AIにメモリ（記憶）を：SalesforceとInformatica、企業のAIエージェントに正確な推論と信頼性の高いアクションを提供

※本記事は2025年12月9日に米国で公開されたGiving AI a Memory: Salesforce and Informatica Empower Your AI Agents to Reason Accurately and Take Action You Trustの抄訳です。本記事の正式言語は英語であり、その内容および解釈については英語が優先されます。

AIエージェントを優れたデモから本番運用が可能な状態へ移行しようとしたことがある場合、おそらく「コンテキスト（文脈）のギャップ」に直面したことがあるでしょう。これが、80％以上のAIプロジェクトが失敗する（英語）主な理由の一つです。

AIモデル（英語）はインテリジェントではありますが、必ずしも企業ごとの目的や用途に最適ではありません。世界に関する知識はほぼ全て持ちながらも、企業のビジネスについてはほとんど何も知りません。企業活動に関する共通理解がなければ、AIエージェントは推測を強いられることになります。AIはデータを意味をもたない断片的なノイズとして認識します。「顧客ID」は単なる数字の列であり、「出荷状況」は単なるフレーズに過ぎません。製造におけるバッチ、商取引における注文、サポートにおけるチケットといった断片は認識できても、それらを意味のあるストーリーに繋ぐための信頼できるコンテキスト（文脈）が欠如しているのです。

考えてみてください：新入社員に自社の事業の履歴、ルール、現状を理解することなく重要な判断を下すことを期待するでしょうか。自社のAIエージェントも同様です。効果的に機能するためには、同じく共有されたコンテキストが必要です。Salesforceはその実現に向けて画期的な変化をもたらします。

SalesforceのData 360のポートフォリオは、Informaticaを内包することにより拡張され、中核となるビジネスデータの品質と正確性の向上を果たします。また、MuleSoftでリアルタイムシグナルによるデータ強化が実現します。単純なデータ統合を超えて、アプリやAIエージェントがインテリジェントかつ安全に動作するために必要な信頼性の高いコンテキストを提供する単一のエンジンへと進化します。

Salesforceのユニファイド・データ・サービス、Data 360、およびAI基盤担当EVP兼GMであるラウール・アウラドカー（Rahul Auradkar）は次のように述べています。「コンテキストが欠如したAIは、単なる推測やハルシネーションに過ぎません。SalesforceとInformaticaのエンタープライズのメタデータ、Data 360の調整して一体化された1秒未満のリアルタイムコンテキスト、そしてMuleSoftによる統合の強みを組み合わせることで、推測を推論へと変換します。単に閉じ込められたデータを解放するだけでなく、信頼できるコンテキストを提供することで、AIが安全に動作するためのグラウンディングが可能となります。これにより、AIエージェントがアクションを実行する際には、企業の確かなデータによって裏付けされた根拠を完全に理解して行動することが保証されます」

信頼できるコンテキストのための単一のデータエンジン

これを実現するため、Data 360はAgentforceに人の専門家と同等のコンテキストの理解とインサイトを与える3つの重要な要素を統合しています。

1. 企業の理解（Data 360とInformatica）：まず、アプリケーションとAIエージェントは自社のビジネス定義を理解する必要があります。InformaticaはData 360に対し、中核となるビジネスエンティティとその相互関係を定義するために必要な高度なメタデータインテリジェンスを提供します。

• エンタープライズMDM（Enterprise MDM）：Data 360が顧客向けのゴールデンレコードを作成する一方で、Informaticaはその他のビジネスオブジェクト（製品、サプライヤー、資産など）向けにマスターデータ管理（MDM）を提供します。これにより共通のデータ語彙が構築され、倉庫内の部品Aがカタログ上の「SKU-123」と同一であることを、アプリケーションやAIエージェントが確実に理解できるようになります。

• データカタログ（Data Catalog）：SalesforceのメタデータモデルとInformaticaの全社的なデータカタログを統合し、システム横断的なデータの単一のビューを構築します。これにより、オンプレミスのシステムやデータレイク、レガシーインフラストラクチャに存在するアセットのマップをアプリケーションやAIエージェントに提供できます。

