標準化および管理技術の開発、普及、啓発などを目的に設立された、一般財団法人日本規格協会を中核とするグループです。
我が国の総合的標準化機関として、当グループでは、JIS、国際規格(ISO・IEC規格)、JSA規格の開発、JIS規格票の発行と販売、国際規格・海外規格の頒布、多彩なセミナーの提供、ISO 9001やISO 14001をはじめとする各種マネジメントシステムの審査登録、各種サービスに関する認証、マネジメントシステム審査員などの資格登録、品質管理検定(QC検定)といった多様な事業に取り組んでおります。
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