核軍縮のための政策提言を国際社会に向けて「ひろしまウォッチ」を発表しました
広島県 / へいわ創造機構ひろしま(HOPe)(注1)は、核兵器のない平和な世界を実現していくため、各国の核軍縮に関する義務の履行状況を確認するとともに、今後、各国が何をすべきか明らかにし、行動を促す「ひろしまウォッチ」を発表します。被爆地広島からの呼びかけとして、本文書を国連の全加盟国(193か国)に送付し、具体的な行動を行うよう呼びかけます。
「ひろしまウォッチ」は、広島県/へいわ創造機構ひろしま(HOPe)が主催する、核軍縮に向けた多国間協議の場として、平成25年(2013)年から実施している「ひろしまラウンドテーブル」 にて作成した提言です。「ひろしまラウンドテーブル」では、藤原 帰一 東京大学名誉教授を議長とし、また、ギャレス・エバンズ教授など、日本、米国、中国、韓国、豪州、ロシア等の外務大臣経験者や研究者等を参加者として迎え、昨年度まで、議長声明等の形で、国際社会に様々な提言を行ってきました。「ひろしまウォッチ」は、これまでの議長声明に替わり、今年度、初めて作成するものです。NPT第6条など核軍縮に関連する各国の義務やコミットメントについて、核軍縮の取組が進んでいない箇所を具体的にウォッチ(監視)し、各国が具体的に何をなすべきか提言し、核軍縮・核兵器廃絶に向けた取組が少しでも前進するよう、その行動を促していきます。
「ひろしまウォッチ」を作成するにあたり、広島県/へいわ創造機構ひろしま(HOPe)が毎年作成している「ひろしまレポート」(注2)を参照しています。また、旧ソ連圏の各国政府が、ヘルシンキ協約(1975年)を遵守しているか監視するために設立され、この地域における1980年代後半の民主化の実現に貢献した「ヘルシンキ・ウォッチ(現:ヒューマン・ライツ・ウォッチ)」にならい、各国政府のコミットメントが遵守されているか監視するものとして、「ひろしまウォッチ」と名付けました。
今後も被爆地広島から、国際社会に向け、核兵器のない平和な世界の実現に向けた取組を発信していきます。
(注1)へいわ創造機構ひろしま((HOPe)Hiroshima Organization for Global Peace)
核兵器のない平和な世界の実現を目指し、広島県内の産学官民の様々な団体と広島県が、令和3(2021)年4月に共同で設立した団体です。
(注2)ひろしまレポート:
広島県/へいわ創造機構ひろしま(HOPe)が、毎年、核保有国や主要な非核保有国の核軍縮・核不拡散・核セキュリティ分野における各国の行動等を一定の基準に基づいて得点化、分析したものです。
最新の「ひろしまレポート」はこちら →
https://hiroshimaforpeace.com/hiroshimareport/report-2024/
■「ひろしまウォッチ」記者会見(令和6年8月5日15:00開催(英語 通訳無))
公益社団法人日本外国特派員協会(FCCJ)のYouTubeチャンネルにてご覧いただけます。
https://www.youtube.com/c/FCCJchannel/live
※動画のダウンロード使用はご遠慮ください。
■「ひろしまウォッチ」
https://hiroshimaforpeace.com/roundtable/hiroshimawatch2024/
■ひろしまラウンドテーブル
https://hiroshimaforpeace.com/roundtable/
■国際平和拠点ひろしまホームページ
【日本語仮訳】
ひろしまウォッチ2024 核使用の危機に瀕する世界
ひろしまウォッチ
1945年8月6日午前8時15分、広島に原子爆弾が投下されたまさにその時、ひとつの時計の動きが止まり、世界は核戦争の恐怖に包まれた。「ひろしまウォッチ」は、止まってしまった時計に思いを馳せ、核兵器のない世界の実現に向けた前進を見守り、そのために各国政府がとるべき政策を提言することを目的としている。これは、年次声明である「ひろしまウォッチ」の初めてのものである。「ヘルシンキウォッチ」と、原子爆弾の開発と使用の歴史における広島の象徴性に着想を得て作られるものであり、「ひろしまウォッチ」は、核軍縮、核不拡散、核セキュリティーの各分野における毎年の最も重要な進展と、その政策的意味を紹介する。この声明は、日本、米国、中国、ロシア、韓国、オーストラリアの核の専門家で構成されるひろしまラウンドテーブル(広島県主催)と、議長によって作成される。また、「ひろしまウォッチ」は、2013年から毎年発行されている「ひろしまレポート」の2024年度版も活用する。
3つの後退