• データリネージ（Data Lineage）：データ検証レイヤーとして機能します。データの発生源から消費先までの全行程を追跡し、途中のあらゆる変換プロセスを表示します。これによりAIエージェントは、データの出所、生成方法、信頼に足る最新性などを把握できます。

2. リアルタイムのシグナルとアクション（MuleSoft）：次に、アプリケーションとAIエージェントは、コンテキストを理解するためにあらゆるシステムからのシグナルに依存しています。MuleSoftは、それらのシステムを接続して、AIが状況を解釈し、安全に意味のあるアクションをトリガーすることを可能にするための運用上のシグナルを可視化します。

3. 単一のデータコンテキスト（Data 360）：最後に、この情報を統合し有効化する場所が必要です。Data 360はそのメモリ（記憶）となります。Informaticaの豊富なビジネスコンテキストとMuleSoftのリアルタイムのシグナルを統合し、アプリケーションやAIエージェント向けの単一で調整して一体化されたコンテキストインターフェースを提供します。

• ゼロコピーテクノロジーを活用することで、データを移動させることなく、あらゆるAIエージェントが豊富なコンテキストを利用可能となります。これにより、アプリケーションやAIエージェントはコピーに伴うストレージコストを発生させることなく、企業内のあらゆるデータにアクセスできます。

• これにより、AIエージェントがトレンド分析を行う場合でも、製品の返品を処理する場合、顧客、ビジネス、およびそのポリシーに関する単一で共有された最新の情報に基づいて動作することが保証されます。

Agentforce 360：信頼できるコンテキストのための統合データエンジン

Agentforce 360は4つのレイヤーで構成されており、その基盤となるのがデータレイヤーです。このレイヤーは、AIがビジネスを理解するために必要な信頼性の高い企業コンテキストを提供します。具体的には、定義や履歴、そして現在の状況を把握します。Data 360、Informatica、MuleSoftが連携することで、この理解を実現します。

プラットフォームの構成は以下の通りです。

データレイヤー：すべては上述のデータ基盤から始まります。このレイヤーでは、Data 360、Informatica、MuleSoft を統合し、信頼性の高いコンテキストを提供します。このレイヤーが Agentforce にメモリ（記憶）と理解を与えます。単に「返金リクエスト」を見るだけでなく、その由来やリアルタイムの状況、さらに顧客プロファイルを含むコンテキストを把握できます。これにより、人の専門家と同等の明晰さで推論することが可能となります。

アプリケーションレイヤー：AIエージェントが業務内容を一から再学習する必要はありません。このレイヤーにより、Salesforceに既に組み込まれた20年にわたるビジネスロジックとワークフローへアクセスできます。セールス、サービス、マーケティング、コマースの各領域で確立されたロジックをすぐに利用できるため、あらゆる自動化されたアクションが自社の既存のルールに沿うことが保証されます。

AIエージェントレイヤー：AIエージェントを構築、管理、オーケストレーションする司令塔となります。Agentforceでは、キャンペーンエージェントやサプライチェーンエージェントなど特定のタスクに特化した専門AIエージェントを展開できます。さらに、MuleSoft Agent Fabric（英語）を活用することで、Salesforceエコシステムの外にあるAIエージェントも運用できます。単一のコントロールプレーンからネイティブのAgentforceのAIエージェントと並行してサードパーティ製エージェント（AWSやOpenAI上で構築されたものなど）のオーケストレーションと管理が可能です。

エクスペリエンスレイヤー：最後に、Agentforceは顧客と従業員が存在する場所に配置される必要があります。エクスペリエンスレイヤーにより、あらゆる従業員や顧客チャンネルへAgentforceを展開することが可能となります。フリーダイヤル番号での音声対応やウェブサイト上のチャット、あるいはSlackやChatGPTへの直接組み込みなど、どのような形態であっても、AIエージェントは信頼性の高いコンテキストとセキュリティを常に保持します。

