全国でも活躍、松戸市の弓道部

松戸市

全国的にも他の運動部に比べて弓道部のある中学校は珍しく、県内でも4校しかない中、松戸市には松戸市立栗ケ沢中学校(以下「栗ケ沢中学校」)と松戸市立第六中学校(以下「第六中学校」)の2校に弓道部があり、県内はもちろん、全国でもこれまで好成績を収めてきました。また、一昨年行われた「第41回全国高等学校弓道選抜大会」で千葉県勢初の団体戦での優勝を果たした松戸市立松戸高等学校(以下「市立松戸高校」)弓道部男子は、両校出身生徒が中心メンバーとして出場していました(※)。

このような活躍の背景にはどのような理由があるのでしょうか。中学校の部活動で弓道を始める生徒が多く、大学、社会人と進んでも活躍する生徒を輩出する松戸市の「弓道」にスポットを当ててご紹介します。
※松戸市ニュースレター(2023年2月3日)
※本資料内の情報は、2024年2月29日現在のものです。

【松戸市立栗ケ沢中学校弓道部】

松戸市立栗ケ沢中学校弓道部の皆さん


栗ケ沢中学校弓道部は昨年の「第20回全国中学生弓道大会」に女子団体・個人で出場し、秋に行われた「千葉県中学校新人大会」で男女ともに団体優勝を果たしました。

千葉県総合体育大会で男女ともに団体準優勝を果たした栗ケ沢中学校。そんなメンバーをまとめたのは部長の加瀬莉琳(かせりりん)さん(3年)と、副部長の竹内優真(たけうちゆうま)さん(3年)。弓道を始めたきっかけはどちらもアニメのキャラクターが弓を引く姿に惹かれたことでした。さらに、同大会個人優勝の楢原有貴(ならはらゆき)さん(3年)と、個人準優勝の大野多歌子(おおのたかこ)さん(3年)は全国大会にも出場しました。


全国大会に出場した女子団体メンバー(左:楢原さん、右:大野さん)


メンバーをまとめるうえで、加瀬さんは「部長を経験し、自分の一つ一つの行動と言葉にしっかりと責任を持つ大切さを感じました。全体に指示が通らないこともあったけど、そんなときは周りのサポートもあり仲間の大切さが分かりました」と語ります。副部長の竹内さんは「初めの頃は、部長がいないときに自分でチームをまとめられるか不安でしたが、やり遂げることができて、とても貴重な経験になりました」と部員同士の信頼関係と仲の良さがうかがえました。自分たちの代になった時に決めた目標は“全国大会で勝ち残るチームを作る”。その全国大会に出場した大野さんは、大会独特の雰囲気を肌で感じたそうです。「全国大会になるとまったく違った雰囲気で、周りは知らない人ばかり。いつも通りの射が引けませんでした。もう少しリラックスできたらよかったと思います」。楢原さんは「緊張して普段通りできなかった。もう少し落ち着いて引くことができたらよかったです。やはり独特の空気がありました」と振り返ってくれました。


部長としてチームをまとめた加瀬さん


全国出場を支える指導者

そんな全国常連校を平成10年から指導する奥田繁樹(おくだしげき)さんは、松戸市スポーツ協会に所属し、松戸市弓道連盟の推薦で栗ケ沢中学校に外部指導員として派遣され、週1回、土曜日の午前中に男女計32人を指導しています。栗ケ沢中学校の前には、松戸市立第三中学校(※現在は廃部)、第六中学校でも指導歴のあるベテランの指導員です。松戸市には各連盟から推薦された指導員が1年間派遣される、スポーツ協会の推薦制度があります。指導員の選定は、各連盟から推薦される必要があり、期間は1年。その後は派遣先からの要望や実績で判断されます。

奥田さんは高校で弓道を始め、強豪の中央大学に進学。学生時代は東京都の大会で大将を務め、1年時のインカレでは団体優勝メンバーとして活躍。4年時には全日本弓道連盟の委員長としてインカレ運営を担った経験を持ちます。

