神経変性疾患の性差を制御する炎症シグナルを発見 ――グリア細胞由来CXCL10がメス特異的にタウ病理を促進――

国立大学法人熊本大学

(発表のポイント)

◆タウオパチーモデルマウスを用いて、ケモカインCXCL10がメスでのみタウ病理の進行を促進することを明らかにしました。

◆空間トランスクリプトーム解析により、CXCL10がタウ病理の強い脳領域において、グリア細胞、特に病態関連アストロサイトで高発現することで炎症性ニッチ(微少な炎症環境の場)を形成することを発見しました。

◆本成果は、CXCL10を標的とした新たなタウオパチー治療法の開発や、神経変性疾患における疾患の進行に性差が生じることの理解につながることが期待されます。

(概要)

東京大学大学院医学系研究科の齊藤貴志教授、肱岡雅宣助教、名古屋市立大学の上西涼平大学院生(東京大学大学院医学系研究科 特別研究学生)らの研究グループは、滋賀医科大学・松葉由紀夫特任助手、熊本大学・竹尾透教授、および理化学研究所・西道隆臣客員主管研究員、三平尚美テクニカルスタッフらとの共同研究により、「タウオパチー」(注1)の病態を促進する因子としてケモカインCXCL10(注2)を同定しました。空間トランスクリプトーム解析(注3)により、脳内の炎症環境を解析した結果、CXCL10が病態特異的なアストロサイトやミクログリア(注4)で増加することを発見しました。さらに、CXCL10の欠損により、タウ病理の蓄積が抑制され、生存期間が延長することを見出しました。特筆すべきことに、この病態改善効果はメスでのみ認められました。これは、CXCL10がメス特異的なタウ病態進行因子である可能性を示し、神経変性疾患の進行に性差が生じることの理解や治療法開発への貢献が期待されます。

本研究は、学術誌『Journal of Neuroinflammation』に、2026年8月5日(英国夏時間)付でオンライン掲載されました。

 

(発表内容)

『研究の背景』

タウオパチーは、「タウ」タンパク質が脳内に異常蓄積することで発症する神経変性疾患の総称です。認知機能の低下や運動障害を引き起こしますが、その発症や進行の仕組みには未解明な点が多く、有効な治療法はまだありません。近年、脳内の免疫応答や炎症状態がタウ病態の進行を制御することが報告されています。そこで本研究では、タウ病態の進行に伴って増加する炎症性因子を探索し、その役割を明らかにしました。

『研究の成果』

タウ病理を有する変異ヒトタウ過剰発現マウス(Tau Tg)(注5)の脳組織中でケモカインCXCL10が顕著に増加することを見出しました。次に、CXCL10欠損による病態への影響を調べたところ、タウ病理の指標として病態時に観察されるリン酸化タウの蓄積が、メスでのみ有意に減少しました。また、CXCL10の欠損により、メスのTau Tgマウスでのみ生存率の低下が抑制されており、CXCL10がメスにおけるタウオパチー病態の進行に重要な役割を果たしていることが示されました(図1)。一方、オスではCXCL10欠損により病態進行に影響を与えませんでした。

次に、CXCL10がタウオパチー病態を進行させる機構を明らかにするため、空間トランスクリプトーム解析により、CXCL10を産生する細胞種と、その周囲の細胞への影響を調べました。その結果、CXCL10はミクログリアやアストロサイト、特に病態特異的アストロサイトから産生されることを見出しました(図2)。また、CXCL10を産生するアストロサイトの周囲では、炎症応答に関連する遺伝子発現が亢進しており、CXCL10陽性炎症性ニッチ(注6)の形成が病態形成に寄与することが示唆されました。

これらの結果から、CXCL10は病態特異的な微小炎症環境の形成に関与し、メスにおけるタウオパチー病態の進行を促進する重要な因子でもあることが示唆されました。本研究は東京大学、名古屋市立大学における動物実験審査委員会の承認のもと実施されています。

 『本成果の意義・今後の展開』

 本研究により、これまで不明であったCXCL10のタウオパチー病態形成における役割が明らかになりました。また、タウオパチー病態に見られる性差に炎症性因子が関与する可能性を示した新たな知見として重要です。今後は、CXCL10がメス特異的に病態を促進する分子機構の解明を進めるとともに、CXCL10およびその関連経路を標的とした新たな治療法の開発につなげることが期待されます。

