2つの分子を使ったランダムコポリマーの開発とコポリマー中の分子の分離手法の確立に成功
-新しい材料設計や効率的な原料回収に期待-
千葉大学国際高等研究基幹の矢貝史樹教授の研究チームは、全く異なる構造のポリマー(注1)を形成する2つのモノマー分子(注2)をランダムに混ぜ合わせることで、2つの構造の特徴が調和された構造を持つポリマーを作ることに成功しました。さらに、光反応(注3)を利用して、出来上がったポリマーから元の2つのモノマー分子を分離するという全く新しい手法を確立しました。この成果は、多機能な新素材の開発及びポリマー材料の原料の分離法における新たな指針となることが期待されます。本成果は、「Journal of the American Chemical Society」にて2022年7月14日に公開されました。
- 研究の背景
- 研究成果
研究チームは、リング状の超分子ポリマーを作るモノマー分子と、棒状の超分子ポリマーを作るモノマー分子を混ぜて冷やす方法で、2つの構造の特徴が調和された渦状構造のランダム超分子コポリマーを形成させることに成功しました。
研究チームはこれまで、溶液中で水素結合によって風車状ユニットを形成し、このユニットがカーブを描きながら弱い力で積層(超分子重合)することで、リング状の超分子ポリマーを形成する分子Aを見出していました(参考図2左)。今回、この分子Aに、光で結合が強化される部位を導入した分子Bを作ったところ、予想に反して分子Bはリングを作らず、棒状に伸びた超分子ポリマーを形成しました(参考図2右)。そこで研究チームは、2つの分子を混合することで、分子AとBからなる風車状ユニットが形成され、その結果2つの分子の特徴を併せ持った超分子コポリマーを作ることができるのではないかとの仮説のもと、実験を行いました。
分子AとBを溶液中で混ぜて、分子がバラバラに存在する高温の状態からゆっくりと冷やしたところ、高温域で棒状のポリマーが先に作られ、温度が低くなるにつれて徐々にそれが曲がっていく様子が原子間力顕微鏡(注4)を用いて観察されました(参考図3上段左と中央)。さらに室温まで冷却することで、曲がりながら伸びた渦状構造の超分子コポリマーが得られました(参考図3上段右)。様々な分析結果から、初めにできた棒状のポリマー(参考図3上段左)は、分子Bの風車で構成され、そこに徐々に分子Aが入り込むことで曲がる性質が生まれていくことがわかりました。
さらに研究チームは、別の実験で分子Bからなる棒状のポリマーに光を照射すると、分子Bの一部が光反応することで、元よりも頑丈なポリマーが得られることを発見しました。この性質を利用し、渦状超分子コポリマーに光を照射し、加熱して再度冷やすという簡単な操作で、リング状と棒状のポリマーへと分離させることに成功しました(参考図3の赤線以降)。これは、再冷却過程でできる棒状のポリマーは”光反応した分子B”を含んでいるためにより頑丈になっており、分子Aはその中に入り込むことができないためです。その結果、分子Aは自分だけで集まり、リング状のポリマーを形成するということが明らかになりました。
- 今後の展望
- 用語解説
(注2)モノマー:単量体とも呼ばれ、ポリマーを構成する最小単位のこと。
(注3)光反応:光により引き起こされるさまざまな化学反応のこと。
(注4)原子間力顕微鏡:極めて小さい針(探針)と試料の表面に働く弱い引力を検出して画像を得る顕微鏡。ナノメートル(10のマイナス9乗m)スケールのものを見ることができる。
- 研究プロジェクトについて
・科学研究費助成事業(22H00331)
・公益財団法人 三菱財団
・国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST) 次世代研究者挑戦的研究プログラム JPMJSP2109
・大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 フォトンファクトリー共同利用実験課題 Proposal No. 2020G567
- 論文情報
・著者:髙橋渉*1, 矢貝史樹*2,3
*1 千葉大学大学院融合理工学府先進理化学専攻
*2 千葉大学大学院工学研究院
*3 千葉大学国際高等研究基幹
・掲載誌:Journal of the American Chemical Society
・DOI:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.2c05484
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