伊勢谷友介著『自刻像』を1月26日に発売!
「生き方を模索するために、過去の自分に会う旅をしました」
株式会社文藝春秋(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:飯窪成幸)は、2024年1月26日(金)に、伊勢谷友介著『自刻像』を発売いたします。
本書は、2020年9月に大麻取締法違反容疑で逮捕されて以降、活動を自粛してきた俳優・伊勢谷友介の語り下ろしによるものです。
映画復帰第1作となる『ペナルティループ』が2024年3月に公開されるのを前に、これまで歩んできた人生の様々な場面(シーン)について、率直に語りました。
幼少時代を過ごした北海道・函館の記憶、東京芸大入学、沖縄・渡嘉敷島やインドへの旅、複雑な家庭環境、齢の離れた異母兄・山本寛斎氏との交流、映画にかける思い、東日本大震災の際の活動、そして事件について。
自ら語ったさまざまなエピソードから、ひとりの人間の像が刻まれていく――そんな一冊を目指しました。
また本書には、幼少期~東京芸大受験期に著者が描いた絵や、海外旅行でのスナップなどの写真も収録されています。
【本書「警視庁湾岸署」の項より】
2020年9月8日の午後3時すぎ。ちょうど映画撮影の休日だったこの日、気分転換にスケートボードをしに出掛けようとしていた時だった。
玄関を出ると、外に待ち構えていたのは10人以上もの男たち。まるで映画やドラマのワンシーンを切り取って貼り付けたかのような違和感のある光景。警察官だと気づくのに、時間はかからなかった。
「伊勢谷友介さんですね」
捜索差押許可状を見せられ、彼らの目的がわかった。
「警視庁組織犯罪対策5課です。これより家宅捜索を行います」
そのまま部屋に戻り、すぐに家宅捜索が始まった。
リビング、寝室、クローゼット。捜査員は手分けして各部屋に入り、棚や引き出しをかたっぱしから開けていく。きれいに片付いていたはずの部屋は、たちまち、引き出しから取り出された物で溢れかえった。
ほんの数分前まで、一人でくつろいでいたこの部屋が、自分が見たこともない空間になっていく。でも、僕が部屋の中の物に手をつけることは一切許されない。
部屋の隅に立って、警察官の動きを見ているうちに、めまいを覚えた。目の前で起きていることは、現実のものなのか。
「テーブルの引き出しです」
僕はそう言った。
「〇時〇分、大麻取締法違反の現行犯で逮捕します」
ドラマでよく出てくるこんな言葉があったのかどうか分からない。気づくと、僕の手には手錠が掛けられていた。乾燥大麻4袋を所持していたという容疑だった。
それまでも、俳優やミュージシャンなど芸能界の人が大麻で逮捕されていたことは、もちろん知っていた。その都度、不祥事として大きく報じられ、出演映画が公開中止になったり撮り直しを余儀なくされるなど、社会的に影響を与えることも当然、認識していた。
でも、自分だけは大丈夫。捕まるわけがない。どこかでそう考えていたのかもしれない。
今思えば、本当に浅はかだった。(以下略)
【本書「帯広」の項より】
俳優としてこれまで50作近い映画に出演してきた。中でも思い出深いのは、2006年公開の『雪に願うこと』の現場だ。
僕が演じたのは主人公の矢崎学。東京で一時はビジネスで成功をおさめるも、やがて経営していた会社は倒産。妻から絶縁され、派手な暮らしも友人たちからの信頼もすべて失い、無一文で故郷の帯広に戻る。その学を迎え入れたのは、ばんえい競馬の厩舎を細々と運営する兄・威夫。学は、兄のもとで厩務員見習いとして働き、成績不振で処分される運命の馬・ウンリュウに自分を重ね合わせ、自分の弱さと向き合いながら新たな一歩を踏み出していく。
「伊勢谷君は、東京っぽい雰囲気がある上に、なんとなくいい加減な感じがするから、学役にぴったりだよね」
根岸吉太郎監督は、僕をそう評してくれた。
「俺が、この作品を伊勢谷君の代表作にするから」
そんなことまで言っていただけて、俳優として嬉しくないわけがない。必ず監督が求めるパフォーマンスを見せようと、かなり気合を入れて撮影に臨んだ。
共演者には、佐藤浩市さん、小泉今日子さん、津川雅彦さん、山﨑努さんをはじめ、そうそうたる先輩方がそろっていた。しかし、委縮してしまうと、僕自身の芝居だけでなく映画全体に悪い影響が及んでしまう。だから、相手が誰であろうと、実世界での僕の感情を入れないように、あくまでも学というキャラクターが作品上で相手に抱いている感情で接しようと意識していた。
当時、僕は29歳。映画には10作以上出て、俳優として経験を少しずつ積み重ねていたと同時に、試行錯誤しながらようやく自分なりの演技の方法を確立しつつある時期だった。
まず、セリフを完璧に覚える。セリフから人物の感情の糸を見つけて、自分の中に落とし込んでいく。そういう方法で臨んでみたものの、根岸監督の演出は、僕が積み上げていたものを根本から覆していった。
たとえば、監督は、僕に一度セリフを言わせてみてから、
「このセリフは言わなくていい。これも言わなくていい」
そうやって、現場でどんどんセリフを省いていったのだ。
セリフは脚本家にとっても監督にとっても、この上なく大切なものだ。ギリギリまで考えた抜いて紡いだセリフをあっさりと現場で抜いていくことに驚いた。そして、セリフが極限まで削られたことで、「これを言うときは、険しい表情をしよう」みたいな考えは消えていった。感情は研ぎ澄まされ、自分の心の中から湧き上がるものを純粋に表現できたような気がした。
当時の僕の演技の技術は、まだまだ足りなかった。しかし、根岸監督の演出法は、僕に集中力を与え、技術を高めてくれたと思う。(以下略)
<本書刊行についての伊勢谷友介のコメント>
「個の命は種の存続の為にある」ことに気がついてから、地球上で唯一、自らの未来を壊す生物である愚かな我々人類と、その社会の変革のイメージを育み、行動に変えることが僕の人生でした。それが出来なくなった今、次の生き方を模索するために過去の自分に会う旅をしました。他人や社会のために生きるのではなく、自分のための時間の使い方を探しに、過去の自分と向き合う旅です。お付き合いいただければ幸いです」
■著者プロフィール
伊勢谷友介(いせや ゆうすけ)
1976年生まれ。俳優、アーティスト。2020年9月8日、大麻取締法違反容疑で逮捕。同年12月22日、懲役1年執行猶予3年の刑を受けた。
■書誌情報
出版社:株式会社 ⽂藝春秋
書 名:『自刻像』(じこくぞう)
著 者:伊勢谷友介
判 型:四六判仮フランス装 192ページ
発売⽇:2024年1⽉26⽇(金)
定 価:1,870円(税込)
ISBN:978-4-16-391800-6
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