コリアン差別のSNS投稿をした添田詩織泉南市議会議員を糾弾する訴訟大阪高裁判決に対する弁護団声明
2026年7月30日、大阪高等裁判所第2民事部6係(谷口安史裁判長)は、市議会議員である
添田詩織氏から人種差別的権利侵害を受けた李香代さんに対し、損害の重大さを重く認定し、原審
より増額した88万円の請求を認める判決を言渡した。
【事案の概要】
李香代さんは在日コリアンであり、株式会社TryHardJapan(以下「THJ社」)の取締役を務めて
いる。添田氏は、かねてより議会内外で排外主義的言動を繰り返し、THJ社に対しても根拠なく
「中国共産党がバックにいる」などと発言していた。これに対しTHJ社が2024年2月に損害賠償等を求めて提訴したところ、添田氏はその直後の3日間に、X(旧Twitter)上で、THJ社には代表者や
複数の取締役がいる中で一取締役にすぎない李さんの顔写真とともに、THJ社とは全く無関係な親族の過去や、李さんが朝鮮学校無償化運動(火曜日行動)に参加していることなどを内容とする3つの投稿による権利侵害を行った。
原審(大阪地裁)は、名誉毀損・プライバシー侵害・肖像権侵害を認め、55万円の損害賠償と
投稿削除を命じるとともに、「一定の政治的思想等を有する者による攻撃を誘発する危険」
(いわゆる犬笛)を認定した。しかし一方で、「在日コリアンといった属性一般に着目した攻撃とは
認められない」とし、人種差別撤廃条約上の「人種差別」該当性を否定したため、原告側が控訴した。
【本件控訴審の特質と意義】
本件は通常の同種事件と異なり、以下の点で重大な特質を有している。
・政治家である市議会議員から、SNSを利用して一私人に対してなされた人権侵害行為であること。
・その表現内容が被害者の民族的属性に着眼してなされ、市民を煽動する人種差別事件であること。
本年(2026年)はヘイトスピーチ解消法(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に
向けた取組の推進に関する法律)施行から10年を迎える年である。本判決は、日本社会において、
本邦外出身者に対する差別を許さないという意識が醸成され、社会常識として根付いたことを示す
里程標のような判決となることが期待されていた。
また、政治家がSNSを利用し、市民を煽動して人権侵害行為を誘発させるという、新しい類型の
人権侵害(犬笛型ヘイトスピーチ)を断罪し、政治家のSNS利用の在り方に警鐘を鳴らすという
先駆的な意義も有していたものである。
加えて、原審は、名誉毀損、プライバシー侵害、肖像権侵害を認定し、犬笛による侵害態様を認めたものの、人種差別行為を認定しなかった。これは、司法の人種差別に対する理解が誤っていたがために下された判断と言わざるを得ず、本件控訴は、司法に対して問題の本質を問いただす意味も込められている。
【本件控訴審での展開】
控訴審において、李香代さん弁護団は、板垣竜太氏(同志社大学社会学部教授)と佐藤裕氏
(富山大学人文学部教授)の協力のもと、以下の通り主張し、原判決の誤りを正すよう求めた。
◇1.人種に基づく標的の選定
添田氏は、「北朝鮮」という国と、その一員と目される人々に対して過剰とも言える否定的な関心を
抱き、その関心に基づいて李香代さんを「北朝鮮」と何らかの関りがあると評価して、本件各投稿を
行ったのであるから、まさしく「人種等」に基づくものである。
◇2.「犬笛」と「ドキシング」による人種差別(排除)の効果
数万人のフォロワーを持つ政治家が、根拠なく「北朝鮮」や「スパイ」といったワードと李さんを
結びつけ、顔写真や個人情報を晒し上げる行為(ドキシング)は、特定の属性を持つ個人を攻撃対象として提示する「人種プロファイリング」であり、フォロワーに攻撃を煽動する「デジタル自警行為」に他ならない。
◇3.特定・拡散による甚大な損害
SNS上で特定・拡散されたことにより、李香代さんは実生活において「いつどこで襲われるか
分からない」「朝鮮学校支援活動の仲間に対するヘイト」という強烈な恐怖を植え付けられ、長年続けてきた。
表現活動(火曜日行動)への参加断念を余儀なくされた。これは、基本的人権と平穏な生活を根底から脅かすものであり、人種差別事件としての深刻な被害実態を踏まえれば、賠償額は原審の55万円に
留まらず大幅に増額されるべきである。
本件判決の評価
本判決(谷口安史裁判長、太田敬司裁判官、真田尚美裁判官)は、本件各投稿についての違法性
を認定し、添田氏の政治家としての活動であったなどという弁解を全て排斥し、損害賠償の増額を
認めた点で、評価に値する。
まず、「一連一体である本件各投稿は、原告の名誉を毀損し、原告のプライバシーに属する事実や
自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない利益を侵害するものであり、全体として
不法行為法上違法と評価すべきである。」として、名誉毀損、プライバシー権侵害、肖像権侵害を
改めて認定した。
加えて、市民への情報提供や公金支出の問題の追及という添田氏の主張や添田氏の控訴審での追加主張も全て排斥した。このように、添田氏の不合理な弁解を原審に引き続き明確に退けたことは評価できる。
その上で、「インターネット上のみならず、原告の様々な社会生活の場面において、一定の政治的
思想を有する者による原告に対する攻撃を誘発する危険があり、かつ、原告にそのような攻撃に対する
不安や恐怖を覚えさせるものであることが認められる。そして、泉南市議会議員であり、数万人のフォロワーを有する政治家である被告の発言の影響力や、インターネット上における情報の拡散性を考えると、原告に対する攻撃の危険性に関する原告の不安と恐怖は小さくはないというべきであるから、
これを過小評価することは相当でない。」として、添田氏の行為の悪質性や被害の深刻さを認定し、
損害額を増額したことは評価すべきである。
他方で、「本件各投稿それ自体が人種差別であるとか、被告に人種差別の目的があったなどという
事実は認めることはできない。」として、人種差別撤廃条約の要件の検討すらすることなく、人種差別性については「認めることができない」とする一文で片づけ、証拠の検討すら全くなされていない極めて不当な内容である。
また、添田氏が原審の尋問において李香代さんを「北朝鮮の方」、「日本の安全保障上に問題のある国籍の方」と述べているにも関わらず、本判決は、「被告が、原告が北朝鮮と関係を有する疑いがあることを示すために本件各投稿を行ったと供述していることを考慮したとしても」と人種差別目的に言及しながら、理由を一切述べることなく、人種差別性を否定したことは、もはや司法の役割を放棄した
ものといえ、看過しがたい重大な問題である。
【今後の決意】
弁護団は、本判決の不当性を糾弾するとともに、添田氏からの人権侵害を受けた李香代さんの権利回復のため、最後まで闘い抜くことを固く決意する。
李香代弁護団 団長 弁護士 田中 俊