2022年の5つの核兵器国による共同声明やバリでのG20サミット、2023年のニューデリーでのG20サミット、2023年の「核軍縮に関するG7首脳の広島ビジョン」など、近年、いくつかの国際宣言が発表されている。しかし、「核戦争には勝者はなく、決して戦ってはならない」という世界規範を何度も確認し、核兵器のない世界という最終目標にコミットしたにもかかわらず、昨年は危険な後退の年となった。核兵器使用の潜在的脅威は、壊滅的な人道的影響と、この地球上の生命に対する存亡の危機を伴い、かつてないほど憂慮すべきものである。ひろしまウォッチは、特に3つの傾向を重大な懸念として指摘する。第一に、核兵器国が国家安全保障政策において核兵器への依存を強めていること。第二に、核兵器の数、種類、配備が大幅に増加する危険性が高まっていること。最後に、主要な核兵器国による核実験再開の深刻な可能性である。
後退その1: 強まる核兵器への依存
5核兵器国は、「核戦争には勝者はなく、決して戦ってはならない」と表明している。しかし、いくつかの核保有国の戦略ドクトリンには、自国の主権が脅かされたり、非核大量破壊兵器(生物兵器や化学兵器など)が使用されたりした場合、まず核兵器を使用する計画が含まれている。ロシアは核ドクトリンを再検討していると発表した。いわゆる「戦術」核兵器を含め、核兵器の配備や使用が、あまりにも多くの国の政策立案者によって、ますます気軽に議論されるようになっていることは、深く懸念される。このような核ドクトリンの声明は、核戦争の勝ち目のない性質とは一致していない。
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中国を除く核兵器国は、核兵器の「先制不使用」を宣言しておらず、その方針に変化はない
5核兵器国の中で、中国だけが「先制不使用」を宣言している。もし、中国が本当にいくつかの核弾頭を発射装置とともに配備し始めたのであれば、先制不使用の宣言が意味するところは参考にならないかもしれない。核兵器不拡散条約(NPT)非加盟の核保有国の中では、インドが宣言した先制不使用政策の範囲も不明確である。
消極的安全保証の提供に同意する政府もあるが、その適用が制限されているため、その効果は限定的である。さらに、「先制不使用」、「唯一の目的」、「消極的安全保障」に関して、この1年間、核保有国の政策に目立った変化は見られない
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必要な政策対応:
先制不使用と消極的安全保証へのコミットメント
核抑止力と拡大核抑止力への依存を減らす。
NPT非加盟国を含むすべての核保有国は、「先制不使用」と「消極的安全保証」を約束しなければならない。核保有国、そして核保有国と同盟を結んだり、核保有国に依存したりする国は、核抑止力や拡大核抑止力への過度の依存が、実際に核兵器が使用される可能性を高めていることを認識すべきである。
後退その2: 核兵器の増加: 数、種類、配備
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中国、米国、ロシアなどの核戦力の増強 / 非核保有国への配備
ストックホルム国際平和研究所によれば、中国も平時に少数の核弾頭を発射装置とともに配備し始めた可能性がある。米国とロシアは、冷戦時代の核戦力をアップグレードし、他の運搬方法を開発している。また韓国は、北朝鮮が核兵器を大量に保有するようになったことを受けて、核兵器を保有すべきか、あるいは再保有すべきかを積極的に議論し続けている。
米国は、NATOの非核保有国数か国へ非戦略核兵器の配備を継続し、英国には非戦略核兵器の再配備の可能性がある。2024年、ロシアはベラルーシに戦術核兵器を配備した。米国は現在、攻撃型潜水艦や水上艦に配備する新しい核戦術海洋発射巡航ミサイル(SLCM-N)を開発しており、1991年以来初めて太平洋地域に戦術核兵器を再導入することになる。
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新START数値制限放棄の危機 / 核軍拡競争の再燃と核兵器使用の危険性
特に深刻なのは、米ロ間の核軍縮プロセスの停滞である。ロシアは、米国の新戦略兵器削減条約(新START)不履行疑惑を受け、同条約の履行停止を米国に通告し、1996年の署名開始以来、米国が批准していない包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を撤回した。ある米政府高官は、「敵対国の核兵器の軌道に変化がない限り、我々は今後数年のうちに、現在の配備数からの増加が、必要とされるポイントに達するかもしれない」と述べた。
