世界初、高配向性熱分解グラファイトの自己復元特性を確認

MEMSの長寿命化により、振動環境でも壊れにくい信頼性の高い機器の実現に寄与

三菱電機株式会社

試験方法と自己回復特性の試験結果

 三菱電機株式会社は、国立大学法人京都大学(以下、京都大学)大学院工学研究科の固体力学研究室(平方研究室)との共同研究により、ファンデルワールス(vdW)積層材料(※1)の一種である高配向性熱分解グラファイト(HOPG)(※2)が、自己復元特性を持つことを世界で初めて(※3)確認しました。本成果は、vdW積層材料を用いた微小電気機械システム(MEMS)(※4)の長寿命化を実現し、MEMSを搭載するさまざまな機器の信頼性向上に寄与します。なお、本研究は、2019年から続く京都大学との組織連携活動(※5)の一環として実施しました。

 近年、スマートフォンの高機能化、車載システムにおける自動運転・安全制御の高度化、ウェアラブルデバイスの普及などに伴い、加速度センサーや圧力センサーなどのMEMSの需要が急速に拡大しており、長期間の振動や衝撃に耐える高い耐久性を確保しながら、軽量化を実現することが求められています。このような背景のもと、軽量で柔軟かつ高い強度を持つvdW積層材料のMEMSへの適用が有望視されてきましたが、vdW積層材料はマイクロレベル試験片の作製が難しく、試験方法も確立されていないため、中長期的な信頼性、特に繰り返しの負荷に対する疲労特性はこれまで解明されていませんでした。

 当社と京都大学は、HOPGのマイクロレベル試験片の作製に成功し、さらに試験片に繰り返し曲げ負荷を与えてせん断変形させる新たな試験方法を確立(※6)し、試験結果の分析を進めてきました。そして今般、当社は、HOPGの試験片が負荷回数の増加に伴い軟化し、時間の経過とともに硬さを含む機械的強度が回復する「自己復元特性」を持つことを世界で初めて(※3)確認しました。この発見は、積層構造によって振動エネルギーを逃がす特性を持つHOPGを、振動による疲労を回復する機能を備えた振動吸収機構(※7)として利用できる可能性を示すものであり、この機構を応用することで、継続的な振動環境でも壊れにくく、信頼性の高い機器の開発に寄与することが期待されます。今後は、この疲労試験方法を他のvdW積層材料にも適用し、MEMSの長寿命化を実現するための研究を進めていきます。

 なお、本研究成果は、ダイヤモンドや関連材料に関する国際的な学術誌「Diamond and Related Materials(※8)」に採択されました

■本成果の特長

世界で初めてHOPGの自己復元特性を確認、41%まで低下した変形抵抗が7日間で97%まで回復

・HOPGのマイクロレベルの試験片に、繰り返し曲げ負荷を与える試験を実施。HOPGへの負荷回数の増加に伴い試験片が軟化するものの、時間経過とともに硬さを含む機械的強度が元に戻る「自己復元特性」を持つことを、世界で初めて確認                           
・両方向に試験片を変形させる試験では、1,000回の負荷で変形抵抗が41%まで低下し軟らかくなった試験片が、7日間放置した結果、97%まで回復することを確認。HOPGを素材とするMEMSの長寿命化の促進に寄与

試験中の電子顕微鏡観察像

■今後の予定・将来展望

 今回確認した自己復元特性をMEMSの振動吸収機構に応用し、長寿命で信頼性の高い振動吸収機構の開発を目指します。また、他のvdW積層材料についても自己復元特性の研究を深めていくとともに、材料の変形によって電位が発生するvdW積層材料への応用も進め、変形エネルギーを効率的に電気エネルギーに変換し続けるMEMSの実現に取り組んでいきます。

■役割分担

組織名称

担当内容

三菱電機

HOPGの疲労特性評価、結果の分析

京都大学

ナノ構造の物性に関する基礎研究

■特長の詳細

世界で初めてHOPGの自己復元特性を確認、41%まで低下した変形抵抗が7日間で97%まで回復

 私たちが日常的に使う製品によく用いられている金属は、何度も繰り返し曲げたり力を加えたりすると「金属疲労」が起こることで劣化し、やがて壊れます。これは、繰り返し力を加えることでひび割れに発展するためです。一方、グラファイトのようなvdW積層材料は、強い原子結合を持つ薄いシート(グラフェン層)が非常に弱い力(vdW力)で何層も積み重なった特殊な構造をしています。この構造により、曲げられても層と層の間がすべり(層間すべり)を起こすため、折れて壊れてしまうことなく、大きな変形を柔軟に吸収することができます。