 発表者・研究者等情報                                        

東京大学

大学院医学系研究科 神経病理学分野

        齊藤 貴志 教授

       肱岡 雅宣 助教

 名古屋市立大学

大学院医学研究科

  上西 涼平 博士課程(兼:東京大学 大学院医学系研究科 特別研究学生)

 滋賀医科大学

 創発的研究センター 挑戦的研究部門

  松葉 由紀夫 特任助手

 熊本大学

 生命資源研究・支援センター

 竹尾 透 教授

 理化学研究所

西道 隆臣 客員主管研究員

三平 尚美 テクニカルスタッフ

 

論文情報                                          

雑誌名:Journal of Neuroinflammation

題 名:CXCL10 contributes to female-specific pathological progression in tauopathy model mice

著者名:Ryohei Uenishi, Rinna Kawata, Tatsuya Manabe, Yukio Matsuba, Naomi Mihira, Toru Takeo, Takaomi C. Saido, Masanori Hijioka*, Takashi Saito* (*共同責任著者)

DOI: doi.org/10.1186/s12974-026-03989-8.

URL: https://link.springer.com/article/10.1186/s12974-026-03989-8

 

研究助成

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「タウオパチーにおけるグリア-末梢免疫連関および脳プロテオスタシス変容の理解と制御(課題番号:JP24wm0625303)、脳卒中・認知症の完全回復に向けた持続可能な神経回路の再構築を実現する治療開発(課題番号:JP20gm1210010)」、科学技術振興機構(JST)ムーンショット型研究開発事業 「臓器連関の包括的理解に基づく認知症関連疾患の克服に向けて(課題番号:JPMJMS2024)」、JST SPRING(課題番号:JPMJSP2130)、科研費 「基盤研究 (B)(課題番号:JP20H03564、JP24K02354)、基盤研究 (C)(課題番:JP22K06865)、 若手研究(課題番:JP24K18381)、特別研究員奨励費(課題番:JP24KJ1888)」、堀科学芸術振興財団、BioLegend LEGEND Research Grant 2024、名古屋市立大学 研究助成金(課題番号:2021101)、名古屋市立大学卓越研究グループ支援事業(課題番号:2401101)、東京科学大学難治疾患共同研究拠点活動(課題番号:2024-kokunai 24、2025-kokunai 29)の支援により実施されました。

 

用語解説

(注1)タウオパチー

微小管結合タンパク質である「タウ」が、リン酸化などの翻訳後修飾を受けることで、異常タウが脳内に蓄積し、発症する神経変性疾患の総称。

 (注2)CXCL10

炎症に関わる分子の一種で、免疫細胞を炎症部位へ誘導する重要な役割を担う。特にリンパ球の集積を促進し、生体の免疫応答を制御する。

 (注3)空間トランスクリプトーム解析

組織切片上で位置情報を保持したままRNAを解析し、遺伝子発現の空間的分布や細胞間相互作用を評価する手法。本研究では、10x Genomics社のXenium In Situプラットフォームを利用した。

 (注4)病態特異的ミクログリア, 病態特異的アストロサイト

病態に応答して誘導され、正常とは異なる遺伝子発現や機能を有するアストロサイトやミクログリアの亜集団。

 (注5)変異ヒトタウ過剰発現マウス(Tau Tg)

家族性タウオパチー患者で同定された変異ヒトタウ遺伝子を過剰発現するマウス。リン酸化タウの蓄積や神経細胞脱落など、タウオパチーに特徴的な病理を再現する疾患モデル。

 (注6)CXCL10陽性炎症性ニッチ

アストロサイトを中心に半径50 µm 以内の微少な領域における遺伝子発現解析から見出された、CXCL10を発現するアストロサイトの周囲に形成される炎症反応が活発な領域。

すべての画像


ビジネスカテゴリ
医療・病院学校・大学
ダウンロード
プレスリリース素材

このプレスリリース内で使われている画像ファイルがダウンロードできます

会社概要

国立大学法人熊本大学

16フォロワー

RSS
URL
https://www.kumamoto-u.ac.jp/
業種
教育・学習支援業
本社所在地
熊本県熊本市中央区黒髪2-39-1
電話番号
096-344-2111
代表者名
小川 久雄
上場
未上場
資本金
-
設立
1949年05月