奥田さんとともに指導にあたっている松戸市の部活動指導員の小川智子(おがわともこ)さんは、お子さんが栗ケ沢中学校から、弓道の強豪である市立松戸高校、中央大学と進学し、第六中学校出身の松浦琢(まつうらたく)さん(後述)とインカレで優勝争いをした経験を持ちます。そんな小川さんは警視庁に勤めていた当時、合気道・剣道・柔道といった武道を経験してきました。お子さんが栗ケ沢中学校弓道部に在籍していた頃、いろいろアドバイスする中で「弓道をやったこともないのに勝手なことを言わないで!」と言われたことがきっかけで、自身も弓道を始めました。当時の弓道部顧問や栗ケ沢中学校専用のクラブ「かがやき弓道倶楽部」から声がかかり、徐々に指導するようになっていきます。現在では、かがやき弓道倶楽部の代表を務め、栗ケ沢中学校弓道部の生徒は、限られた部活動の時間以外でも、土日にはかがやき弓道倶楽部に通って指導を受けています。そんなところにも強さの秘訣があるかもしれません。


指導する小川さん(左)と奥田さん


基本を大切に

中学入学時は、ほぼ全員が初めて弓道を始めるそうですが、「指導内容を大人と子どもで区別することはない」と奥田さんは言い切ります。的の前に立てるようになるまで、早くて半年。指導の際は、まず安全性を強調するそうです。「基本的に弓は武器。ですから、うっかりした扱いや行動をすると怪我をする可能性が大きい。一方、気持ちの面は言わないようにしています。だんだん上手になってくると、 技術だけではうまくいかないことがわかってくる。絶対当てたいとか、そういった邪念を持つと外すんです。欲張るとダメ。そういう気持ちのブレがあるとうまくいかないことが、自然と自分たちでわかってきます。そのように導くのが、我々の仕事です」と奥田さん。「一つ一つ決められた基本動作があり、その所作を丁寧に行うことを求めます。まずは基本に忠実にすることを心掛けています」と小川さんは続けてくれました。


実際に弓を引けるようになるまで、さまざまな段階を上がっていきます。「まずは道具を持たないで動きだけを練習します。次にゴム弓や素引きなどをやり、その後初めて矢を使える。近い距離から始めます(奥田さん)」。ここまでで驚くほどの差が出るそうです。このような指導を通じて、1年程経つとやっと的に矢が当たるようになります。「基本動作には必ず礼法が付随し、立ち方・歩き方・座り方など、動作と礼法は一体になっています。弓道の伝統はもちろんのこと、各段階を上がっていくときに、一つ一つ動作と礼法を一体にし、 最終的にはその礼法と射義が一致するようにしています。(奥田さん)」と、とにかく基本を徹底的に、時間をかけて教え込みます。また、中学では実質2年半で結果を出さなくてはいけないため、「社会人になると厳しく求められる礼法よりも、射義に時間を取るようにしています」と結果を出すための工夫も教えてくれました。


弓道を通して身に着けてほしいこと

そんなお二人に弓道を通して学んでほしいことを聞くと「自分で考える人になってほしい。弓道で言うと、続けていくうちに出てきた疑問をある程度自分で考えて質問してくること。教えた事だけをやるのと比べると、考えてくる生徒の方が上達が早い。皆、相当自分で考えていると思いますよ」と奥田さん。小川さんは「気遣いや思いやりの心を忘れずに学んでほしい。道場内の掃除や片付け、自分ばかり弓を引くのではなくて、他の人の矢を取って、次の準備をしてあげるとか、そういったことも大切です。こうしたことが自然にできるようになってくれたら」と生徒への想いを語ってくれました。


代々引き継がれる“栗中弓道”

先生方から指導を受け、弓道の技術だけでなく、人としての礼儀や大切なことを多く受け取っている生徒たち。それを皆が「しっかり実行して自分のものにしようと取り組む姿勢(竹内さん・楢原さん)」が常に高いレベルを保っている要因ではないか、と歴代の強さの秘訣を推測してくれました。