vdW積層材料の構成

 本研究では、非常に小さなHOPGの試験片に繰り返し負荷を与える試験を、電子顕微鏡内で実施しました。試験は、一方向のみに変形させる負荷方法(片振り)と、両方向に変形させる負荷方法(両振り)の二つの方法で実施しました。片振り試験では、10,000回の負荷を与えた後に38日間放置し、次に少し負荷を大きくして3,000回の負荷を与えた後に30分間放置し、さらに負荷を大きくして3,000回の負荷を与えました(合計16,000回)。両振り試験では、1,000回の負荷を与えて7日間放置した後、負荷を大きくして1,000回の負荷を与えました(合計2,000回)。

 その結果、どちらの試験でも、負荷を与えた回数が増えるのに伴って、片振り試験では10,000回で初期の66%、両振り試験では1,000回で41%まで試験片が軟らかくなる(変形抵抗が低下する)ことが明らかになりました。そして、この軟らかくなった状態が、時間の経過とともに回復するという自己復元特性を世界で初めて確認しました。片振り試験では、10,000回の負荷後38日間放置することで変形抵抗が91%まで回復し、両振り試験では、1,000回の負荷後7日間で97%までほぼ完全に回復しました。片振り試験の13,000回目から13,001回目で放置した時間は30分でしたが、ここでも70%から82%に回復しました。HOPGで今回確認できたこの自己復元特性は、vdw積層を構成する二次元材料であるグラフェンが高強度かつ柔軟であることと、グラフェン同士の間にはたらくvdW相互作用が、層間すべりによって一度切れたとしても再び形成されるという特性を持つことに起因します。

 これらの結果により、HOPGを素材とするMEMSの長寿命化の促進に寄与するとともに、MEMSを搭載するさまざまな機器の信頼性向上に貢献します。

試験におけるせん断弾性係数と繰り返し数の関係

■三菱電機グループについて

 私たち三菱電機グループは、たゆまぬ技術革新と限りない創造力により、活力とゆとりある社会の実現に貢献します。社会・環境を豊かにしながら事業を発展させる「トレード・オン」の活動を加速させ、サステナビリティを実現します。また、デジタル基盤「Serendie®」を活用し、お客様から得られたデータをデジタル空間に集約・分析するとともに、グループ内が強くつながり知恵を出し合うことで、新たな価値を生み出し社会課題の解決に貢献する「循環型 デジタル・エンジニアリング」を推進しています。1921年の創業以来、100年を超える歴史を有し、社会システム、エネルギーシステム、防衛・宇宙システム、FAシステム、自動車機器、ビルシステム、空調・家電、デジタルイノベーション、半導体・デバイスといった事業を展開しています。世界に200以上のグループ会社と約15万人の従業員を擁し、2024年度の連結売上高は5 兆5,217 億円でした。詳細は、www.MitsubishiElectric.co.jpをご覧ください。

※1 分子同士の弱い引力を利用して構造を形成する材料

※2 個々のグラファイト微結晶の向きが一致している高純度で配向のよいグラファイト

※3 2026年1月27日現在、当社調べ

※4 Micro Electro Mechanical Systemsの略称。機械要素部品、センサー、アクチュエーター、

    電子回路を一つの基板上に集積したミクロンレベルのデバイスを指す

※5 2019年3月25日広報発表

    https://www.mitsubishielectric.co.jp/ja/pr/pdf/2019/0325.pdf

※6 https://www.giho.MitsubishiElectric.co.jp/giho/pdf/2025/2501103.pdf

※7 外部から加わる振動エネルギーを内部で吸収・分散させることで、対象物の振動や衝撃を

    軽減し、ダメージや疲労を抑制する仕組み

※8 https://www.sciencedirect.com/journal/diamond-and-related-materials

<お客様からのお問い合わせ先>

三菱電機株式会社 先端技術総合研究所

〒661-8661 兵庫県尼崎市塚口本町八丁目1番1号

FAX 06-6497-7285

https://www.MitsubishiElectric.co.jp/corporate/randd/inquiry/index_at.html

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会社概要

三菱電機株式会社

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URL
https://www.MitsubishiElectric.co.jp/
業種
製造業
本社所在地
東京都千代田区丸の内2-7-3 東京ビル
電話番号
03-3218-2111
代表者名
漆間 啓
上場
東証プライム
資本金
1758億2077万円
設立
1921年01月