中小企業向け金融市場におけるBaaSの進化と未来
~生活のあらゆる瞬間に、金融機能が溶け込む「クロスインダストリー」の世界とは~
BaaS(Banking as a Service)は、API(Application Programming Interface)を通して銀行が持つ金融機能(預金・決済・融資など)を外部企業に提供するビジネスモデルです。この技術を活用することで、金融と非金融の世界が融合し、業界の変革が加速しています。

本ニュースレターでは、この変革の中核であるBaaSの概念とその革新的な活用事例を通じて、生活のあらゆる瞬間に金融機能が溶け込む「クロスインダストリー(*)」の世界をご紹介します。そして、この金融の変化を受けて、2025年11月よりサービスを開始した中小企業向け新金融プラットフォーム「ラクスルバンク」についても、改めて特徴とねらいをお伝えします。
中小企業の経営課題と金融サービスの変化
これまで、中小企業向けの金融市場は伝統的なメガバンクなど大手行や地方銀行の基盤の上に成り立ってきました。しかし近年、フィンテック企業やネット銀行がデジタル技術で攻勢をかけ、業界の地殻変動が起きています。
変化を促す中小企業の「根深い課題」
市場の変化を支えるのは中小企業が長年抱える経営課題であり、これが新しい金融サービス需要を刺激しています。
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人手不足と生産性向上の要請
慢性的な労働力不足の中、バックオフィス業務の効率化は待ったなしの課題です。一方で、企業規模が小さいほど、決済・経理に関する業務のデジタル化や効率化が進んでいない現状があります。

(定義) ■中小企業:中小企業基本法第2条第1項の規定に基づく「中小企業者」をいう ■小規模事業者:同条第5項の規定に基づく「小規模企業者」をいう ■中規模企業:「小規模企業者」以外の「中小企業者」をいう

(定義)
■大企業:小規模事業者及び中小企業に該当しない事業者で、①製造業・建設業・運輸業その他の業種(②~④を除く)、②卸売業、③サービス業、④小売業を東京商工リサーチ保有データベースの比率に合わせた件数を各業種ごとに無作為抽出
■中小企業:中小企業基本法(昭和三十八年法律第百五十四号)第二条第1号から第4号に規定される事業者で、①製造業・建設業・運輸業その他の業種(②~④を除く)、②卸売業、③サービス業、④小売業を東京商工リサーチ社保有データベースの比率に合わせた件数を各業種ごとに無作為抽出
■小規模事業者、個人事業主:中小企業基本法第2条第5項に規定される事業者で、①製造業・建設業・運輸業その他の業種(②~④を除く)、②卸売 業、③サービス業、④小売業を東京商工リサーチ保有データベースの比率に合わせた件数を各業種ごとに個人企業2,000社、法人8,000社を無作為抽出
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法人向け金融機関の変革の遅れが経営を圧迫
従来の法人向け金融機関は、サービスや手続きにおいてデジタル化や効率化が遅れており、これが多忙な中小企業経営者の時間とコストを圧迫しています。 特に、複雑な手続きや時間の制約、高止まりしたままの振込手数料やカード年会費などのコスト構造が、中小企業の財務体質や事業成長の足かせとなっています。

新しい金融サービスへの要請。そのインフラを担う中核要素の一つがBaaSの進化です。BaaSは、これまでの銀行機能をAPIで解放し、異業種企業による「金融機能の組み込み」を可能にしました。この技術の進化と中小企業の課題解決ニーズの融合により、金融と非金融の境界が曖昧になる「クロスインダストリー (*)」が急速に展開しています。これは、中小企業向け金融市場の未来を形作る重要な原動力となっています。
(*)クロスインダストリーとは、異なる業界や分野が連携し、それぞれの知識や技術、ノウハウを組み合わせて、新たな価値やビジネスモデルを生み出す「異業種連携」や「業際ビジネス」を指します。
BaaSの概念、進化と未来
BaaSは、銀行がAPIを介して、預金、融資、決済などの金融機能を非金融事業者に提供する仕組みです。BaaSの活用によって、非金融事業者は銀行ライセンスを別途取得することなく、自社サービス内に金融機能を組み込むことが可能になります。この「エンベデッド・ファイナンス(組込型金融)」の実現こそ、BaaSが提供する核心的な価値と言えます。
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BaaS注目の背景
注目の背景には、社会全体のデジタル化の進展、フィンテックの急速な普及、そして個々のライフスタイルに合わせたパーソナライズされた金融サービスへの顧客ニーズの多様化があります。さらに、日本では2017年5月26日に参議院本会議で可決・成立した改正銀行法により、銀行や信用金庫に対してオープンAPIの公開が努力義務化されました。これが、BaaSの実現に向けた重要な転換点となっています。 -
活用の拡大と新たな価値創造の可能性
今後、BaaSの活用はますます拡大し、一般化していくと予測されます。金融と非金融の境界は一層曖昧になり、「クロスインダストリー」による新たな価値創造が大いに期待されます。
国内外のBaaS事例
近年、BaaSを活用した非金融事業者による決済サービスの提供が、アパレル・小売、モビリティ、通信、ITなど幅広い業界で増加しています。事業者は、口座、決済、融資、送金といった金融機能を、自社サービスの中に直接統合できる点が大きな特徴です。以下に航空・旅行、小売、モビリティ、プロスポーツ、ITなど多岐にわたる業界における代表的な事例を取り上げました。表には、各社が提携する金融機関とともに、どのようなサービスを構築しているかを整理しています。