4つのレイヤーは相互に補完し合い、データレイヤーが信頼できる基盤を提供することで、他のレイヤーの効果が高まります。

オープンかつ拡張性のある基盤：最も重要な点として、Agentforce 360のこれら4つのレイヤーは、オープンで拡張性のあるプラットフォームとして統合されています。これにより、既存のアプリケーションやシステムとの連携が可能となります。データレイヤーではあらゆるソースからのデータの取り込みが可能で、アプリレイヤーではカスタムコードや自動化の機能を記述できます。AIエージェントレイヤーではAgentforceとサードパーティ製AIエージェントを連携させ、エクスペリエンスレイヤーではAIエージェントをチャンネルに組み込むことが可能です。Agentforce 360は、顧客の現状に合わせて柔軟に対応できます。

開発者の声

ウィンダム・ホテルズ・アンド・リゾーツ（英語）やヤマハモーターUSAが、既にこの手法を活用し多様な事業部門間のサイロ化を解消しています。

ウィンダム・ホテルズ・アンド・リゾーツのチーフ・コマーシャル・オフィサーであるスコット・ストリックランド（Scott Strickland）氏は次のように述べています。「当社のような規模では、システム間で定義が統一されていないことが意思決定の遅延やAIによる自動化の範囲の制限に繋がっていました。Informatica、Data 360、MuleSoft、Agentforceを組み合わせることで、ホテル、お客様、フランチャイジーに関する明確で信頼性の高い全体像を把握できるようになりました。こうした詳細な状況の把握が可能になったことで、従来は多大な手作業を要していたプロセスの自動化を迅速に進めることができるようになりました」

ヤマハモーターUSAのデジタル・トランスフォーメーション・アーキテクトであるアンディ・マッキャン（Andy McCann）は次のように述べています。「SalesforceによるInformaticaの買収により、ヤマハ全体で信頼性の高い単一のデータエコシステムを構築する能力が加速できます。これらのプラットフォームを統合することで、長年続いてきたデータのサイロ化を解消し、モータースポーツ事業からマリン事業、ウォータークラフト事業に至るまで、すべての事業部門がクリーンでガバナンスの行き届いた一貫したモデルに基づくデータにアクセスできるようになります。これにより、共有されたインサイト、シームレスな顧客体験、より同期されたグローバルなデジタル基盤を実現し、『One Yamaha』戦略を強化できます。最も重要なのは、AIを活用したパーソナライゼーション、自動化、イノベーションをヤマハの顧客体験全体に安全に拡大できる基盤が整備できることです」

詳細情報

Informatica、Data 360、MuleSoft、およびAgentforce 360 Platformは、本日より利用可能です。これらの製品を組み合わせて導入することで、顧客は既存のエンタープライズシステム全体で信頼性の高いコンテキストを即座に獲得し始めることが可能です。価格はエディションおよび使用量により異なります。詳細は、Salesforceの営業担当までお問い合わせください。

Futurum Signalの「Agentic AI Platforms for Enterprise - Futurum Signal」（英語、2025年10月）において、Salesforceはビジネス価値、戦略的ビジョン、市場投入実行力、エコシステム整合性のカテゴリーで最高位を獲得しています。

• SalesforceとInformaticaについては、こちら（英語）。

• Salesforce Data 360の詳細は、こちら。

• MuleSoftがエンタープライズシステムをインテグレーションする方法は、こちら。

• Agentforceについては、こちら。

• Informatica買収に関する発表は、こちら。

Salesforceについて

Salesforceは、あらゆる規模の企業がエージェンティック エンタープライズへと変革することを支援します。人とAIエージェント、アプリケーション、データを信頼性の高い単一のプラットフォームへ統合することで、これまでにない成長とイノベーションを実現します。詳細は salesforce.com/jp をご覧ください。

Salesforceのコーポレートサイトにある「ニュース＆インサイト」では、日本向けの最新情報をご紹介しています。詳細は、salesforce.com/jp/news/ をご覧ください。

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