宿泊業の不振、取引企業への悪影響鮮明に 食材などの納入企業、8割が「売上減少」 酒類関連は9割超で減収に
納入企業の3割超が赤字、宿泊業を支える周辺産業の廃業や倒産の増加を懸念
<ポイント>
コロナ禍で利用者減に直面しているホテル・旅館業界の苦境が、周辺産業にも甚大な影響を及ぼしている。帝国データバンクの調査では、ホテル・旅館など宿泊業向けに食材やサービスを納入する企業の2020年度業績をみると、前年度から「減収」となる企業の割合が8割に迫るほか、売上高の落ち込み幅は前年度比で平均2割の減少、半数超の企業が「売上20%以上減」となった。業種別でも、特にビールや日本酒など酒類を中心に扱う酒類卸はほとんどの納入企業で売り上げ減となったほか、食材卸や布団・シーツなどリネンサプライをはじめ幅広い業種で売り上げが大きく落ち込んでおり、経営への打撃が深刻化している。
酒類卸や小売では9割が減収、減収率は平均23%に 燃料や食材卸、リネンサプライなど影響多岐にわたる
帝国データバンクが保有する企業データベースから、宿泊業を主な得意先とする企業1000社超を調査した。食材など食料品を中心に納入する企業をはじめ、酒類やアメニティなど雑貨類の卸売業者や小売業者、食品加工会社、産地直送で納入する生産者なども多く含まれている。
納入企業の業種別では、最も減収の割合が大きかったのが「酒類卸」で、宿泊業への納入が判明した約460社のほとんどが減収となり、減収率の平均は23%に達した。同じく酒類を取り扱う「酒小売」も9割近くが減収となった。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言の発出により旅行者が激減したことで、ホテル・旅館からの受注が大幅に減少した。また、特にホテルでは結婚式などまとまった取引が期待できるセレモニー関連需要が相次ぎ蒸発したことが響いた。GoToトラベル効果により一時的にホテルや旅館からの受注量も回復したものの、感染再拡大から同キャンペーンによる効果も限定的なまま受注量は再失速を余儀なくされ、通年で前年度からの減収を余儀なくされた企業が多く目立った。
宿泊業の需要回復まで耐えられるかがカギ、周辺産業で息切れ・あきらめによる廃業増を懸念
観光庁が2013年に地域における観光関連業種の観光客の売上高や費用に関する金の動きなどを把握する目的で実施した調査では、食材などの材料やサービスの地元調達率が宿泊業では約5割に達しており、ほとんどの仕入れを地産地消で行っていることが分かった。宿泊業の地元調達率は全産業の平均に比べても高いことから、宿泊業の動向は地域経済・産業にとっても影響が大きい。
現状では、各社とも受注量が大幅に落ち込み需要が縮小している。一方で、これまで取引を行ってきたホテル・旅館との信頼関係を背景に、同業他社との過度な価格競争や受注の奪い合いといった動きは見当たらない。また、コロナ禍の長期化に伴って旅行消費の低迷が継続する一方、感染収束期には海外同様に国内旅行需要の反動増が見込まれるため、納入企業でも現状をボトムに今後は取引量の回復が見込まれるなど、先行きには期待も持たれる。
ただ、緊急事態宣言の対象地域拡大や期間の延長により、ホテル・旅館の宿泊需要回復には相当期間が必要となる。こうしたなか、客足減に伴う業績悪化も背景にホテル・旅館の廃業は2021年1-6月で前年同期より37件多い104件が発生。食料品や物品、サービスを供給する納入企業など、周辺産業も宿泊業の不振に引きずられる形で、受注の大幅減といった影響が今後も続くと見られる。そのため、現在は事業を継続する中小の納入企業などが、長期の売り上げ減に耐えきれずに経営体力の限界に達する「息切れ型倒産」や、需要回復を前に先行きを悲観して自ら事業をたたむ「あきらめ廃業」の選択に向かう可能性は残っており、国や自治体による支援が引き続き欠かせない状況となっている。
- ホテル・旅館など宿泊業向け納入企業の約8割が減収、赤字は3割に達した
- 酒類卸や小売では9割が減収、減収率は平均23%に 燃料や食材卸、リネンサプライなど影響多岐にわたる
- 宿泊業の需要回復まで耐えられるかがカギ、息切れやあきらめによる倒産・廃業の増加懸念
コロナ禍で利用者減に直面しているホテル・旅館業界の苦境が、周辺産業にも甚大な影響を及ぼしている。帝国データバンクの調査では、ホテル・旅館など宿泊業向けに食材やサービスを納入する企業の2020年度業績をみると、前年度から「減収」となる企業の割合が8割に迫るほか、売上高の落ち込み幅は前年度比で平均2割の減少、半数超の企業が「売上20%以上減」となった。業種別でも、特にビールや日本酒など酒類を中心に扱う酒類卸はほとんどの納入企業で売り上げ減となったほか、食材卸や布団・シーツなどリネンサプライをはじめ幅広い業種で売り上げが大きく落ち込んでおり、経営への打撃が深刻化している。
