立地が分けるオフィス市場の優勝劣敗(2025年)

~ 2025年も続く、オフィス市場の潮流 ~

三幸エステート株式会社

三幸エステート株式会社 市場調査室  今関豊和、松尾和史

神戸大学大学院工学研究科       准教授 瀬谷創

筑波大学システム情報系        教授 堤盛人


昨今、東京オフィス市場は需要の拡大傾向が継続しています。東京23区における大規模ビル(1フロア面積 200坪以上)の空室率は、コロナ禍以降、2023年7月に5.35%まで上昇したものの、2024年12月には3.79% まで低下しました。しかし、全てのオフィスビルにおいて、募集状況が改善しているわけではありません。採用難が深刻さを増す中、優秀な人材の獲得や従業員の満足度向上を意識し、「出社したくなるオフィス」を追求する企業が増えたことで、質の高いオフィスビルに人気が集中し、大規模ビル市場において需要の二極化が進んでいます。本レポートでは、2024年3月に公表した交通利便性別の空室率※1を更新し、2024年12月におけるオフィス市場の潮流に関する調査結果を公表します※2。

※1 三幸エステート(2024),立地が分けるオフィス市場の優勝劣敗~データで見るオフィス市場の新潮流~.

  https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000251.000118399.html

※2 本調査は、筑波大学 不動産・空間計量研究室(所在:茨城県つくば市、主宰:堤盛人 教授)と三幸エステート株式会社(本社:東京都中央区、取締役社長:武井重夫)との共同研究の成果の一部です

交通利便性による空室率の差が拡大

【図表1】は、東京23区内における築1年以上の大規模ビルを対象に、周辺の鉄道路線数(【付録】参照)によってグループ分けを行い、空室率を集計したものです。周辺に鉄道路線が1路線しかなく、交通利便性が低いビルの空室率はコロナ禍以降上昇が続きました。2024年初頭は低下傾向が見られたものの、2024年7月には8.79%まで上昇しています。これは、交通利便性が低い立地で2023年に竣工したオフィスビルが、まとまった面積の空室を抱えた状態で築1年を迎えたためです。その後は、交通利便性が低いビルの空室率も低下していますが、2024年12月には7.55%と、依然として高い水準で推移しています。

 一方で、複数路線にアクセス可能な交通利便性が高いビルの空室率は、2022年以降一貫して低下傾向にあり、交通利便性の高低による空室率の差は前回レポート※1で公表した2023年12月よりも拡大しています。特に、5路線以上にアクセス可能なオフィスビルの空室率は、2023 年12月から2024年12月までの間に1.33ポイント低下し、1.57%となりました。1路線のみアクセス可能なオフィスビルとの空室率の差は5.98ポイントとなっています。

交通利便性による募集賃料の格差も拡大

【図表 2】は交通利便性が低いオフィスビル(1 路線のみアクセス可能)と高いオフィスビル(5 路線以上にアクセス可能)の空室率の差と、募集賃料の格差の推移を表しています。コロナ禍前の 2019 年 11 月には 16.20%あった募集賃料の格差は、コロナ禍に入ると小さくなり、2022 年 8 月に 9.42%まで低下しました。その後、企業がより質の高いオフィスビルに移転する傾向、すなわち『質への逃避』によって交通利便性の高い立地に需要が集中すると、空室率と同様に募集賃料の格差は広がり、2024 年 12 月では 14.70%となっています。

 募集賃料の動向を見ると、2024 年 12 月では、いずれの地域も上昇傾向を示しています※ 3。そのような中でも交通利便性の高い立地では、募集賃料の上昇傾向がより強いことから、交通利便性による募集賃料の格差が拡大していることが分かりました。

 足元では、交通利便性は高くないものの築年数が浅いビルでは着実に空室を消化しており、それらが立地するエリアの空室率も今後、緩やかに低下することが見込まれます。しかし、交通利便性が高いオフィスビルとの空室率・募集賃料の差はしばらく埋まらないとみられます。

 通勤のしやすさは求職者が仕事選びにおいて重要視する項目の一つです。そのため、交通利便性の高い立地にオフィスを構えることは、多くの人材を惹きつけ採用難を乗り越える要因になることが期待されます。少子高齢化によって採用難が深刻になる可能性を勘案すれば、交通利便性が高いオフィスビルはより多くのオフィス需要を集め、空室率や募集賃料の格差が更に拡大することも考えられます。

※3 三幸エステート(2025),オフィスマーケット調査月報 2025年01月.

  https://www.sanko-e.co.jp/pdf/data/202501_tokyo_om.pdf

【付録】鉄道路線へのアクセス性とは

 鉄道路線へのアクセス性は、対象ビルの半径 500m 圏内もしくは最寄り駅における鉄道路線数を表します。具体的には【図表 3】のように、オフィスビルごとに半径 500m 圏内に立地する鉄道駅を抽出し、乗り入れている路線数を算出します。図に示した銀座四丁目に立地するビル A では、半径 500m 圏内に有楽町駅や銀座駅などが立地しており、山手線や銀座線をはじめ合計 7 路線にアクセス可能です。半径 500m 圏内に駅が立地していない場合は、最寄り駅における鉄道路線数を算出します。

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会社概要

三幸エステート株式会社

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URL
https://www.sanko-e.co.jp/
業種
不動産業
本社所在地
東京都中央区銀座4-6-1 銀座三和ビル
電話番号
03-3564-8089
代表者名
武井 重夫
上場
未上場
資本金
1億円
設立
1977年05月