安定冠動脈疾患合併心房細動に対する抗血栓療法の有用性・安全性を検証

~至適抗血栓療法の確立に向けて~

学校法人 順天堂

順天堂大学循環器内科学 内藤亮 准教授、順天堂東京江東高齢者医療センター循環器内科学 宮内克己 特任教授らは、安定冠動脈疾患(*1)を合併した心房細動(*2)患者の治療における抗血栓薬(*3)の使用について新しいエビデンスを提示しました。冠動脈疾患合併心房細動の標準治療には心血管イベントを減少させることを目的として抗凝固薬と抗血小板薬を併用した抗血栓療法が用いられます。しかし、この治療は血栓症を低下させる一方、出血事象を増加させるため、最適な抗血栓療法の確立が課題とされてきました。この課題に対して本研究では、本邦の安定冠動脈疾患合併心房細動を対象とした多施設無作為化比較試験(AFIRE研究*4)の事後解析を実施しました。
当初のAFIRE研究の報告では、経口抗凝固薬であるリバーロキサバンの単剤療法が併用療法と比較して初回の出血および心血管事故を有意に低下させたことを確認しましたが、本研究では冠動脈疾患合併心房細動が心血管・出血事象の再発が多い疾患であることに着眼し、初回および続発事象を含めた全心血管・出血事故を解析したところ、リバーロキサバン単剤療法では抗血小板薬併用療法と比較して、全ての血栓性・出血性イベントの発生リスクが低いこと、そして、出血性イベントは血栓性イベントよりも続発する死亡のリスクが高いことが明らかになりました。本研究の結果は、安定冠動脈疾患合併心房細動患者における至適抗血栓療法の確立につながるとともに、抗血栓療法に際して一層出血リスクを考慮する必要性が示唆されました。
本成果に関する論文は、JAMA Cardiology誌のオンライン版に2022年6月15日付で公開されました。

本研究成果のポイント
  • 安定冠動脈疾患を合併する心房細動患者においてリバーロキサバン単剤と併用療法(リバーロキサバン+抗血小板薬)の有効性・安全性を全心血管・出血事象を対象に検証
  • リバーロキサバン単剤療法の有効性・安全性および出血性イベントの臨床的意義を確認
  • 安定冠動脈疾患合併心房細動患者において、薬剤を減らすことを軸とした新たな治療戦略の確立に期待

背景 
冠動脈疾患を合併する心房細動患者は社会の高齢化に伴い増加傾向で、治療にあたっては心血管死亡や心血管事故低減を目的に抗凝固薬と抗血小板薬を併用した抗血栓療法が従来法として行われています。しかし、その併用療法では塞栓症を低下させる一方、出血事象を増加させるリスクがあり、最適な抗血栓療法は確立していません。
また、実際に冠動脈疾患合併心房細動患者では心血管・出血事象の再発が稀でないため、より実臨床に沿った検討にて従来法の臨床的意義の高さを確認する必要がありました。そこで、本研究では多施設無作為化比較試験であるAFIRE研究により事後解析を実施し、初回および続発事象を含めた全心血管・出血事象を評価項目として単剤療法と併用療法を比較することにしました。

内容
本研究では、本邦の安定冠動脈疾患を合併した心房細動患者2,215名(平均年齢74歳、男性79.1%・女性20.9%)を対象に、観察期間中に発生した初回および続発事象を含めた全ての心血管事故・出血事象の発生数・発生率をリバーロキサバン単剤療法群とリバーロキサバン+抗血小板薬の併用療法群で比較しました。
観察期間の中央値24.1ヶ月における全イベントの発生率は、単剤療法群で有意に低く、生存解析においても、単剤療法群は併用療法群と比較して全ての塞栓・出血事象の危険性が38%有意に低いとの結果でした(図1)。

図1:リバーロキサバン単剤療法群(青)と併用療法群(橙)のイベント曲線図1:リバーロキサバン単剤療法群(青)と併用療法群(橙)のイベント曲線

続いて、リバーロキサバン単剤療法を受けた患者における発生事象について、死亡、出血、塞栓に分けて分析したところ、初回・続発イベント双方において出血性イベントの発生数が血栓性イベントより多いこと(図2)、初回非致死性出血イベントを生じた患者では、初回非致死性塞栓性イベントを生じた患者よりもその後の死亡率が高いことがわかりました(図3)。

