見回り負担を9割削減、AIで熊も追い払う─IoTと鳥獣対策【セミナーレポート】
共催セミナーレポート「深刻化する鳥獣被害に挑むIoT×狩猟の最前線」
農作物被害や人身被害のリスクが指摘される鳥獣問題。一方で、その対策を担う狩猟者は減少傾向にあります。環境省の統計によると、狩猟者登録数はピーク時の約50万人から約20万人規模まで減少し、60歳以上が過半を占めています。
限られた人員で、広範囲に点在する罠を管理し、安全を確保するにはどうすればよいのか。
この問いに対し、株式会社ソラコムと株式会社ジョイ・ワールド・パシフィック(以下、JWP)は、IoTとAIを活用した実践事例を紹介する共催セミナーを開催しました。本記事では、その内容をレポートします。
現場の「非効率」をIoTで置き換える
最初のセッションでは、ソラコムの井出より、IoTの基本的な考え方と地域課題への応用事例を紹介しました。
IoTとは、センサーやデバイスをクラウドにつなぐことで、人手に頼らずデータを集めたり、現場を動かしたりする仕組みのことです。ソラコムは、この仕組みに必要な「デバイス」「通信」「クラウド」をプラットフォームとして一括で提供しており、屋外でもつながるセルラー通信やSigfoxといったIoT向けの長距離無線通信を展開しています。
紹介された事例のひとつが、養豚場での飼料残量管理です。従来は、人がサイロの横の梯子に登り、壁を叩いて音の変わる位置から残量を推測していました。危険で手間のかかるこの作業を、センサーに全面的に置き換えた事例です。この作業をセンサーで自動化することで、「転落リスクの低減」、「確認工数の削減」、「在庫管理の精度向上」を実現しました。
こうした「危険・非効率な見回り作業をセンサーに任せる」というアプローチは、鳥獣対策の現場でも応用できます。罠猟では、仕掛けた罠に獲物がかかっているかどうかを確認するために、山間部に点在する全ての罠を定期的に巡回する必要があります。高齢化が進む現場にとって、この見回り負担は深刻な課題です。
「罠猟は餌付けが8割」──現場のプロが語る鳥獣対策のリアル
続いて登壇したJWPの佐々木氏は、鳥獣被害の実態と狩猟の基礎を、現場の感覚を交えて解説しました。
鳥獣被害は「農林被害」「生活環境被害」「人身被害」の3つに大別されます。被害額は一時減少傾向にありましたが近年再び増加に転じており、シカとイノシシによる農作物被害が特に深刻です。
対策の基本は「守る(柵で侵入を防ぐ)」「離す(藪を刈り、動物の隠れ場所をなくす)」「捕る(罠や銃で捕獲する)」の3ステップ。この中で最もノウハウが求められるのが「捕る」の段階です。

佐々木氏が特に強調したのは、箱罠を使ったイノシシ捕獲における「餌付け」の重要性でした。
「箱罠の場合、餌付け、馴らしこそが勝負の8割を決めます。初めは、動物は警戒して箱の中に入ってくれません。周りに餌を撒いて誘引して、だんだん箱の周辺に餌付けして、徐々に箱の奥に餌を集めて誘導していく。箱の奥で餌を完食したら、初めてトリガーをセットして狩猟の体制に入ることができます」
イノシシは学習能力が高く警戒心が強いため、いきなり捕獲しようとしても成功しません。時間をかけて罠に慣れさせるプロセスが不可欠であり、テクノロジーが担うべき役割は、現場知を置き換えることではなく、補完する役割が求められます。
見回り工数90.7%削減──IoT検知デバイス「ワナベル」の実力
そのニーズに応えるのが、JWPが開発したIoT検知デバイス「ワナベル」です。後半のセッションでは、技術担当の佐藤氏からその仕組みと導入成果が共有されました。

シンプルだから確実に動く
ワナベルの仕組みは明快です。罠の扉が落ちたりワイヤーが引かれたりする物理的な動きを利用して、デバイスに付いたマグネットが外れます。これによりセンサーが作動し、低消費電力の広域無線であるLPWA通信(Sigfox)を通じてクラウドへ通知が送られ、管理者にメールが届きます。
カメラ映像から「何かが通った」ことを推測する方式と異なり、罠が実際に作動したという事実を検知する点が特長です。佐藤氏も「物理的に作動したという確実性の部分で評価をいただいている」と語りました。

