心不全を有さない心臓サルコイドーシスにおいてBNPは心イベントの有用な予測因子である
― 心臓サルコイドーシスにおけるBNP測定の意義 ―
順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学の宮國翔太 大学院生、前田大智 非常勤助教、末永祐哉 准教授、南野徹 教授らのグループは、心不全を有さない心臓サルコイドーシス患者において脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)(*1) 値がその後の心イベントの発生の予測に有用であることを明らかにしました。
BNPは心臓に負荷がかかると分泌されるホルモンで、心不全を含む多くの心臓疾患において強く心イベントと関係することが知られていますが、心臓サルコイドーシス患者に対しては関連性があるのかどうかが不明でした。本研究は世界最大規模の多施設レジストリデータを用い、診断時に心不全を有さない心臓サルコイドーシス患者238例を解析し、BNPが将来の死亡、心不全入院および心室性不整脈(*2)を予測する独立した因子であることを明らかにしました。本成果は、たとえ心不全を有さなくても、心臓サルコイドーシス患者においてはBNPの測定が予後の予測において重要な意義を持つことを示しています。本論文はJournal of the American Heart Association誌のオンライン版に2022年12月14日付で公開されました。
本研究成果のポイント
背景
サルコイドーシスとは、体内の臓器に原因不明の炎症が起こり、その炎症を起こした細胞が肉芽腫と呼ばれる塊を作る病気とされています。この肉芽腫が心臓に起こると心臓サルコイドーシスと呼ばれ、命に関わる不整脈や心不全、さらには突然死を引き起こしうることが知られています。しかし、そのような危険な心イベントを予測する方法は十分に分かっていませんでした。BNPは心臓に負担がかかった際に心臓から分泌されるホルモンで、心不全やその他さまざまな心臓の病気において、心イベントの予測に有用であることが分かっています。そこで、本研究では心不全を有していない心臓サルコイドーシス患者においても、BNPは予後を予測するかを調査することを目的としました。
内容
本研究では、診断の時点で明らかな心不全を有していない心臓サルコイドーシス患者238人のデータを解析しました。患者の平均年齢は61歳で37%が男性でした。中央値3.0年の追跡期間のうちに、死亡、致死性不整脈 (心室細動・持続性心室頻拍・植え込み型除細動器(*3)の適正作動)、心不全入院で構成される「複合心イベント」が61人に発生しました。心臓サルコイドーシスの診断時の血中BNPの値が高い群 (≥101.3 pg/mL) は低い群 (<101.3 pg/mL) よりも複合心イベントのリスクが高く、多変量解析でもBNPは他のリスク因子と独立した予後予測因子であることが明らかになりました 【図1】。
本研究により、たとえ心臓サルコイドーシスの診断時に心不全を有していなくとも、BNPを測定することで将来の心イベントを予測できる可能性が示唆されました。今回の結果により、早期にリスクの高い患者を発見し、早期の治療に結び付けられることが期待されます。
用語解説
*1 脳性ナトリウム利尿ペプチド:心臓に負荷がかかると分泌されるホルモン。心臓にかかっている負荷を知る指標として用いられている。
*2 心室性不整脈:心室から生じる不整脈全般のこと。心室頻拍や心室細動はこの一種で、心停止の原因となる重篤な不整脈 (致死性不整脈) である。
*3 植え込み型除細動器:前述の致死性不整脈が出現した際に、自動的に不整脈を感知して電気ショックなどの治療を行う体内に植え込む小型の機械。
研究者のコメント
BNPは日常的に用いられるバイオマーカーです。心臓サルコイドーシスにおいて、そのような利便性の高いマーカーと予後との関連を示せたことは、我々の日常臨床の助けとなる可能性があります。今回の結果により、心臓サルコイドーシスに関する予後予測、さらには予後改善につながる研究が進むことを期待しています。(前田 大智)
原著論文
本研究はJournal of the American Heart Association誌のオンライン版に2022年12月14日付で公開されました。
タイトル: The prognostic value of B-type natriuretic peptide in patients with cardiac sarcoidosis without heart failure: insights from ILLUMINATE-CS
タイトル(日本語訳): 心不全を有さない心臓サルコイドーシスにおけるBNPの予後的意義
著者:Shota Miyakuni 1)2), Daichi Maeda 1), Yuya Matsue 1), Kenji Yoshioka 2), Taishi Dotare 1), Tsutomu Sunayama 1), Takeru Nabeta 3), Yoshihisa Naruse 4) , Takeshi Kitai 5), Tatsunori Taniguchi 6) , Hidekazu Tanaka 7), Takahiro Okumura 8), Yuichi Baba 9), Akihiko Matsumura 2), Tohru Minamino 1)10)
著者(日本語表記): 宮國 翔太 1)2), 前田 大智 1), 末永 祐哉 1), 吉岡 賢二 2), 堂垂 大志 1), 砂山 勉 1), 鍋田 健 3), 成瀬 代士久 4) , 北井 豪 5), 谷口 達典 6), 田中 秀和 7), 奥村 貴裕 8), 馬場 裕一 9), 松村 昭彦 2), 南野 徹 1)10)
著者所属:1) Department of Cardiovascular Biology and Medicine, Juntendo University Graduate School of Medicine, 2) Department of Cardiology, Kameda Medical Center, 3) Department of Cardiovascular Medicine, Kitasato University School of Medicine, 4) Division of Cardiology, Internal Medicine III, Hamamatsu University School of Medicine, 5) Department of Cardiovascular Medicine, National Cerebral and Cardiovascular Center, 6)Department of Cardiovascular Medicine, Osaka University Graduate School of Medicine, 7) Division of Cardiovascular Medicine, Department of Internal Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine, 8) Department of Cardiology, Nagoya University Graduate School of Medicine, 9) Department of Cardiology and Geriatrics, Kochi Medical School, Kochi University, 10) Japan Agency for Medical Research and Development-Core Research for Evolutionary Medical Science and Technology (AMED-CREST), Japan Agency for Medical Research and Development