副部長の竹内さん


加瀬さんたちの代は、小川さんからみても「とても仲が良く、お互いを支え合い、躊躇せずアドバイスし合える雰囲気がある」といいます。「大会ではメンバーに対して良い点、改善点を出し合えることはとても大切(小川さん)」となりますが、その雰囲気は次の代にも受け継がれているようです。後輩へ向けて「次の代もお互いアドバイスをしっかりできる関係なので、私たちの代を追い抜くぞという意気込みで、仲間を大切に、練習の成果を本番で発揮できるように鍛錬して、上を目指してほしい(加瀬さん)」「初めは思うように結果が出なくても、努力をすれば必ず結果はついてくるので、諦めずに仲間と切磋琢磨してほしい(竹内さん)」とメッセージを送ってくれました。指導者のお二人も、次こそは全国大会優勝と来年を見据えます。そのために、「全国に行ってもブレない“胆力”を身に着けてほしい」と奥田さんは言います。「一射一射気持ちがこもっているかどうか、そして“前向き”に強い気持ちで『離れ』を出すように(奥田さん)」なれれば、全国優勝も見えてきます。

奥田さんと小川さんに指導を受けた生徒の皆さんの今後の活躍が楽しみです。




【松戸市立第六中学校弓道部】

弓道部があるもう一つの中学校が、第六中学校です。過去に全国大会で男子団体二連覇の実績を誇り、後述する松浦琢さんや、第41回全国高等学校弓道選抜大会2022で団体優勝を果たした市立松戸高校弓道部男子の優勝メンバーなど、六中で弓道を始め、卒業後も活躍を続ける競技者を輩出しています。


基本の礼儀作法を大切に

その第六中学校弓道部の顧問を務める中村耕介(なかむらこうすけ)先生は、栗ケ沢中学校で3年、第六中学校に赴任して4年、弓道部顧問を務めます。中村先生は、礼儀作法を大切にし、挨拶・返事を意識した指導を心掛けているそうです。普段の練習も大会だと思って取り組むことを生徒に求め、「練習のための練習ではなく、大会を意識した練習をして、いい緊張感に慣れてほしい」と、その想いを教えてくれました。その思いが生徒へも伝わり、赴任当初と比べ「普段から礼儀や返事といった点を意識し、相手の目を見て話す、しっかり立ち止まって挨拶する、こういったことがよくできるようになった。練習に取り組む姿勢も変わったように感じます。やるべき時はやるというメリハリがきくようになった」と、昨秋の新人戦後の生徒の成長を話してくれました。


第六中学校弓道部顧問の中村先生


自身は高校3年間弓道部で競技をしていたと言う中村先生ですが「やればやるだけ結果がついてくるというわけではない競技だと感じています。中学生にはとても酷な競技なのではないかと思うこともある。練習してもすぐに結果に結びつかないこともあり、落ち込んでしまう生徒もたくさんいる。それでもなお練習しなければ上達はしないし、やらなければ結果は出ないんだと伝えています」。


第六中学校では現在、2名の外部指導員が週2~3回来校して、60名以上の弓道部員を指導しています。「外部指導員の先生も来てくださっているので、何より先生方の教えを素直に受け入れること。教わったことを受け入れて活かせるかはとても大切で、結果に結びつきます」と中村先生。今年のチームは、「3年生が引退して少し経ち、礼儀の面はすごく良くなったが、自立という点ではまだ物足りない」と生徒への想いも話してくれました。

 

まだまだ成長途上のメンバー

そんな中村先生の想いを受け、新チームで部長を務める水口裕大(みずぐちゆうだい)さん(2年)は「昨年はまだ経験が浅かったこともあり、まだまだ成長できるところがあると思いました」と、新人戦を振り返ってくれました。

さらに、「個人としての実力もそうですが、部長として部をしっかりまとめていきたい。チームとして力を高めていきたい」と今後の躍進を見据えます。仲の良さが今年のチームの長所ですが、「集合や掃除などの行動が素早い一方、私語が多いところがある(水口さん)」と言います。5月の春季大会をターゲットに、「まずは練習の態度からしっかり意識して取り組みたいです。後輩にはやはり基本となる礼儀の大切さを伝えたい」と中村先生の教えのもと、技術だけでなく、日ごろから大切となる礼儀作法を重んじ、チームの一体感と実力を上げていきたいと気を引き締めます。


部長の水口さん(左)


中村先生は松戸の弓道の活躍を、「中学から弓道を始められるというのが大きな要因だと思う。正しい指導を受けた中学での経験があって、その後の進学先での活躍がある。専門の先生方に教わっているからこそ、高校でも活躍することができているのではないか」と分析します。


