薬剤耐性結核の新たな希望となる治療法を発見──国境なき医師団による臨床試験

国境なき医師団

国境なき医師団(MSF)は、主導してきた薬剤耐性結核に対する臨床試験「TB-PRACTECAL」において、経口薬だけで完結する新たな6カ月のレジメン(治療計画)が、現行の標準治療よりも安全かつ効果的にリファンピシン(※)耐性結核(RR-TB)を治療できることを明らかにした。

最長20カ月という長期にわたる薬剤耐性結核の治療では、痛みを伴う注射を用い、副作用が重い錠剤を多いときには1日20錠も投与する。完治するのは2人に1人にとどまり、心身の健康や経済的・社会的な面で患者に与える負担も大きい。今回の結果は、こうした過酷な治療を受けてきた患者にとって新たな希望となる。

※リファンピシンは、最も効果的な結核の第一選択薬のひとつ。別の第一選択薬であるイソニアジドとリファンピシンの両方に対する耐性を示す結核を、「多剤耐性結核(MDR-TB)」と定義している。MDR-TBとリファンピシン耐性結核は、どちらも第二選択薬による治療が必要。現在、両疾患に推奨されている治療法は同じであるため、互換性があると考えられる。

薬剤耐性結核に対する臨床試験で患者を診察する国境なき医師団の医師 © Oliver Petrie/MSF薬剤耐性結核に対する臨床試験で患者を診察する国境なき医師団の医師 © Oliver Petrie/MSF

 
  • 短期間の治療計画でも明らかとなった有効性

MSFは本日、この臨床結果を「第52回肺の健康世界会議」で発表し、また年内に査読付きの論文で全て公開する予定。さらに世界保健機関(WHO)による薬剤耐性結核の治療ガイドライン改訂に先駆け、このデータをWHOと共有し、各国のガイドラインや最終的には臨床現場で導入されることを目指す。

この臨床試験はRR-TBに対し6カ月間、経口薬のみを用いたレジメンの有効性と安全性を調べたもので、史上初、多国間多施設でランダム化比較試験を行った。使用した薬はべダキリン、プレトマニド、リネゾリド、モキシフロキサシン(総称BPaLM)で、現在行われている標準治療と比較した。参加した患者数は計552人で、そのうち301人分がすでに解析されている。ベラルーシ、南アフリカ共和国、ウズベキスタンにある7カ所の施設で実施された。

第II相と第III相の臨床試験を行い、この新しい短期レジメンがRR-TBに対し有効性が高いことが明らかとなった。BPaLMを投与したグループでは89%の患者が治癒したのに対し、標準治療のグループでは52%の治癒率で、結核や治療の副作用で患者4人が亡くなった。新しいレジメンのグループで亡くなった人はいなかった。さらに試験結果によると、新しいレジメンは重大な副作用の発生率を大幅に引き下げ、患者の80%に大きな副作用が現れなかったのに対し、標準治療グループでは40%だった。
 
  • 今後の結核治療に変化をもたらす

「9年前にこのプロジェクトを始めたとき、世界中で薬剤耐性結核をもつ患者が効果の低い過酷な長期治療を受け、生活にも支障をきたしていました」とMSFの医療ディレクターで臨床試験責任者を務めるバーン=トーマス・ニャングワは語る。「患者たちは治療を続けることがどれほど難しいか、よく話していました。結核のような低・中所得国で多い病気には投資が集まらないので、自分たちで新たな治療法を探し出す必要がありました。今回の結果は、世界中の患者やその家族、医療従事者の方々に治療の未来への希望を与えるものです」

7カ所ある試験施設の一つである南アフリカのディヌズール王立病院の主任研究員ノシポ・ヌグバネは、「この試験を通じて地域社会に貢献できることを光栄に思います。被験者にとっても、短期間のレジメンで錠剤の数も少ないので、治療を続けやすくなりました」と話す。

MSFは世界的に推奨される治療が更新される際、今回の結果が、短期間で効果的かつ安全な治療法への、増えつつあるエビデンスに大きく寄与すると期待している。また今回の結果で、結核治療は変化を免れられないことが明らかになったとMSFは考えている。

南アフリカの「結核とHIV研究ネットワーク(THINK)」を通じて試験に参加したアワンデ・ヌドラブーさんは、「治療期間が短くなることは大きな意味があります。治療中は人生が保留になったように感じるので。この試験で希望が持てるようになるまでは、多剤耐性結核からの回復など想像もできませんでした」と語る。

MSFとこの臨床試験のパートナーは、今回の治療を終えた患者のケアと検診を続けている。最後の患者の経過観察は2022年夏になる見込みだ。

MSFは、国の結核対策プログラム、保健省、その他の主要な関係者と緊密に連携して、できるだけ早く患者がこの治療を受けられるように徹底していく。

「MSFは、効果的で安価な結核治療法の推進に全力を挙げてまいります。2020年、私たちは1万3800人の方が結核治療を始める手助けをし、そのうち2100人は薬剤耐性結核でした。世界でも有数の結核治療NGOとして、今回の結果が患者にとってどのような意味を持つのか期待しています」とMSFインターナショナル会長クリストス・クリストゥ医師は次のように続ける。

 「この臨床試験に尽力したスタッフと患者の皆さまには感謝してもしきれません。一人ひとりのおかげで、結核患者から医療従事者に至るまで多くの人が長いこと待っていた、劇的に短く、効果的で、安全で、受けやすい治療法の新たなエビデンスを得られたのですから」

MSFと結核
MSFは、結核治療を提供する世界有数のNGO。2020年には2100人の薬剤耐性結核患者を含む1万3800人がMSFのもとで結核治療を開始した。

TB-PRACTECAL臨床試験について
TB-PRACTECALは多群、オープンラベルの、ランダム化第II/III相比較試験で、第II相試験ではB-Pa-Lzd-Mfx、B-Pa-Lzd-Cfz、B-Pa-Lzdという実験段階にある3つのレジメンと対照群に患者を割り付けた。第III相試験では、B-Pa-Lzd-Mfxの実験群と標準治療群のみが参加。TB-PRACTECALに参加した合計552人の患者のうち第III相試験に参加したのは301人。いまもこの試験に参加している患者を対象に2022年8月まで追跡調査を行う。試験終了は2022年12月を予定。MSFは終了時点で合計552人の患者と対照群のデータ発表を予定している。主要評価項目を含むTB-PRACTECAL臨床試験の詳細はこちら(英文)。
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02589782

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業種
医療・福祉
本社所在地
東京都新宿区馬場下町1-1  FORECAST早稲田FIRST 3階
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03-5286-6123
代表者名
村田慎二郎
上場
未上場
資本金
-
設立
1992年12月