DOI: 10.1161/JAHA.122.025803
本研究はJSPS科研費21H03309, 22K16147の支援を受け多施設との共同研究の基に実施されました。なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。
本研究成果のポイント
- 世界最大規模の心臓サルコイドーシスのレジストリデータを用いた研究である
- 心不全を有さない心臓サルコイドーシスの診断時BNPは予後予測因子であった
- 心臓サルコイドーシスにおけるBNP測定の意義が示された
背景
サルコイドーシスとは、体内の臓器に原因不明の炎症が起こり、その炎症を起こした細胞が肉芽腫と呼ばれる塊を作る病気とされています。この肉芽腫が心臓に起こると心臓サルコイドーシスと呼ばれ、命に関わる不整脈や心不全、さらには突然死を引き起こしうることが知られています。しかし、そのような危険な心イベントを予測する方法は十分に分かっていませんでした。BNPは心臓に負担がかかった際に心臓から分泌されるホルモンで、心不全やその他さまざまな心臓の病気において、心イベントの予測に有用であることが分かっています。そこで、本研究では心不全を有していない心臓サルコイドーシス患者においても、BNPは予後を予測するかを調査することを目的としました。
内容
本研究では、診断の時点で明らかな心不全を有していない心臓サルコイドーシス患者238人のデータを解析しました。患者の平均年齢は61歳で37%が男性でした。中央値3.0年の追跡期間のうちに、死亡、致死性不整脈 (心室細動・持続性心室頻拍・植え込み型除細動器(*3)の適正作動)、心不全入院で構成される「複合心イベント」が61人に発生しました。心臓サルコイドーシスの診断時の血中BNPの値が高い群 (≥101.3 pg/mL) は低い群 (<101.3 pg/mL) よりも複合心イベントのリスクが高く、多変量解析でもBNPは他のリスク因子と独立した予後予測因子であることが明らかになりました 【図1】。
今後の展開
本研究により、たとえ心臓サルコイドーシスの診断時に心不全を有していなくとも、BNPを測定することで将来の心イベントを予測できる可能性が示唆されました。今回の結果により、早期にリスクの高い患者を発見し、早期の治療に結び付けられることが期待されます。
用語解説
*1 脳性ナトリウム利尿ペプチド:心臓に負荷がかかると分泌されるホルモン。心臓にかかっている負荷を知る指標として用いられている。
*2 心室性不整脈:心室から生じる不整脈全般のこと。心室頻拍や心室細動はこの一種で、心停止の原因となる重篤な不整脈 (致死性不整脈) である。
*3 植え込み型除細動器:前述の致死性不整脈が出現した際に、自動的に不整脈を感知して電気ショックなどの治療を行う体内に植え込む小型の機械。
研究者のコメント
BNPは日常的に用いられるバイオマーカーです。心臓サルコイドーシスにおいて、そのような利便性の高いマーカーと予後との関連を示せたことは、我々の日常臨床の助けとなる可能性があります。今回の結果により、心臓サルコイドーシスに関する予後予測、さらには予後改善につながる研究が進むことを期待しています。(前田 大智)
原著論文
本研究はJournal of the American Heart Association誌のオンライン版に2022年12月14日付で公開されました。
タイトル: The prognostic value of B-type natriuretic peptide in patients with cardiac sarcoidosis without heart failure: insights from ILLUMINATE-CS
タイトル(日本語訳): 心不全を有さない心臓サルコイドーシスにおけるBNPの予後的意義
著者:Shota Miyakuni 1)2), Daichi Maeda 1), Yuya Matsue 1), Kenji Yoshioka 2), Taishi Dotare 1), Tsutomu Sunayama 1), Takeru Nabeta 3), Yoshihisa Naruse 4) , Takeshi Kitai 5), Tatsunori Taniguchi 6) , Hidekazu Tanaka 7), Takahiro Okumura 8), Yuichi Baba 9), Akihiko Matsumura 2), Tohru Minamino 1)10)
著者(日本語表記): 宮國 翔太 1)2), 前田 大智 1), 末永 祐哉 1), 吉岡 賢二 2), 堂垂 大志 1), 砂山 勉 1), 鍋田 健 3), 成瀬 代士久 4) , 北井 豪 5), 谷口 達典 6), 田中 秀和 7), 奥村 貴裕 8), 馬場 裕一 9), 松村 昭彦 2), 南野 徹 1)10)
著者所属:1) Department of Cardiovascular Biology and Medicine, Juntendo University Graduate School of Medicine, 2) Department of Cardiology, Kameda Medical Center, 3) Department of Cardiovascular Medicine, Kitasato University School of Medicine, 4) Division of Cardiology, Internal Medicine III, Hamamatsu University School of Medicine, 5) Department of Cardiovascular Medicine, National Cerebral and Cardiovascular Center, 6)Department of Cardiovascular Medicine, Osaka University Graduate School of Medicine, 7) Division of Cardiovascular Medicine, Department of Internal Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine, 8) Department of Cardiology, Nagoya University Graduate School of Medicine, 9) Department of Cardiology and Geriatrics, Kochi Medical School, Kochi University, 10) Japan Agency for Medical Research and Development-Core Research for Evolutionary Medical Science and Technology (AMED-CREST), Japan Agency for Medical Research and Development
DOI: 10.1161/JAHA.122.025803
本研究はJSPS科研費21H03309, 22K16147の支援を受け多施設との共同研究の基に実施されました。なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。
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