後継者不在率、初の60%割れ 後継候補「非同族」が初のトップ、事業承継は「脱ファミリー」化が加速
特別企画:全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)
地域の経済や雇用を支える中小企業。しかし、近年は後継者が見つからないことで、事業が黒字でも廃業を選択する企業は多い。日本政策金融公庫の調査では、60歳以上の経営者のうち50%超が将来的な廃業を予定。このうち「後継者難」を理由とする廃業が約3割に迫る。
後継者が不在であるなか、新型コロナウイルスによる業績悪化などが追い打ちとなり事業継続を断念する事例も想定され、その回避策としての事業承継支援が今まで以上に注目されている。中小企業庁は2022年3月、従業員承継や第三者承継(M&A)、「引き継ぎ手」により焦点を当てた「事業承継ガイドライン」を新たに改定、円滑な事業承継に向けたサポートを進めている。
後継者が不在であるなか、新型コロナウイルスによる業績悪化などが追い打ちとなり事業継続を断念する事例も想定され、その回避策としての事業承継支援が今まで以上に注目されている。中小企業庁は2022年3月、従業員承継や第三者承継(M&A)、「引き継ぎ手」により焦点を当てた「事業承継ガイドライン」を新たに改定、円滑な事業承継に向けたサポートを進めている。
<調査結果(要旨)>
2022年の「後継者不在」状況
後継者不在率は初の60%割れ、コロナ前から大幅低下に
2020年の後継者策定動向は、前年に比べて50~60歳の「現役世代」を中心とした動きが目立った。「50代」では前年から4.5p低下した65.7%で、2年ぶりに70%を下回った。「60代」でも、前年から4.8pt低下した42.6%にとどまり、前年からの低下幅は全年代で最大となるほか、全国・全業種で最も後継者不在率が高かった2017年からの低下幅(10.5pt)も全年代で大きかった。また、「30代未満」を除き、全年代で後継者不在率は過去最低だった。2022年に後継者「あり」の企業約11.5万社のうち、昨年から新たに後継候補を選定した・あるいは計画を立てた「新規計画」(後継者「不在」→「あり」へ変更)企業は全体の3.7%に上った。
一方、昨年まで後継者がいたにも関わらず、2022年に後継者不在となった「計画中止・取りやめ」が全体の0.6%(約1600社)発生、前年から拡大した。コロナ禍で経営環境が変化したなかで、「業績改善が見込めず事業承継を中断した」といったケースも聞かれ、コロナ禍の事業承継は二極化の様相を呈している。
他方、後継者不在率が最も高いのは島根県で、全国平均を大幅に上回る75.1%となり、前年から上昇した。2番目に高い鳥取県(71.5%)の山陰2県が70%を超える地域となった。また、北海道は調査開始後初の70%を下回ったほか、2011-20年の調査まで一貫して全国で不在率がトップだった沖縄県も後継者不在率の低下が続き、全国5番目の水準となった。
前年から不在率が低下した都道府県は41にのぼるほか、不在率60%を下回る都道府県は過去最多の30となるなど、全国的に低下傾向となっている。ただ、後継者不在率が総じて低かった地域では、近年不在率が上昇傾向となっている。一方で、徳島県や島根県、石川県など、不在率が前年から上昇した地域もみられ、後継者問題の改善状況には地域ごとに濃淡がみられる。
業種:全業種で不在率低下、製造業は全7業種で唯一の50%割れ
2022年の事業承継動向
就任経緯:同族承継が急落 M&A(買収)などによる事業承継が初の2割突破
後継者候補属性:「非同族」の割合が初の首位、事業承継で「脱ファミリー」化加速
内部昇格や外部招聘によって社長に就任した企業では、「非同族」の割合が8割超と高く、特に外部招聘では非同族の割合が9割を占めた。
高まる事業承継ニーズ 今後は承継後の経営サポートにも目を向ける必要
日本の企業経営者の平均年齢は60歳を超え、多くが事業承継の適齢期を迎えている。
この間、コロナ前から官民一体となって推し進めてきた事業承継の重要性が中小企業にも浸透・波及してきたことに加え、M&Aの普及や事業承継税制の改良・拡大、金融機関主導の事業承継ファンドなど、多種多様なニーズに対応可能なメニューが揃っていることも、後継者問題の解消に多大な役割を果たしている。今後も、国や自治体による事業承継への働きかけが継続されれば、企業の後継者問題に対する意識が一層高まる形で、不在率は引き続き低下していくものとみられる。
一方、帝国データバンクが集計している「後継者難倒産」は2022年1~10月で408件発生した。10カ月累計で400件を超えたのは初めてで、通年で過去最多を更新するとみられる。近時の後継者難倒産では、代表者が病気や死亡により事業継続がままならないケースが多いなかで、コロナ禍における自社事業の先行きを見据えて、当代で事業を畳む決断を下す「あきらめ」や、後継者の経営手腕・資質を当代社長が認めない、先代からの従業員や取引先との意思疎通が円滑に引き継がれないといった理由で、承継後早期に経営が行き詰まった企業も散見された。
「後継者問題への啓蒙」による、経営者の後継者問題に対する意識改革は確実に成果を上げている。その反面、現状の事業承継は自社内の人材登用か第三者への事業譲渡=M&Aへの偏りもみられる。そのため、今後の事業承継支援は外部人材の登用といった幅広い選択肢の訴求や使いやすさの向上に加え、後継者候補のリサーチや育成、経営幹部人材の紹介・マッチングなど、それぞれの承継ステージや課題感に合った支援メニューの拡充により注力していく必要がある。
