【オフィスユーザーレポート】成約事例で見る東京都心部のオフィス市場動向(2024年下期)
「オフィス拡張移転DI」の動向
三幸エステート株式会社(本社:東京都中央区、取締役社長:武井重夫)と株式会社ニッセイ基礎研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:手島恒明)は、賃貸オフィスの成約事例の各種データを活用し、オフィス市場における企業の移転動向などに関する共同研究を行っております。
両社はこれまで、成約賃料指数である「オフィスレント・インデックス※」 を開発するなど、オフィス市場分析に共同で取り組んできました。本研究では、賃貸オフィスの成約事例に関する各種データを活用し、オフィス市場における企業の移転動向などに関する分析を行います。
本稿では、三幸エステートとニッセイ基礎研究所の共同研究の一部であるオフィス拡張移転DIを中心に、2024年下期の企業のオフィス需要動向を発表いたします。
※三幸エステート(2024)「オフィスレント・インデックス2024年第4四半期」(2025年2月4日)
要旨
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オフィス拡張移転DIは緩やかながら上昇し、市場全体として底堅い推移を維持している
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業種ごとの大きなトレンドは見られなかったが、情報通信業ではハイブリッドワークの影響により縮小移転が一定数発生している
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ビルクラス間の格差は縮小し、特にグレードの高いビルでオフィス需要が回復した
次項よりニッセイ基礎研究所 金融研究部 佐久間 誠 執筆
「オフィス拡張移転DI」の動向
オフィス拡張移転DIは、0%から100%の間で変動し、基準となる50%を上回ると企業の拡張意欲が強いことを表し、50%を下回ると縮小意欲が強いことを示す※1。
東京都心部のオフィス拡張移転DIは2024年第3四半期に71%、第4四半期は72%と、コロナ禍前に迫る水準まで上昇し、オフィス需要の回復が緩やかに進展していることが伺える。以下では、オフィス成約面積の動向を振り返ったうえで、オフィス拡張移転DIを業種別およびビルクラス別に分析し、企業のオフィス需要の動向を確認する。
※1 算出方法については、末尾の【参考資料】「オフィス拡張移転DIについて」を参照
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1.企業のオフィス移転動向は引き続き堅調
三幸エステートの公表データによると、2024年下期の東京都心5区のオフィス成約面積は39.1万坪(前年同期比+11.1%)と前年から増加した(図表 1)※2。未竣工ビルの成約面積は3.9万坪(同+24.0%)、竣工済ビルは35.2万坪(同+9.8%)と増加した。これらの結果は、企業の好調な業績を背景に、オフィス移転需要が引き続き堅調に推移していることを示唆している。
※2 三幸エステート「オフィスマーケット調査月報」を参照
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2.オフィス需要の底堅い推移と市場回復の継続
①オフィス拡張移転DIは緩やかに上昇
東京都心部のオフィス拡張移転DIは、2024年第3四半期に71%、第4四半期に72%と上昇した。(図表 2)※3。2023年は新築ビルの供給が多かったため、オフィス拡張移転DIが70%前後で推移したものの、空室率は概ね横ばいで推移した。一方、2024年は新規供給が減少したため、空室率は2023年12月の5.15%から2025年1月には3.74%へと低下した。拡張移転DIはオフィス市場が活況を呈していた2019年の70%台後半に迫る水準まで回復し、需給の引き締まりが進むなか、市場全体も底堅い推移を見せている。
※3 東京都心部は、東京都心5区主要オフィス街および周辺区オフィス集積地域(「五反田・大崎」「北品川・東品川」「湯島・本郷・後楽」「目黒区」)。詳細は、三幸エステート「オフィスレントデータ2025」を参照
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オフィス移転件数に占める拡張・同規模・縮小の比率(2024年上期→下期)は、「拡張54%→58%」、「同規模31%→28%」、「縮小15%→14%」となった(図表 3)。企業業績が好調に推移し、企業の拡張意欲が高まる中でも、縮小移転の割合が小幅にしか低下しない背景には、在宅勤務の活用により、縮小移転を選択する企業が一定数存在することが影響していると考えられる。
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②業種別の動向に明確な傾向は見られず
2024年下期の主要業種別のオフィス拡張移転DIは、不動産業・物品賃貸業が80%、学術研究・専門/技術サービス業が79%、その他サービス業が70%、情報通信業が70%、卸売業・小売業が69%、製造業が63%という結果となった(図表 4)※4。同期間は、業種ごとに明確なトレンドは見られず、製造業やその他サービス業では、前期の反動による上下と見られる動きを示した。
