小さな川、大きなリスク ―気候変動で浮き彫りになる中小河川の洪水リスクと防災ギャップ―

(ポイント)
・米国本土の洪水リスク*1を河川規模別に体系的に評価し、気候変動と社会経済発展による影響を算出。
・中小河川は洪水の影響を受けやすい一方で堤防などの防御水準が最も脆弱*2であり、周辺住民が深刻なリスクに直面していることが判明。
・洪水リスクを過去水準に抑えるには莫大な気候適応*3コストがかかり、中小河川1 kmあたり最大約400万米ドルの投資が必要。優先的な予算配分が急務。
(概要説明)
熊本大学大学院先端科学研究部の張浩教授が参画する、清華大学、東京大学、熊本大学、東京科学大学からなる国際共同研究チームは、高解像度の水文・水理シミュレーション、人口動態予測、および既存の河川インフラ整備データを統合し、将来の気候変動と社会経済発展下における米国本土の異なる規模の河川流域の洪水リスクと防災ニーズを体系的に評価しました。
その結果、中小河川は今世紀半ばまでに気候変動による洪水強度の増加に対して高い感受性*4を示す一方、既存の防御水準は最も脆弱であり、周辺住民が不均衡に高いリスクに直面する恐れがあることが明らかとなりました。さらに、洪水リスクを過去の水準に抑えるには、河川1 kmあたり最大約400万米ドル(2005年価格換算)の投資が必要であると試算されました。本研究は、河川規模ごとの防御水準に生じている顕著なミスマッチの解消に向け、長年整備の遅れてきた中小河川への投資を優先的に行うことが急務であると警鐘を鳴らしています。
本研究成果は、「Future flood risk concentration for residents near small rivers across the United States(米国本土における中小河川流域に集中する将来の洪水リスク)」と題し、2026年7月10日に国際学術誌『Nature Sustainability』にオンライン掲載されました。
(説明)
[成果]
本研究により、以下の重要な事実が明らかになりました。
①中小河川流域における「不均衡に高い洪水リスク」
中小河川流域には広大な人口が暮らしているにもかかわらず、既存の防災レベルは各種河川の中で最も低く、住民が不均衡に高い洪水リスクに直面している実態が示されました。
②気候変動に対する中小河川の「高い感受性」
今世紀半ばにおいて、中小河川は大河川に比べて気候変動への感受性が高く、年間最大日流量の増加幅がより大きいことが判明しました(図1)。大河川は通常、高い防災水準を有しているため、将来の洪水リスクの増加は主に流域人口の増加と暴露の拡大が主因となります。一方で、中小河川は気候変動そのものがもたらすハザード*6の激甚化がリスクを押し上げます。
③中小河川で突出する莫大な「気候適応コスト」
今世紀半ばに、洪水リスクを過去の基準期間の水準にまで抑え込むために必要な防災投資額を算定したところ(図2)、中小河川で必要とされる河川1kmあたりの投資額は、大河川を著しく上回り、約400万米ドル(2005年米ドル換算)に達することが分かりました。河川規模は小さくとも、基礎的な防災インフラが脆弱であるため、気候適応にかかるコストが河川規模に比して極めて高くなることを示しています。
[展開]
本研究成果は、将来必要とされる防災ニーズと既存の防災水準との間に顕著なミスマッチが存在し、特に中小河川における防災ギャップ*7が極めて深刻であることを浮き彫りにしました。
今後、国や地域が防災計画や予算配分を行う際、長年整備が遅れてきた中小河川およびその流域コミュニティに着目し、その防災レベルと気候変動に対応するための備えを優先的に強化することが急務です。本研究の知見を活用することで、洪水による人的・経済的被害の低減、地域間の防災格差の縮小、そして気候変動に強い社会全体のレジリエンス*8強化につながることが期待されます。
[用語解説]
*1 洪水リスク: 本研究では河川の水位上昇に伴う氾濫の可能性や、それによって生じる社会的・経済的な被害の影響を指す。
*2 脆弱性: 災害に対して被害を受けやすい性質や、災害に対応・適応する能力の低さ。
*3 気候適応: 気候変動による被害を回避・軽減するため、インフラの整備や社会システムを調整する取り組み。
*4 感受性: 大雨や気候変動といった外部からの衝撃に対して、河川や地域が「どの程度影響を受けやすいか」という物理的・構造的な特性(今回の研究では、中小河川が大河川に比べて少しの雨でも氾濫しやすい性質を指す)。
*5 暴露: 洪水が発生するおそれのある区域に、人や資産、建物がどれだけ存在しているかの度合い。
*6 ハザード: 洪水を引き起こす大雨や台風など、災害の原因となる自然現象そのものの規模や発生確率。
*7 防災ギャップ: 激甚化する気候変動リスクに対して「本来必要とされる防災対策の水準」と、「現実の予算・対策状況」との間に生じている格差。本研究では、大河川に比べ中小河川の対策が後回しになっている「河川規模による防御の格差」と、洪水リスクを過去水準に抑えるための巨額の気候適応コストに対して現在の予算が圧倒的に足りていない「資金的な格差」の2つの側面から、その実態を浮き彫りにしている。
*8 レジリエンス: 災害が発生した際に、被害を最小限に抑え、インフラや地域社会が迅速に復旧・復興できるしなやかな強さ(回復力)。
(論文情報)
論文名:Future flood risk concentration for residents near small rivers across the United States(米国本土における中小河川流域に集中する将来の洪水リスク)
著者:Ruijie Jiang, Hui Lu, Deliang Chen, Kun Yang, Dai Yamazaki, Hiroshi Cho, Gang Zhao, Jiahua Wei, Fuqiang Tian & Dabo Guan
掲載誌:Nature Sustainability
doi:10.1038/s41893-026-01896-7
URL:https://www.nature.com/articles/s41893-026-01896-7
【詳細】 プレスリリース(PDF357KB)
※各図は上記PDFファイルよりご確認ください。
【お問い合わせ先】
熊本大学大学院先端科学研究部(工)
担当:張 浩(教授)
電話:096-342-3579
E-mail:hcho※kumamoto-u.ac.jp
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