国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)「2023年度 大学発新産業創出基金事業プロジェクト推進型 起業実証支援」の採択決定について
「大学発新産業創出基金事業プロジェクト推進型 起業実証支援」採択の概要
プロジェクト名:革新的細胞運命変換技術による人工膵島の開発と1型糖尿病根治治療法の実用化
研 究 代 表 者 :順天堂大学大学院医学研究科 難病の診断と治療研究センター 特任教授 松本 征仁
■本プロジェクトのポイント
再現性の高いダイレクトリプログラミング技術の開発(次世代型の細胞運命変換療法)
超高効率で安全性が高く、体細胞から機能的インスリン産生細胞を作出
全ての1型糖尿病患者に対する新規治療法を実現するスタートアップ設立を目指す
■背景
1型糖尿病は、血糖コントロールに必須となるインスリンをつくる膵β細胞が破壊される難病で、国内に10万人以上の患者がいるとされています。発症後、急速な高血糖の症状は、網膜症による失明、透析が必要となる腎不全、自律・感覚神経の障害による足の壊疽(えそ)、心筋梗塞などの重篤な合併症を引き起こします。このため、患者は毎日インスリンを注射で補充しなければなりませんが、過剰に摂取すると低血糖が起こり昏睡に陥り、死に至るケースもあります。膵島移植(*1)は、ドナーの確保が難しい上、免疫拒絶を防ぐために大量の免疫抑制剤が必要になるため移植は成人しか適応されず、将来を担う小児糖尿病患者のみならず成人患者・家族はインスリン注射や膵島移植に頼らない新たな治療法の開発を強く望んでいます。
本プロジェクトでは、本学が開発した細胞運命の変換技術を用いて、難病の診断と治療研究センター(*2)において患者由来の体細胞から膵β細胞を創り出し安全に全ての患者に新たな治療法を届けられる体制の構築を目指します。
■内容と今後の展開
細胞の運命を変換するダイレクトリプログラミング技術(*3)は、多能性幹細胞を介さずに体細胞から目的とする細胞への誘導を可能にします。試験管内および生体内でダイレクトリプログラミングを可能にする技術は、次世代型の再生医療技術として注目を集めています。細胞運命の変換技術はこれまでの治療とは異なり、不要な細胞を除去する、もしくは必要な細胞を補充するだけでなく、不要な細胞を必要な細胞に変換することが可能になるため、これまで治療や治癒ができないと考えられてきた難治性疾患に対しても高い有効性を示すことが期待されています。さらに他家移植のみならず、患者由来の体細胞を目的とする膵β細胞へ分化転換させることが可能となるため、より安全で多くの患者を救済し得る革新的な技術として大きな期待が寄せられています。
本学では、この細胞運命の変換技術を用いて超高効率に膵β細胞を創り出し、ヒト体細胞を用いた有効性と品質の開発・検証を実施します。難治性疾患診断治療学/難病の診断と治療研究センター 松本征仁 特任教授らが見出したK因子は体細胞Aから体細胞Bへと垣根を越えて細胞の運命を超高効率に変換させることが明らかとなっています(図1)。将来、臨床試験には多くの労力と費用が必要となるため、本製品の開発が順調に進んだ暁には、多くの1型糖尿病患者に届けられる細胞運命変換技術を基軸とするベストインクラス(当該分野の最適)の革新的な創薬、そしてスタートアップ設立によるグローバルな展開に挑戦し、再生医療分野のゲームチェンジャーとして患者に新たな治療選択肢を提供することを目指していきます。
■用語解説
*1 膵島移植: 膵島は直径が約0.2mmの球状の細胞の塊で、膵臓の中に成人1人あたり約100万個の膵島があります。膵島の約70%を占めるβ細胞からインスリンを分泌し、血糖を低下させる働きがあります。ドナーから単離した膵島を移植を必要とする糖尿病患者の肝臓の血管(門脈)から点滴で移植することを示します。
*2 難病の診断と治療研究センター:難病性疾患病因の解明ならびに治療法開発の重要性に鑑み、難治性疾患の制圧に向け次世代の医学・医療に貢献する人材の教育・研究・診療のための基盤を整備し、基礎ならびに臨床研究の推進を安定的に図る目的で、平成28年4月1日に設立されました。初代センター長は新井一(現学長)が務め、平成29年5月より岡﨑康司教授が2代目のセンター長として着任しました。
*3 ダイレクトリプログラミング:iPS細胞やES細胞などの幹細胞を介することなく目的の細胞へ分化誘導する。本技術ではK因子により体細胞Aから体細胞Bへの垣根を越えて細胞の運命が変換される。
〈参考〉
<科学技術振興機構(JST) HP 大学発新産業創出基金事業プロジェクト推進型 起業実証支援>
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