大阪府での実証:見回り36時間→3.4時間に
農研機構の「スマート農業実証プロジェクト」として大阪府のある自治体で導入した結果、見回りにかかる工数は36時間から3.4時間へ、90.7%の削減を達成しました。
「かかっているかわからない罠を全て巡回する」という空振りの作業がなくなり、通知が来た罠だけを確認すればよくなったことで、限られた人員でも効率的な捕獲活動が可能になったのです。
なお、ワナベルは自治体だけでなく個人のハンターも導入可能です。佐々木氏によれば「ご自身で狩猟されている方から直接問い合わせをいただき、地元の仲間と使われるパターンも増えている」とのことでした。
AIが熊を見つけて追い払う──リンゴ農家を守る「目」と「音」
セミナー後半の大きなテーマが、近年特に社会的関心が高まっている「熊被害」への対策です。
農作業中に熊と遭遇する──青森の切実な現実
JWPの本社がある青森県では、リンゴ畑や水田で作業中に熊に襲われる被害が深刻化しています。農作物の食害だけでなく、人命に関わるリスクが常にあります。熊被害の対策は環境や地域の自治体の方針などによって異なりますが、基本的には捕獲、もしくは追い払いを強化することになります。JWPは、「追い払い」強化のための、AIによる自動検知と威嚇を組み合わせたシステムの実証実験について紹介しました。

「安価で手に入る部材」で組んだシステム構成
このシステムの設計思想は明確で、特殊な機材に頼らず、入手しやすい部材で構成することを重視しています。
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頭脳(AI処理): NVIDIA製の小型AIコンピュータ「Jetson Orin Nano」
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目(映像入力): 市販のUSB接続型カメラ
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威嚇装置: パトライト(回転灯と警報音の一体型)
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通信: ソラコムのセルラー通信と、USB接続のスティック型通信端末を利用し、画像をクラウドへ送信
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電源: ソーラーパネルとバッテリーによる自立型(電源のない畑でも稼働)
動作の流れもシンプルです。カメラが畑を常時監視し、物体検出モデル(YOLO)が映像から「熊」や「鳥」などをリアルタイムに識別。検知した瞬間にパトライトが激しく光り警報音を鳴らすと同時に、検知時の画像が管理者のスマホやPCにメールで届きます。
弘前市のリンゴ畑3箇所で実証──熊が逃走する決定的瞬間
青森県弘前市のリンゴ畑3箇所に設置して行われた実証実験では、期間中、検知後に熊が速やかに畑外へ移動する様子が複数回確認されました。まず、熊がリンゴの搾りかすを食べている様子が映っています。そこにシステムが反応し、ライトと警報音が作動。佐藤氏はこう説明しました。
「ライトと警報が鳴ったところで、熊が気づいてびっくりしている写真です。この後すぐに、藪の方に逃走したというような……追い払いの様子を確認することができました」

追い払いだけではない──「今、畑に行っても大丈夫か」を判断できる
このシステムの価値は、熊を追い払うことだけにとどまりません。農家にとっては**「今この瞬間、畑に行っても安全か」を判断するツール**にもなっています。
「家まで警報が聞こえるということで、『今は畑に行くのをやめよう』と警戒できた、というお声もいただいています」(佐藤氏)
警報が鳴れば畑への出発を見合わせ、鳴っていなければ安心して向かえる。テクノロジーが「追い払い」と「人間の安全確保」の両方を同時に実現したことが評価されています。
まとめ:泥臭い現場知と最先端技術の融合
本セミナーで印象的だったのは、「罠猟は餌付けが8割」という現場の泥臭いノウハウと、IoTやAI物体検知といった最先端技術が、対立するものではなく互いを補い合っているという点です。
どれほど高度なセンサーやAIがあっても、獣の行動を理解した上で罠を仕掛け、餌付けをするといった仕事には人間の知見が必要です。一方で、広大な山林に点在する罠の見回りや、いつ現れるかわからない熊の監視は、テクノロジーが得意とする領域です。
見回り工数の9割削減、AIによる熊の追い払い成功──これらの成果は、テクノロジーが地域の課題を解決する力を持っていることを示しています。
ソラコムは、こうした現場のIoT実装を通信プラットフォームの面から支えています。鳥獣対策に限らず、「現場の見回りや監視をIoTで効率化したい」とお考えの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
ソラコムでは、このようなIoTの仕組みを利用したい企業に、必要となる業界・用途で実績をもつパートナーをご紹介しています。また、仕組みから開発したい企業にIoT通信の選択をご紹介しています。まずはソラコムにお問合せください。
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