図2,図3図2,図3

以上の結果から、安定冠動脈疾患を合併する心房細動患者において、リバーロキサバン単剤療法は抗血小板薬併用療法と比較して、全ての血栓性・出血性イベントの発生リスクが低いこと、そして、出血性イベントは血栓性イベントよりも続発する死亡のリスクが高いことが明らかになりました。

今後の展開
本研究は、本邦発の多施設研究であるAFIRE研究の事後解析です。AFIRE研究は安定冠動脈疾患合併心房細動患者を対象としたリバーロキサバン単剤療法と併用療法の有効性・安全性を、ランダム化比較試験デザインで検証しました。結果、併用療法と比較して単剤療法で全心血管・出血事故が有意に低下するという新しい知見の確認にいたりました。
安定冠動脈疾患を合併した心房細動患者における塞栓性および出血性イベントについて、それを予防する上で抗凝固薬単剤が有用であることを示した本研究の結果は、最適な抗血栓薬を確立する上で臨床的意義は極めて高く、さらに出血性イベントの臨床における重要性を示したことで抗血栓療法を要する患者の治療において、これまで以上に出血リスクを考慮した薬剤選択を行う必要性が示唆されました。
特に、高齢者では塞栓や出血のみならず、薬剤による副作用が非高齢者よりも多く出現するため、国内の高齢化の状況を鑑みて、必要に応じて処方薬を減らすことが、回避可能な有害事象の低減に寄与する可能性があると考えられ、薬剤を減らすことを軸とした新たな治療の確立が期待されます。

用語解説
*1 冠動脈疾患:心臓の栄養血管である冠動脈に狭窄あるいは閉塞病変を認める。
*2 心房細動:加齢により出現頻度が高くなる不整脈で、合併症として脳梗塞などの塞栓症や心不全を有する。 
*3 抗血栓薬:血小板機能を低下させる抗血小板薬、凝固能を低下させる抗凝固薬の総称で、血栓塞栓症を予防することを目的とした薬剤である一方、副作用として出血がある。
*4 AFIRE研究:Atrial Fibrillation and Ischemic events with Rivaroxaban in patiEnts with stable coronary artery disease Study(安定冠動脈疾患合併心房細動に対するリバーロキサバン単剤療法とリバーロキサバン+抗血小板薬併用療法の有効性・安全性を比較した多施設共同ランダム化比較研究)の略で、本邦の294施設が参加して行われた

原著論文
本研究はJAMA Cardiology誌のオンライン版で(2022年6月15日付)先行公開されました。
タイトル: Rivaroxaban Monotherapy vs Combination Therapy With Antiplatelets on Total Thrombotic and Bleeding Events in Atrial Fibrillation With Stable Coronary Artery Disease: A Post Hoc Secondary Analysis of the AFIRE Trial
タイトル(日本語訳):安定冠動脈疾患合併心房細動におけるリバーロキサバン単剤療法とリバーロキサバン+抗血小板薬併用療法の全心血管・出血イベントに関する検討 A Post-hoc Secondary Analysis of the AFIRE Trial
著者:  Naito R, Miyauchi K, Yasuda S, Kaikita K, Akao M, Ako J, Matoba T, Nakamura M, Hagiwara N, Kimura K, Hirayama A, Matsui K, Ogawa H; AFIRE Investigators.
著者(日本語表記): 内藤亮1), 宮内克己1), 安田聡2), 海北幸一3), 赤尾昌治4), 阿古潤哉5), 的場哲哉6), 中村正人7), 萩原誠久8), 木村一雄9), 平山篤志10), 松井邦彦11), 小川久雄12)
著者所属:1)順天堂大学循環器内科学講座、2)東北大学循環器内科学講座、3)宮崎大学内科学講座循環器・腎臓内科学分野、4)国立病院機構京都医療センター循環器内科、5)北里大学循環器内科学講座、6)九州大学循環器内科学講座、7)東邦大学医療センター大橋病院循環器内科学講座、8)東京女子医科大学循環器内科学講座、9)横浜居立大学付属市民総合医療センター心臓血管センター内科、10)大阪警察病院循環器内科、11)熊本大学地域医療・総合診療実践学寄附講座、12)熊本大学
PMID: 35704345
DOI: 10.1001/jamacardio.2022.1561

本研究は循環器病研究振興財団の支援を受け多施設との共同研究の基に実施されました。
本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。

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業種
教育・学習支援業
本社所在地
東京都文京区本郷2-1-1
電話番号
03-3813-3111
代表者名
小川 秀興
上場
未上場
資本金
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設立
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