宿泊業はこれまで、インバウンド需要の取り込みで客足は好調に推移したことで、食事やショッピング、リネンサプライなどサービス業、運輸業など関連する産業でもその恩恵を受けて成長。納入企業の2019年度業績は増収が3割を超えるなど堅調だった。しかし、昨年以降は首都圏などに発出された緊急事態宣言の延長などで客足が大幅に減少したほか、期待された東京五輪が無観客開催となったことで需要が大幅に減少。ホテルでは結婚式など団体予約も延期や中止となり、納入企業も宿泊業の不振に引きずられる形で取引量が大きく減少した。なかでも、宿泊業を主力得意先とする業務用卸や酒類・食材メーカーなどの売上激減が顕著で、「これまで4tトラックで酒類を運んできた問屋が、最近では軽トラックでもほとんど空荷状態なほど取引量が少なくなった」(旅館)といった声も聞かれ、一転して厳しい経営環境が鮮明となっている。今年度も引き続きコロナ禍の影響で宿泊客の戻りが鈍いなか、長期間の需要減に晒され続けてきた納入企業の中には経営体力が尽きるケースも増え始めており、年末にかけて影響がさらに拡大する恐れがある。
酒類卸や小売では9割が減収、減収率は平均23%に 燃料や食材卸、リネンサプライなど影響多岐にわたる
帝国データバンクが保有する企業データベースから、宿泊業を主な得意先とする企業1000社超を調査した。食材など食料品を中心に納入する企業をはじめ、酒類やアメニティなど雑貨類の卸売業者や小売業者、食品加工会社、産地直送で納入する生産者なども多く含まれている。
納入企業の業種別では、最も減収の割合が大きかったのが「酒類卸」で、宿泊業への納入が判明した約460社のほとんどが減収となり、減収率の平均は23%に達した。同じく酒類を取り扱う「酒小売」も9割近くが減収となった。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言の発出により旅行者が激減したことで、ホテル・旅館からの受注が大幅に減少した。また、特にホテルでは結婚式などまとまった取引が期待できるセレモニー関連需要が相次ぎ蒸発したことが響いた。GoToトラベル効果により一時的にホテルや旅館からの受注量も回復したものの、感染再拡大から同キャンペーンによる効果も限定的なまま受注量は再失速を余儀なくされ、通年で前年度からの減収を余儀なくされた企業が多く目立った。
次いで減収企業の割合が大きいのは、重油やガス供給を行う「燃料卸」で、業種全体の約9割が減収だった。ホテルや旅館が休館などで稼働停止に追い込まれたなか、浴場施設のボイラー向け重油や調理用ガスの供給が大きく落ち込んだ。同じく9割が減収となった「パン・菓子類卸」も、朝食用のパンや土産用菓子の供給量が減少したことが響いた。「生鮮魚介類卸」(87.0%)や「食肉卸」(84.9%)など食品関係、宿泊客の使用したシーツや浴衣などを回収・洗濯するクリーニング業など(83.2%)なども減収企業の割合が大きく、幅広い周辺産業で宿泊業の低迷による影響を大きく受けている。
宿泊業の需要回復まで耐えられるかがカギ、周辺産業で息切れ・あきらめによる廃業増を懸念
観光庁が2013年に地域における観光関連業種の観光客の売上高や費用に関する金の動きなどを把握する目的で実施した調査では、食材などの材料やサービスの地元調達率が宿泊業では約5割に達しており、ほとんどの仕入れを地産地消で行っていることが分かった。宿泊業の地元調達率は全産業の平均に比べても高いことから、宿泊業の動向は地域経済・産業にとっても影響が大きい。
現状では、各社とも受注量が大幅に落ち込み需要が縮小している。一方で、これまで取引を行ってきたホテル・旅館との信頼関係を背景に、同業他社との過度な価格競争や受注の奪い合いといった動きは見当たらない。また、コロナ禍の長期化に伴って旅行消費の低迷が継続する一方、感染収束期には海外同様に国内旅行需要の反動増が見込まれるため、納入企業でも現状をボトムに今後は取引量の回復が見込まれるなど、先行きには期待も持たれる。
ただ、緊急事態宣言の対象地域拡大や期間の延長により、ホテル・旅館の宿泊需要回復には相当期間が必要となる。こうしたなか、客足減に伴う業績悪化も背景にホテル・旅館の廃業は2021年1-6月で前年同期より37件多い104件が発生。食料品や物品、サービスを供給する納入企業など、周辺産業も宿泊業の不振に引きずられる形で、受注の大幅減といった影響が今後も続くと見られる。そのため、現在は事業を継続する中小の納入企業などが、長期の売り上げ減に耐えきれずに経営体力の限界に達する「息切れ型倒産」や、需要回復を前に先行きを悲観して自ら事業をたたむ「あきらめ廃業」の選択に向かう可能性は残っており、国や自治体による支援が引き続き欠かせない状況となっている。
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