- 2022年の全国・全業種約27万社の後継者不在率は57.2%となり、コロナ前の2019年からは8.0pt、21年の不在率61.5%からも4.3pt低下し、5年連続で不在率が低下した。また、調査を開始した11年以降、後継者不在率は初めて60%を下回った
- 2022年の代表者の就任経緯では、買収や出向を中心にした「M&Aほか」の割合が20.3%と、調査開始以降で初めて2割を超えた。具体的な後継候補では、最も高いのは「非同族」の36.1%で、前年を2.9pt上回った。2011年の調査以降、後継者候補は「子供」の割合が最も高い状態が続いてきたものの、初めて「非同族」が首位となった
2022年の「後継者不在」状況
後継者不在率は初の60%割れ、コロナ前から大幅低下に
後継者不在率推移(全国・全業種)
2020年の後継者策定動向は、前年に比べて50~60歳の「現役世代」を中心とした動きが目立った。「50代」では前年から4.5p低下した65.7%で、2年ぶりに70%を下回った。「60代」でも、前年から4.8pt低下した42.6%にとどまり、前年からの低下幅は全年代で最大となるほか、全国・全業種で最も後継者不在率が高かった2017年からの低下幅(10.5pt)も全年代で大きかった。また、「30代未満」を除き、全年代で後継者不在率は過去最低だった。2022年に後継者「あり」の企業約11.5万社のうち、昨年から新たに後継候補を選定した・あるいは計画を立てた「新規計画」(後継者「不在」→「あり」へ変更)企業は全体の3.7%に上った。
後継者「不在」「あり」の内訳
一方、昨年まで後継者がいたにも関わらず、2022年に後継者不在となった「計画中止・取りやめ」が全体の0.6%(約1600社)発生、前年から拡大した。コロナ禍で経営環境が変化したなかで、「業績改善が見込めず事業承継を中断した」といったケースも聞かれ、コロナ禍の事業承継は二極化の様相を呈している。
年代別 後継者不在率推移 内訳
都道府県 後継者不在率 上位・下位10(2022年)
他方、後継者不在率が最も高いのは島根県で、全国平均を大幅に上回る75.1%となり、前年から上昇した。2番目に高い鳥取県(71.5%)の山陰2県が70%を超える地域となった。また、北海道は調査開始後初の70%を下回ったほか、2011-20年の調査まで一貫して全国で不在率がトップだった沖縄県も後継者不在率の低下が続き、全国5番目の水準となった。
前年から不在率が低下した都道府県は41にのぼるほか、不在率60%を下回る都道府県は過去最多の30となるなど、全国的に低下傾向となっている。ただ、後継者不在率が総じて低かった地域では、近年不在率が上昇傾向となっている。一方で、徳島県や島根県、石川県など、不在率が前年から上昇した地域もみられ、後継者問題の改善状況には地域ごとに濃淡がみられる。
業種:全業種で不在率低下、製造業は全7業種で唯一の50%割れ
業種別 後継者不在率推移 内訳
2022年の事業承継動向
就任経緯:同族承継が急落 M&A(買収)などによる事業承継が初の2割突破
就任経緯別 推移
後継者候補属性:「非同族」の割合が初の首位、事業承継で「脱ファミリー」化加速
就任経緯別 後継者候補属性
内部昇格や外部招聘によって社長に就任した企業では、「非同族」の割合が8割超と高く、特に外部招聘では非同族の割合が9割を占めた。
高まる事業承継ニーズ 今後は承継後の経営サポートにも目を向ける必要
日本の企業経営者の平均年齢は60歳を超え、多くが事業承継の適齢期を迎えている。
この間、コロナ前から官民一体となって推し進めてきた事業承継の重要性が中小企業にも浸透・波及してきたことに加え、M&Aの普及や事業承継税制の改良・拡大、金融機関主導の事業承継ファンドなど、多種多様なニーズに対応可能なメニューが揃っていることも、後継者問題の解消に多大な役割を果たしている。今後も、国や自治体による事業承継への働きかけが継続されれば、企業の後継者問題に対する意識が一層高まる形で、不在率は引き続き低下していくものとみられる。
一方、帝国データバンクが集計している「後継者難倒産」は2022年1~10月で408件発生した。10カ月累計で400件を超えたのは初めてで、通年で過去最多を更新するとみられる。近時の後継者難倒産では、代表者が病気や死亡により事業継続がままならないケースが多いなかで、コロナ禍における自社事業の先行きを見据えて、当代で事業を畳む決断を下す「あきらめ」や、後継者の経営手腕・資質を当代社長が認めない、先代からの従業員や取引先との意思疎通が円滑に引き継がれないといった理由で、承継後早期に経営が行き詰まった企業も散見された。
「後継者問題への啓蒙」による、経営者の後継者問題に対する意識改革は確実に成果を上げている。その反面、現状の事業承継は自社内の人材登用か第三者への事業譲渡=M&Aへの偏りもみられる。そのため、今後の事業承継支援は外部人材の登用といった幅広い選択肢の訴求や使いやすさの向上に加え、後継者候補のリサーチや育成、経営幹部人材の紹介・マッチングなど、それぞれの承継ステージや課題感に合った支援メニューの拡充により注力していく必要がある。
(参考)「後継者難倒産」推移
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