現在のところ、両国は新START条約の数値制限を遵守すると表明している。もし米ロがこれらの制限を放棄すれば、核軍拡競争が再燃し、核兵器が使用される危険性が高まるという深刻なリスクがある。冷戦のさなかにNPTが発効して以来、世界の核情勢は多極化している。このため、より多国間的な核軍備管理協定の枠組みを構築することが急務となっている。
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必要な政策対応
新たな核兵器の生産と配備を中止すること;
新START条約の数値制限を維持し、遵守すること。
新世代の核兵器の生産と配備は直ちに中止しなければならない。最低限、新START条約の数値制限は維持され、遵守されなければならない。軍拡競争は避けられないものではない。中国、ロシア、米国の核兵器、ミサイル格納庫、爆撃機、潜水艦を増やしても、核兵器が1発でも使用されれば、私たちが知っている世界が変わってしまうという事実は変わらない。米ロ間の真剣な軍備管理交渉の再開と、その中国への拡大が極めて重要である。
後退その3: 核実験再開の可能性
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ロシア・アメリカ両国が核実験再開を検討と報道
現在、多くの国が新型核兵器開発のための核実験再開を検討している。2023年に実験を行った国はないが、「ひろしまレポート2024」には、ロシア連邦核センターの科学責任者が、「ロシアは必要であればノヴァヤゼムリャ核実験場での実験を再開する用意がある」と述べた、と記されている。ドナルド・トランプ政権下の元大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、米国が「中国とロシアの核保有量の合計に対して、技術的・数的優位性を維持する」ことを求め、核実験の再開と核分裂性物質の生産を推奨した。
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核実験を再開すれば、核軍拡競争が再燃する危険性がさらに高まる。
NPTの5核兵器国は、同条約の第6条に基づき「核軍備競争の早期停止と核軍縮に関する効果的な措置について、誠実に交渉を行う」ことを約束している。
核保有国のいずれかが核実験を再開すれば、他の国もそれに追随することになり、核軍拡競争が再燃する危険性をさらに高めることになる。将来のアメリカ政権が、爆発的核実験の再開を検討する深刻なリスクがある。こうした核実験の再開は、外交的にも国家安全保障上においても大きな影響を及ぼすであろう。
私たちは、そうした事態を回避するための他国との交渉がないまま、核実験を開始し、新たな核兵器を製造することは、第6条に違反すると考える。
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必要な政策的対応
核実験を阻止しなければならない;
核実験モラトリアムと包括的核実験禁止条約を維持すること。
核保有国のいずれかによる核実験の再開や、その他の国による核実験の実施は、何としても阻止しなければならない。核実験は必要なく、核実験モラトリアムと包括的核実験禁止条約は、すべての国の安全保障上の利益である。
今後の道のり
各国が自国の安全保障を核抑止力や拡大核抑止力に依存し続ける限り、将来的に核兵器が廃絶されることを現実的に予想することはできない。抑止力としての核兵器の実際的な有用性を裏付ける証拠は乏しい一方、故意に、あるいは人為的・システム的ミスの結果として、核兵器が使用される莫大なリスクに関する証拠は豊富にある。そのような兵器が存在し続ける限り、核兵器に基づく抑止が核戦争のリスクをはらんだ戦略であるという事実を無視することはできない。
潜在的な敵国を前にして軍縮を行うという問題ではなく、二国間や多国間の合意に基づく段階的な核兵器の削減は、それ自体が国家間の緊張を緩和する手段であり、不信と恐怖に支配された国際政治から相互信頼に基づく国際政治へと移行する機会であるという認識である。また、抑止戦略には核兵器が必要だと主張するのは不適切である。通常兵器による抑止は可能であり、現在も採用されている。
国際社会の大多数は非核兵器国である。彼らもまた、核兵器の存在と使用の脅威のない世界という願望を共有している。この願望は、2017年7月に国連で採択され、2021年1月に発効した核兵器禁止条約(TPNW)に表れている。核保有国とその同盟国による行動は、TPNWの実現にはほど遠い。
すべての政府が、核兵器廃絶を将来の目標から、測定可能な結果を伴う真剣な継続プロセスへと転換させるため、さらなる努力をすることが極めて重要である。「ひろしまウォッチ」は、公約を守らない政府の責任を追及し、より安全な未来のための具体的な行動を促していく。
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