今年度の目標を聞くと、声を揃えて「県大会優勝」の言葉が返ってきました。「(市内の栗ケ沢中学校弓道部に対して)やはり2校しかないので意識してしまう」と話してくれた水口さんですが、部活がない日も筋トレやゴム弓を引くなど、日々自らが掲げる目標に向かって邁進しています。水口さんがまとめる新チームの今後の活躍に注目です。



 

【“松戸の弓道”を牽引する松浦琢さん】

中学時代から第一線で活躍

2023年の「国民体育大会(以下『国体』)」弓道競技【成年男子】に千葉県代表として出場した松浦琢さんは、第六中学校出身です。 中学時代から全国にその名を轟かせ、中学3年で「全国中学生弓道大会」男子団体戦において優勝を果たし、高校3年で出場した和歌山国体では【遠的の部】で千葉県勢初の優勝に貢献しました。 その後も、大学2年で「インカレ(全日本学生弓道選手権大会)」個人戦を制覇。「全日本学生弓道王座決定戦」団体戦で3年連続優勝を果たすなど、輝かしい実績を残し現在も第一線で活躍を続けています。


松浦琢さん


弓道を始めたきっかけは「小学校時代の友人に誘われて部活動見学へ行き、一緒に入部を決めた」と言う松浦さん。六中弓道部時代で印象に残っていることを聞くと、「練習場所の弓道場は的が3つしかなく、同時に的前で練習できる人数が限られる中、部員は多い代で80人近くいました。的前で練習できる時間が短いので、その他の時間で知識を身に着けたり、体幹トレーニングなどを行っていました」と当時の練習事情を教えてくれました。中学時代の顧問の先生からは“態度で示すこと”を教わったという松浦さんは、常に集中した雰囲気を意識し練習を行い、部活全体へその良い雰囲気を広めることを意識。また、弓道は剣道や柔道のように相手がある競技ではないため「試合に向けて何か特別なことを行うことはない」と言い切り、「練習は本番のように、本番は練習のように。それに尽きます(松浦さん)」と、普段から一射一射集中して弓を引くことだけに集中し、それは日本一を経験した後も変わることはありませんでした。


“松戸の弓道”

弓道の魅力を「『弓道は芸術だ』『弓を引く姿を見るだけで、その人のことがわかる』という言葉を聞いたことがあります。上達することで、的中率が上がるだけでなく、感動を与える弓を引けるようになると思う。多くの人の心を動かす弓を引けるように努力している」と語る松浦さんに“松戸の弓道”について聞いてみると、「松戸市の弓道場には他市と比べて高段者や称号者の方が多く在籍している」と教えてくれました。また、松戸市には会員数100人を超える弓道連盟と「松戸運動公園」弓道場があります。同志と共に鍛錬に励み、学んだことや経験を共有したり気付いたことを指摘し合うことで弓道を深め、切磋琢磨していくこの環境が、松戸の弓道を活性化しているひとつの秘訣なのかもしれません。


松浦さんは部活動見学で弓道を始めましたが、「どんなことでも、第一印象というのはその人の一生に残るものだと思う」と言うように、これからより多くの子どもたちに弓道に触れてもらうには、「弓道というスポーツをもっと身近にするため、気軽に見学できるような場が必要」だと感じているとも話してくれました。この恵まれた環境の中で、弓道場が多くの人に開けた場所になり弓道を目にする機会が増えていけば、“松戸の弓道”がさらに盛り上がっていくかもしれません。


今後の目標とこれからの世代に受け継ぎたい想い

競技大会での松浦さん


更なる高みを目指す松浦さんに今後の目標を聞くと「国体で優勝すること」と力強く答えてくれました。弓道と出会ってから10年以上、弓道とひたむきに向き合い続け、長年第一線で活躍している松浦さんですが、「まだまだ学ぶことが多くある」と話します。現在も学生時代と変わらず一つ一つの動作を確認し日々自己研鑽を怠らない松浦さん。「年をとっても、長く続けられる競技(松浦さん)」である弓道ですが、社会人になると毎日弓を引くことは簡単ではなくなります。「部活動では、毎日弓が引ける環境にあると思う。今の環境へ感謝の気持ちを忘れず、悔いの残らないように全力で取り組んでほしい」と松浦さんの後に続く後輩たちへ、メッセージを添えてくれました。

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設立
1943年04月