製造業での量子コンピューター活用に向けた基盤アルゴリズムを開発
物理シミュレーションの大規模化を実現し、製品開発の高度化・効率化に貢献

三菱電機株式会社は、量子コンピューター系スタートアップの株式会社QunaSys(※1)(キュナシス:以下、QunaSys)と共同で、製品の設計・開発において、流体、熱、構造、電磁界などの物理シミュレーションにより設計探索(※2)や性能評価に役立てる「Computer-Aided Engineering(CAE)」への量子コンピューター活用に向けて、2つの基盤アルゴリズムを開発しました。本技術により、物理シミュレーションの大規模化を実現し、製造業の製品開発の高度化・効率化を目指します。
近年、製品の高性能化・高機能化に伴い、大規模かつ高精度なCAEへのニーズが高まっており、従来のコンピューターよりも計算を高速化できる可能性がある量子CAEが注目されていますが、量子計算の実行コスト(※3)と精度の両面で課題がありました。
CAEで扱う物理シミュレーションの多くは、大規模な行列計算として表されます。そのため、行列データをそのまま量子コンピューターで扱うと、行列を量子回路に埋め込む際の正規化係数(※4)が大きくなり、同じ精度の計算結果を得るために必要な量子ゲート操作(※5)や回路実行回数(※6)が膨大となる結果、量子計算による高速化の効果を十分に引き出せないことが課題でした。また、量子計算には、内容に応じた量子回路を設計する必要がありますが、従来は回路設計に必要なパラメーターの計算に不安定性があり、量子計算の精度に影響していました。
今回、三菱電機とQunaSysは、これらの課題を解決する2つの基盤アルゴリズムを開発しました。1つ目は大規模な行列データを量子コンピューターで扱いやすい形に整理する基盤アルゴリズムで、量子計算の実行コストを削減します。2つ目は量子回路の設計に必要なパラメーターを安定的に求められる基盤アルゴリズムで、量子計算の精度を向上します。その結果、量子コンピューターの性能を活かした行列計算が可能になり、量子CAEの実現に向けて前進しました。
当社は、設計初期段階での多数条件の比較や、複雑な物理現象を考慮した高精度な性能評価などを通じて、製造業の製品開発の高度化・効率化を目指します。
なお、本開発成果の一部は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のムーンショット型研究開発事業(目標6)の成果で、2026年8月24日から開催される国際会議「AQIS 2026」にて発表します。
■ 開発の特長
1.大規模な行列データを量子コンピューターで扱いやすい形に整理
・一般的な行列を量子回路の操作に対応するユニタリ行列の一部として埋め込み、量子計算で利用できる形にする手法であるブロックエンコーディングを用いて、行列の非ゼロ要素(※7)を個別に入力する場合、単純な方法では、重複する要素があっても別々の寄与として扱われることにより正規化係数が増大し、量子計算の実行コストが増加します。そこで、行列内の同じ値やその出現パターンを整理した上で、パターン同士の重なりに着目し、共通部分を再利用して差分だけを組み合わせる形の表現手法を採用しました。これにより、行列の構造を利用した効率性を保ちながら、量子コンピューターで扱いやすい入力形式に変換します。
・与えられた行列構造の中で、どこまで共通部分を再利用できるかを理論的に解析した結果、今回開発した技術が効果を発揮する条件を明確化し、代表的な物理シミュレーションの行列計算における有効性を確認しました。

2.量子回路の設計に必要なパラメーターの計算を安定化
・量子計算で行列操作を行うための代表的なアルゴリズムである量子信号処理では、事前準備として、従来のコンピューターを用いて、行列に対して行いたい計算の働きを多項式で近似し、その多項式を量子回路で再現するための角度列(※8)パラメーターを計算します。従来手法では、計算の途中で極端に小さい数を扱うことで、丸め誤差や桁落ちの影響が大きくなり、得られる角度列パラメーターの精度が低下します。この問題が発生する原因を分析した結果、量子信号処理で扱う多項式の係数の並びと、角度列を求める計算の進め方の組み合わせに課題があることを解明しました。今回開発した手法では、計算の向きを反転させた後で順序を戻すことにより、丸め誤差や桁落ちの影響を回避します。
・量子CAEで必要となる代表的な行列計算である、行列反転、ハミルトニアンシミュレーション、位相推定、固有値フィルタリングに対して数値実験を行い、角度列パラメーターをより安定に高い精度まで求められることを実証しました。

■開発体制

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組織名称 |
担当内容 |
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三菱電機 |
基盤アルゴリズムの全体設計、製造業(CAE)への適用可能性の検証 |
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QunaSys |
基盤アルゴリズムの開発、実装支援 |
■今後の予定・将来展望
今回開発した基盤アルゴリズムを流体解析、熱解析、構造解析、電磁界解析など、製造業で用いられる具体的なCAEの課題へ適用し、検証を進めます。実際の製品設計で現れる複雑な計算課題に2つの基盤アルゴリズムを適用し、量子コンピューターを製造業の設計・解析に活用する「量子CAE」の実現を目指します。
■三菱電機グループについて
三菱電機グループは、「Our Philosophy」のもと、サステナビリティを経営の根幹に据え、社会・顧客・株主・従業員をはじめとしたステークホルダーからの信頼を重んじてまいります。また、「収益性」「資本効率」「成長性」を追求するとともに、顧客と繋がり続けて社会課題を解決する新たな価値を創出し、企業価値の持続的向上を図ります。1921年の創業以来、100年を超える歴史を有し、社会システム、エネルギーシステム、防衛・宇宙システム、FAシステム、自動車機器、ビルシステム、空調・家電、デジタルイノベーション、半導体・デバイスといった事業を展開しています。世界に200以上のグループ会社と約15万人の従業員を擁し、2025年度の連結売上高は5兆8,947億円でした。詳細は、オフィシャルウェブサイトをご覧ください。
※1 量子コンピューター系スタートアップの株式会社QunaSysへ出資(2022年5月10日公表)
https://www.MitsubishiElectric.co.jp/ja/pr/2022/pdf/0510-a.pdf
※2 設計条件の許容範囲内で寸法、形状、材料など組み合わせを評価し、最適化するプロセス
※3 量子計算に必要な計算上の手間。ここでは主に、量子ゲート操作の数や量子回路を繰り返し
実行する回数
※4 行列を量子回路に埋め込む際に、量子計算で扱える大きさに調整するための係数。この値が
大きいほど、同じ計算を行うために多くの操作や実行回数が必要になりやすい
※5 量子ビットの状態を変化させる基本操作。従来のコンピューターの論理演算に相当する量子回路
の構成要素
※6 設計した量子回路を量子コンピューター上で実際に動かすこと。量子計算では確率的に結果が
得られるため、同じ回路を複数回実行する場合がある
※7 行列の中で値が0ではない成分。値が0の成分は計算に寄与しないため、行列入力では主に非ゼロ
要素を対象にする
※8 量子回路内の回転操作に設定する角度パラメーターを並べたもの。これにより、近似した多項式
の働きを量子回路上で再現
<お客様からのお問い合わせ先>
三菱電機株式会社 先端技術総合研究所
〒661-8661 兵庫県尼崎市塚口本町八丁目1番1号
FAX 06-6497-7285
https://www.MitsubishiElectric.co.jp/corporate/randd/inquiry/index_at.html
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