世界初 キラル超原子価臭素化合物の開発に成功!
ー不斉有機触媒の設計に新たな可能性ー
千葉大学大学院工学研究院・千葉大学分子キラリティー研究センターの吉田泰志 助教らの研究グループは、キラル超原子価臭素化合物(注1)の開発とその不斉有機触媒(注2)としての応用に成功しました。このことにより、従来困難であったハロゲン結合を活性化力とするルイス酸触媒(注3)による高立体選択的合成(注4)が達成され、より自由度の高い触媒設計が可能となったことから幅広い基質の活性化による新規反応達成が見込まれます。本触媒は安価で低毒性であることから、今後、医薬品原料の効率的な合成を可能にすると期待されます。
本研究成果は、2021年10月13日に米国化学会が出版するACS Catalysisに掲載されました。
本研究成果は、2021年10月13日に米国化学会が出版するACS Catalysisに掲載されました。
- 研究の背景
例えば、L-プロリンとMacMillan触媒を用いた基質活性化には、主に水素結合が用いられてきましたが、水素結合が形成出来ない基質に対しては機能しないなどの問題点があった為、触媒内に導入できる新しい相互作用が求められていました(図1)。その新しい相互作用として、近年はハロゲン結合が注目されています。ハロゲン結合とは、ハロゲン原子が形成できる相互作用のことであり、直線方向への高い依存性をもつという特徴があります。しかしながら、このハロゲン結合を用いる不斉触媒の開発は近年盛んに行われているものの、酸触媒としての使用法における生成物の高立体選択性発現は達成されていませんでした(図2)。
超原子価臭素化合物は、オクテット則(注5)を超える最外殻電子を有している非常に反応性の高い物質であり、通常は進行しない興味深い反応開発が可能であることが知られていました。その一方で、安定性に問題があるためにその利用例は限られており、触媒としての利用は本研究グループが最近見出した1例のみでした。さらにキラル超原子価臭素化合物に関しては合成化学的に興味深い化合物として考えられていた一方、技術的な問題からこれまで合成例すらありませんでした。
- 研究の成果
今回、研究グループは、図3に示すキラル超原子価臭素化合物を設計・合成することに成功しました。この成功の鍵として、超原子価臭素部位が環状構造を有することで安定性が向上し、その結果、触媒として機能できるようになったことが挙げられます。次に、合成したキラル超原子価臭素化合物を、不斉有機触媒として医薬品分子によく見られるキラルクマリンの合成反応に適用しました(図4)。その結果、キラル超原子価臭素化合物は、極めて優秀な触媒として機能するとともに生成物が高い立体選択性で得られることがわかりました。さらに、超原子価臭素を有さない触媒を用いると選択性は発現しなかったことから、超原子価臭素部位が反応を効率的に進行させるためには必要不可欠であることがわかりました。
- 今後の展望
- 研究プロジェクトについて
- 論文情報
著者: 吉田泰志*1、三野孝*1、坂本昌巳*1
*1 千葉大学大学院工学研究院・千葉大学分子キラリティー研究センター
雑誌名: ACS Catalysis
DOI: https://doi.org/10.1021/acscatal.1c04070
- 用語解説
(注2)不斉有機触媒:一方の鏡像異性体を選択的に合成可能な触媒のうち金属原子を含まない分子の総称
(注3)ルイス酸触媒:電子対を引き寄せることで基質を活性化する触媒の総称
(注4)高立体選択的合成:複数の立体異性体が生成可能な反応において、特定の立体異性体のみを高度に制御して合成すること
(注5)オクテット則:一般的に原子の最外殻電子が8個となる化合物は安定に存在できるという経験則
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