※4 業種別のオフィス拡張移転DIは、十分なデータ数を確保するため、東京都心部ではなく東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)を対象とした
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情報通信業は、オフィス需要が底堅く推移しているものの、コロナ禍前のような力強さには欠ける。同業種におけるオフィス移転件数の比率(2024年上期→下期)を見ると、拡張移転が「47%→61%」、同規模移転が「28%→17%」、縮小移転が「25%→22%」となった。2019年には縮小移転の割合が一桁台まで低下したものの、直近では全体の2割強で下げ止まっている。この傾向は、在宅勤務との親和性が高い情報通信業において、依然として一定数の企業が縮小移転を選択していることを示している(図表 5)。
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③ビルクラス別の格差は縮小、ハイグレードビルへの需要回復
ビルクラス別のオフィス拡張移転DIを見ると、2024年下期はAクラスビルが79%(前期68%)、Bクラスビルが84%(同76%)、Cクラスビルが71%(同74%)となり、特にグレードの高いビルでの上昇が顕著だった(図表 6)※5。コロナ禍では、Aクラスビルのオフィス拡張移転DIが大幅に低下し、オフィスビル間の格差が拡大していたが、現状ではこうした差異は縮小している。さらに、現在は人手不足を背景に、優秀な人材の確保や従業員の定着を目的として、ハイグレードなビルへの移転を進める企業が見受けられる。2025年は新規供給の増加に伴う需給の軟化が懸念されるものの、ハイグレードビルへの需要回復は、市場にとって前向きな要素と捉えられる。
※5 各ビルクラスの分類は、三幸エステートの定義に基づき、同基準を満たすビルを抽出した上で、ビルクラス別のオフィス拡張移転DIを算出している。三幸エステートでは、エリア(都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域)から延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルなどからガイドラインに従いBクラスビルを、同100坪以上200坪未満のビルからCクラスビルを設定している(詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2025 」を参照)
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3.おわりに
本稿では、オフィス拡張移転DIをもとに2024年下期のオフィス移転動向を分析した。
その中で、
(1)オフィス拡張移転DIは緩やかながら上昇し、市場全体として底堅い推移を維持している
(2)業種ごとの大きなトレンドは見られなかったが、情報通信業ではハイブリッドワークの影響により縮小移転が一定数発生している
(3)ビルクラス間の格差は縮小し、特にグレードの高いビルでオフィス需要が回復した
ことを確認した。
以上のように、2024年下期のオフィス市場は、底堅い推移を維持しながら改善傾向を続けている。2025年には新規供給の増加が見込まれる中、市場の回復基調を維持できるかが重要な焦点となる。また、こうした底堅いオフィス需要が明確な賃料上昇へとつながるかどうかは、金利のある市場環境に移行する中で、引き続き注視すべきポイントとなるだろう。
【参考資料】 オフィス拡張移転DIについて
オフィス拡張移転DI※6は、オフィス移転後の賃貸面積が移転前と比較して(1)拡張、(2)同規模、(3)縮小、した件数を集計し、次式により計算している。
オフィス拡張移転DI=1.0×拡張移転件数構成比+0.5×同規模移転件数構成比+0.0×縮小移転件数構成比
オフィス拡張移転DIは0%から100%の間で変動し、基準となる50%を上回ると企業の拡張意欲が強いことを表し、50%を下回ると縮小意欲が強いことを表す。例えば、図表 7のように、オフィス移転が合計500件あり、そのうち拡張移転が150件、同規模移転が300件、縮小移転が50件の場合、オフィス拡張移転DIは60%となり、企業の拡張意欲が強いことを表す。
※6 DIはDiffusion Index(ディフュージョン・インデックス)の略、変化の方向性を示す指標のことである。DIの代表例としては、経済分野では日本銀行の 全国企業短期経済観測調査(日銀短観)や内閣府の景気動向指数、また不動産分野では土地総合研究所が公表する不動産業業況等調査(不動産業業況指数)がある
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三幸エステート株式会社について
三幸エステート株式会社(1977年5月17日設立)は、企業のオフィス戦略を総合的にサポートしています。最適なワークプレイスの検証・提案から、賃貸オフィスビルの選定サポートと仲介、プロジェクト遂行に不可欠なマネジネント機能の提供まで、オフィスに関するあらゆるニーズに幅広くお応えしています。
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