「美味しい」は「おいしい」よりおいしい
― 味の素株式会社と明治大学商学部加藤拓巳准教授の共同研究成果が日本マーケティング学会カンファレンス2026のベストオーラルペーパー賞を受賞―
商品ブランドネームについては、音象徴と形状象徴の知見を中心に文献が蓄積されてきました。音象徴とは、特定の音から特定の属性を連想させるもので、例えば「i」の音を含む単語は「小さい」という印象を与えます。形状象徴とは、特定の形状から特定の属性を連想させるもので、例えば鋭く尖った形状は炭酸の強さを印象づけます。本研究ではこの知見を日本語に拡張しました。象形文字に由来する漢字は、一文字で豊かな印象を伝えることができます。本研究では、「美」という文字に着目しました。「美」は、「羊」と「大」の2文字で構成され、「神に供えることができる形の良い見事な羊」が由来です。人間は生来「美」への強い憧れがあり、「美容」「美肌」「美白」「美食」のように、「美」はポジティブに利用されます。だし・コーンスープ・ 味噌汁の3商品を対象に検証した結果、「おいしい」「オイシイ」よりも「美味しい」を商品ブランドネームに取り入れることで、商品の高級感を高め、購入意向を促進することを実証しました。味の素株式会社と明治大学商学部加藤拓巳准教授による本成果は、日本マーケティング学会カンファレンス2026で発表され、ベストオーラルペーパー賞を受賞しました。
出典:好村和歌子・加藤拓巳. (2026). 「美味しい」は「おいしい」よりおいしい― 漢字が有する印象がもたらす知覚価値への効果 ―. 日本マーケティング学会プロシーディングス2026, 1-10.
■ ブランドネームを支える知見:音象徴と形状象徴
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商品ブランドネームの設計に用いられる理論的知見として、音象徴と形状象徴があります。音象徴とは、特定の音から特定の属性を連想させるものです。例えば「i」の音を含む単語は「小さい」という印象を与えるため、「mal」より「mil」の方が小さい印象になります。破裂音(k, p)は尖り、共鳴音(l, n)は滑らかさを伝えます。低周波音(b, d, g)よりも、高周波音(i, e, s)の方が高級な印象を高めます。これらの知見を組み合わせると、「Lexus」や「Hermes」からは繊細で高級感のあるイメージが生み出されます。
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濁音と音節の多さは強さ・重さを印象づけるため、例えば「ニョロモ」<「ニョロゾ」<「ニョロボン」の順に強いポケモンに感じます。戦国武将で見ても、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、武田信玄、上杉謙信、伊達政宗のように濁音が入っており、強そうです。木下藤吉郎と羽柴秀吉では威圧感が違います。反対に、繰り返し音は可愛らしさを伝達するため 、「ポムポムプリン」や「ねるねるねるね」は可愛らしい印象になります。
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一方、形状象徴とは、特定の形状から特定の属性を連想させるものです。例えば、丸い形状はまろやかな印象を生むためクリーミーな乳製品、角張った形状は強い酸味や苦味を伝達するため炭酸飲料に適しています。
■ 「美」という文字への憧れ
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日本語に目を向けると、漢字の成り立ちは象形にあります。例えば、「生」は大地から草木が芽吹いて成長していく姿からの象形、「老」は髭が長い腰の曲がった人が杖をついて立つ姿からの象形です。立木の象形としての「木」は、2本並ぶと「林」になり、3本並ぶと「森」という俯瞰図からの象形です。このように、英語やひらがな・カタカナと異なり、漢字は各文字が意味を有します。
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「美味しい」に含まれる「美」という漢字は、「羊」と「大」の2文字で構成され、「神に供えることができる形の良い見事な羊」が由来です。現代は、「美容」「美顔」「美肌」「美白」「美食」「美味」のように、「美」は多様な対象にポジティブに利用されます。そして、人間は生来、「美」への強い憧れがあります。
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本研究では、「美」という文字に対するイメージが、無意識的に消費者の評価へ影響を与えている可能性を推察しました。実際に、インターネットで「美味しい」と「おいしい」を検索すると、図1のようにまったく異なる画像が表示されます。

■ Study 1:消費者の書き手目線からの「美」の意識分析
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本研究の仮説は、「美」という漢字から消費者が高級感・贅沢感を抱くことを仮定しました。その妥当性を把握するために、消費者が書き手となる場合を対象として、「美」に対するイメージを評価しました。
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「あなたが夏の時期に日常で食べたいと思うものを具体的に回答してください。」「あなたが夏の時期に贅沢をして食べたいと思うものを自由に回答してください。」という2問を自由回答で聴取し、「美味しい」と「おいしい」の出現率を比較しました。
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その結果、「おいしい」の言及率は、日常が4.0%、贅沢が4.6%と両者に大きな差はみられませんでした。一方で、「美味しい」の言及率は、日常が4.8%、贅沢が10.4%となり、有意に差が検出されました(図2)。
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したがって、人々は書き手として、贅沢な対象には「美味しい」の文字を使いやすい傾向があることが示されました。

■ Study 2:消費者の読み手目線からの「美」の効果検証
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日本の20~60代の1,200人を対象に、だし・コーンスープ・味噌汁についてオンライン調査環境でのランダム化比較試験を実施しました。グループ1:なし、グループ2:「おいしい」、グループ3:「オイシイ」、グループ4:「美味しい」の4グループの構成で、各グループ300人を割り当てたのち、商材をランダムに提示しました。
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「これから、味の素が開発を進めるだし・コーンスープ・味噌汁の商品コンセプトをご覧いただきます。」と説明した後、対応する商品説明シートを1つ提示しました。図3にコーンスープの例を示します。その後、高級感と購入意向を5段階尺度で回答を得ました。
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図4に示すとおり、高級さを感じた割合は、「なし」(40.7%)<「オイシイ」(41.3%)<「おいしい」(42.3%)<「美味しい」(49.7%)となりました。Steel検定の結果、「なし」と「美味しい」の間でのみで10%水準の有意差が検出されました。つまり、商品ブランドネームに「おいしい」や「オイシイ」を付与しても高級感は有意に高まらない一方、「美味しい」は高級感に正の影響を与えることが確認されました。購入意向は、「なし」(33.3%)<「オイシイ」(36.7%)<「おいしい」(39.7%)<「美味しい」(47.0%)となりました。Steel検定の結果、「なし」と「美味しい」の間でのみ有意差が検出されました。
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事前の想定のとおり、「美味しい」という表記は、高級感を高め、購入意向を効果的に向上させることが確認されました。また、本研究は「美味しい」の後ろに、ひらがな(おだし)、カタカナ(コーンスープ)、漢字(味噌汁)という全てのパターンを網羅した検証をしており、特定の条件に依存していないことを示した点に大きな意義があります。
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「美味しい」がもたらす高級感の連想から、健康意識・環境意識の高い人/低い人で、効果が異なることも確認されました。「美味しい」の文字から肉類を想起しやすいため、質素な食事や環境・動物に配慮された食事を好む健康配慮者・環境配慮者には適合しにくいことが原因であると推察されます。したがって、健康食品やエシカル食品では、「美味しい」の使用は避けるべきであると言えます。



<この記事に関連するページ>
日本マーケティング学会 受賞一覧:https://www.j-mac.or.jp/prize/
加藤拓巳准教授Webサイト:https://takumi-kato.com/
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