水がんがWHOの「顧みられない熱帯病」リスト掲載に向け一歩前進
細菌によって顔の組織が破壊される病気、「水がん(すいがん)」。知名度の低さに反して命に関わるこの病気が、世界保健機関(WHO)の顧みられない熱帯病リスト掲載に一歩近づいた。国境なき医師団(MSF)の協力を得たナイジェリア政府が、この病気を同リストに追加するよう要請。リストに追加されることで、国際社会の注目が集まり、予防や治療に必要な資金や人員が配分されることが期待されている。
- 最大90%が短期間で死亡する感染症
水がんは、口の中の粘膜が病原菌によって破壊され、顔の表面にまで達して命を落とすこともある壊疽(えそ)性の口内炎。貧困層、特に幼い子どもたちが感染しやすく、栄養失調や不衛生な生活環境に関係している。大半の場合、医療や予防接種へのアクセスが限られている孤立した地域の人びとが罹患する。
症状は歯ぐきの炎症に始まり、急速に広まって顔の組織や骨を破壊する。予防と治療は可能だが、治療せずに放置すると発病した人の最大90%は短期間で死亡する。生き延びても顔の形が大きく変わってしまうため、食事、会話、目視、呼吸も難しくなる。生存者は、外見の醜さゆえに差別に直面することも少なくない。
MSFナイジェリアで医療アドバイザーを務めるマーク・シャーロックは「これほど多くの人を短期間で死に至らしめる感染症は他にありません。水がんに関する知識や発見方法が限られているため、人びとは命を落とすのです。感染者を早期に発見し、生存者を特定するために、さらなる努力が必要です」と話す。
- 国際的な対応が必要
3年にわたる国際社会に向けた啓発と渉外活動を経て、ナイジェリア保健省は2023年1月、首都アブジャ、コンゴ共和国の首都ブラザビル、スイスのジュネーブにあるWHO事務所で水がんに関する関係書類一式を共有。MSFはナイジェリア政府の書類作成と、WHOの5地域30カ国からの賛同とりつけを支援してきた。WHOリストへの水がん掲載要請は、2021年に第74回 世界保健総会で採択された口腔保健に関する決議で、「2023年にリストが見直されたらすぐに水がんを顧みられない熱帯病リストに含めるよう検討すること」と推奨されたことに沿うものだ。
WHOの顧みられない熱帯病に関する戦略・技術諮問グループ(STAG-NTDs)は、「顧みられない熱帯病」を、貧困層に健康被害が集中していることや、偏見や差別を含む重大な疾病率や死亡率の原因となり、国際的な対応を必要とする疾患と定義している。顧みられない熱帯病対策部が採択した5つの公衆衛生戦略のうち1つ以上を適用することで、広範な抑制、排除や根絶はすぐにも可能であり、比較的研究が進んでいない分野だと定義している。 WHOは、2023年に開催される年2回の会議で、水がんを顧みられない熱帯病リストに追加するかどうか最終決定する予定だ。
- 早期発見が生存の鍵
シャーロックは、「水がんをリストに追加することで、この最も顧みられない病気に世間の注目が集まり、予防や治療活動が既存の公衆衛生プログラムに組み込まれ、必要な資金や人員を割り当てられる効果が期待できます。私たちは、命を救える可能性を高めるため、流行国において、子どもたちに水がんの初期症状が現れた時点で検診を受けられるようにしたいのです。水がんはもはや存在してはならない病気なのですから」と述べる。
MSFは2014年からナイジェリア保健省が管轄するソコト水がん病院を支援し、再建外科手術、栄養面や心のケアでの支援、アウトリーチ活動(※)などを展開。2014年以降、外科チームは717人の患者に対して1066件の手術を行った。ソコト水がん病院の診療は全て無償で提供されている。 ※医療援助を必要としている人びとを見つけ出し、診察や治療を行う活動。 |
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