BaaSが拓く金融の未来像
BaaSの普及は、金融と非金融の境界を曖昧にし、日常生活のあらゆる場面でストレスなく洗練された金融サービスが利用できる環境を整備します。
BaaSの普及によって起こる具体的な変化として、以下のような点が考えられます。
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サービスの深化と利便性の向上
例えば、航空(日本航空株式会社)、交通(JRグループ)、小売(Walmart Inc.)といった事業会社が銀行ライセンスを持たずとも、自社ブランドでユーザーにとってメリットの大きい金融サービスを顧客に直接提供できるようになります。利用者は、銀行取引によるポイントやマイルの獲得、金融サービスの利用を通じたファンクラブ特典の取得など、企業ブランドに強く紐づいたパーソナライズされた金融体験を得られるようになります。
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金融と事業会社が融合する「クロスインダストリー」の世界
BaaSは、従来の「公共」「製造」「流通」「金融」といった縦割りの業界構造を根本から融合させ、各業界が混ざり合う「クロスインダストリー」の世界を実現します。BaaSは、業界の境界領域に金融機能を組み込むための共通インフラとして機能します。異業種の企業(ブランド)が持つ顧客接点や行動データ(例:購入履歴、移動データ)を、銀行機能(決済、送金、融資)と連携させることで、これまでにない新しい顧客体験の創造が可能になります。
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BaaS市場を駆動する新しいエコシステム
BaaS市場の成長は、以下の三者によって構成される強固なエコシステムの形成を通じて加速します。①ブランド(Brand):日本航空、JRグループ、Appleなどのように、強固な顧客接点を持つ異業種の企業
②ライセンスホルダー(License Holder):GMOあおぞらネット銀行、住信SBIネット銀行、楽天銀行、Green Dot Bankなどのように、金融機能を提供する銀行
③イネイブラー(Enabler): ブランドと銀行をAPIなどの技術でつなぎ、金融機能の組み込みを支援するテクノロジープロバイダー
非金融事業者が保有する膨大なデータが金融機能と融合することで、BaaSは金融の未来を大きく変える原動力となり、社会のデザインにおける中核的な役割を果たすことが期待されます。
ラクスルによる、新金融プラットフォーム事業について
ここまで、金融業界と異業種間におけるビジネスモデルを根幹から変革する「BaaSの進化と活用」が、いかにビジネス領域を拡大しつつあるかを解説しました。
この金融業界の変革を契機に、ラクスル株式会社は100%出資子会社であるラクスルバンク株式会社を設立しました。そして、2025年11月27日にGMOあおぞらネット銀行株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役会長:金子岳人、代表取締役社長:山根武、以下:GMOあおぞらネット銀行)のBaaSを活用し、中小企業向け金融プラットフォーム「ラクスルバンク」のサービス開始を発表しました。
「ラクスルバンク」の主な強みは以下の通りです。
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スピードと利便性
最短当日、オンラインでで法人口座開設が完了、スピーディーに利用可能です。
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圧倒的なコスト優位性
他行宛て振込手数料を業界最安級の119円/件に設定し、中小企業の固定費削減に貢献いたします。
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ラクスルグループの各種サービス連携と経済的メリット
ラクスルサービス(印刷・広告・ホームページ制作等)ご利用で、2.0%のポイント還元を実現。これにより、グループ内サービスと金融体験をシームレスに統合します。
「ラクスルバンク」は、単なる銀行代理業の開始ではなく、BaaSを活用することで、金融サービスの利用障壁を劇的に下げるとともに中小企業のビジネスをラクにするという事業指針を具現化していくものです。
私たちは、テクノロジーと金融を融合させることで、中小企業が経営・事業に集中し、さらなる成長を実現できる環境を提供します。ラクスルバンクは、今後もBaaSの可能性を最大限に活用して中小企業向け金融プラットフォームのデファクトスタンダードを目指してまいります。
ラクスルバンクについて(2025年11月27日配信)
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プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000511.000010550.html
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リリース本文:https://corp.raksul.com/wp-content/uploads/2025/11/c2707dc13d5a16a8bfff90c32d9e5173.pdf
【ラクスルバンク株式会社 概要】
名称:ラクスルバンク株式会社
所在地:東京都港区麻布台一丁目3番1号 麻布台ヒルズ 森JPタワー19階
代表取締役CEO:杉山 賢
設立年月日:2024年11月1日
コーポレートサイト:https://www.raksulbank.co.jp/
サービスサイト:https://raksulbank.com/
【RAKSULグループ 会社概要】
当社は、「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」という企業ビジョンのもと、「End-to-Endで中小企業の経営課題を解決するテクノロジープラットフォーム」を目指し、事業運営をしています。従来の「モノ」を中心とした事業領域にとどまらず、企業経営における「ヒト・モノ・カネ」すべての管理領域でのサービス提供を通じて、日本企業の約99.7%を占める中小企業の包括的な経営課題解決を実現してまいります。
名称:ラクスル株式会社
所在地:東京都港区麻布台一丁目3番1号 麻布台ヒルズ 森JPタワー 19階
代表取締役社長 グループCEO:永見 世央
設立年月日:2009年9月1日
コーポレートサイト:https://corp.raksul.com/
運営サービス一覧:https://corp.raksul.com/services/
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