コンドロイチン※1が目の表面を守る新たな仕組みを発見
―ドライアイ(目の乾き)で乱れた目の「保護層」の回復をサポートする可能性 ―
ロート製薬株式会社(本社:大阪市、社長:瀬木英俊)と北海道大学大学院先端生命科学研究院(比能 洋教授)は、点眼剤に使用されているコンドロイチン※1(以下、CS)の新たな働きについて共同研究を行いました。
目の表面には、膜型ムチン16(以下、MUC16)とガレクチン-3(以下、Gal-3)などの相互作用によって維持される「グリコカリックスバリア」と呼ばれる保護層が存在し、目の表面の保護や涙液の安定性維持に重要な役割を担っています。一方、ドライアイ(目の乾き)では、このバリアの働きが損なわれることが報告されており、涙液の不安定化やまばたきによる摩擦の増加などを通じて、目のゴロゴロ感や痛みなどの不調につながると考えられています。
今回、MUC16に由来するペプチド類を用いた実験により、CSがGal-3を介してMUC16由来ペプチド類と結合することを確認しました。
本研究により、CSが従来知られている保水・潤滑作用にとどまらず、目の表面を守るグリコカリックスバリアの維持に関与する新たな可能性が示唆されました(図1)。
本研究成果は、2026年9月5日に開催された「Asia Dry Eye Summit 2026」において発表されました。
※1:コンドロイチン硫酸エステルナトリウム

1.研究成果のポイント
・CSがGal-3を介してMUC16由来ペプチド類と結合することを確認
・CSで確認されたGal-3を介した結合は、ヒアルロン酸ナトリウム(以下、HA)では認められず
・CSがグリコカリックスバリアの維持に関与する新たな可能性を示唆し、涙液の安定性維持への貢献に期待
2.研究の背景
目の表面のグリコカリックスバリアを構成するMUC16は、多数の糖鎖を持つタンパク質です。Gal-3は、MUC16などの膜型ムチンの糖鎖と結合し、分子間のネットワークを形成することで、バリア機能の維持に重要な役割を担っていると考えられています。ドライアイ(目の乾き)では、MUC16などの膜型ムチンの量や糖鎖の状態が変化するほか、涙液中のGal-3が増加することが報告されています。これは、膜型ムチンとGal-3の結合が弱まり、Gal-3が目の表面から離れやすくなることが一因と考えられており、こうした相互作用の乱れがグリコカリックスバリアの機能低下に関わる可能性が指摘されています。一方、CSは保水・潤滑作用を持つ成分として点眼剤に使用されており、Gal-3と結合することも報告されています。しかし、CSがGal-3を介してMUC16とどのように相互作用するかについては、十分に明らかになっていませんでした。
そこで今回、CSがGal-3を介してMUC16と結合する可能性に着目し、グリコカリックスバリアとの関わりを明らかにするため、3者の相互作用を検証しました。さらに、CSと同じ高分子多糖の一種であり、ドライアイ(目の乾き)治療の点眼剤に広く使用されているHAについても、Gal-3を介したMUC16との結合が認められるかを検討しました。
3.研究結果
1.CSがGal-3を介してMUC16由来ペプチド類と結合することを確認
CSがGal-3を介してMUC16と結合する事を検証するため、マイクロアレイに固定化したMUC16由来ペプチド類にGal-3と、中分子量CS(約25 kDa、1%)または高分子量CS(約50 kDa、1%)を反応させました。その後、MUC16由来ペプチド類上に保持されたCSを抗CS抗体により検出しました。
その結果、CSの添加により結合シグナルが増加し、CSがGal-3を介してMUC16由来ペプチド類と結合することが確認されました(図2)。
この結果から、CSがGal-3を介してMUC16との分子間相互作用に関与する可能性が示され、目の表面のグリコカリックスバリアとの新たな関わりが示唆されました。

2.CSで確認されたGal-3を介したMUC16由来ペプチド類との結合は、HAでは認められず
次に、CSで確認されたGal-3を介した結合が、同じ高分子多糖の一種であるHAでも認められるかを検証しました。
低分子量HA(約50 kDa、1%)および高分子量HA(約1,000 kDa、0.1%)を用いて、Gal-3を介したMUC16由来ペプチド類との結合を評価しました。その結果、いずれのHAにおいても、HA非添加条件と比較して明確な結合シグナルの増加は認められませんでした(図3)。

<試験方法(研究結果1・2共通)>
MUC16のタンデムリピート領域は、類似したアミノ酸配列が規則的に繰り返され、糖鎖が豊富に存在する特徴があります。そこで、この領域に由来する糖鎖を持つペプチドと糖鎖を持たないペプチド(MUC16由来ペプチド類)を合成し、マイクロアレイスライド上に固定化しました。
固定化したMUC16由来ペプチド類にGal-3とCSまたはHAを反応させ、ペプチド類上に保持されたCSまたはHAを、それぞれ抗CS抗体または抗HA抗体を用いて検出しました。得られた蛍光強度を指標として、Gal-3存在下における分子間の結合を評価しました。
(北海道大学・ロート製薬株式会社 共同実施)
4.考察
今回の研究では、CSがGal-3を介してMUC16由来ペプチド類と結合するという、新たな分子間相互作用が確認されました。これまで、MUC16とGal-3の相互作用がグリコカリックスバリアの維持に重要であることや、CSがGal-3と結合することは報告されていました。今回の結果は、これらの知見を発展させ、CSがGal-3を介してMUC16との分子間ネットワークに関わる可能性を示すものです。
このことから、CSは従来の保水・潤滑作用に加え、Gal-3を介したMUC16との相互作用を通じて、グリコカリックスバリアの維持にも寄与する可能性が考えられます。
また、CSと同じ高分子多糖の一種であるHAでは、今回確認されたGal-3を介した結合は認められませんでした。この違いには、CSとHAの糖鎖構造や硫酸基の有無などが関係している可能性も考えられますが、詳細なメカニズムについては今後の検証が必要です。
今回の研究成果は、CSが眼表面の保護層と相互作用する可能性を示す新たな知見であり、CSが目の表面で果たす役割を理解する上で重要な手がかりになると考えられます。
5.今後の展望
今後は、CS、Gal-3、MUC16が結合する詳細な分子メカニズムや、その結合に影響を与える因子について、さらに研究を進めてまいります。また、将来的には、こうした分子間相互作用と、実際の眼表面におけるグリコカリックスバリアの維持や涙液の安定性との関わりについても、理解を深めていきたいと考えています。
ロート製薬は今後も、ロートグループ経営総合ビジョン「Connect for Well-being & Longevity」の実現に向け、CSが目の表面で果たす役割について研究を継続し、その働きへの理解を深めることで、健やかな目を支える新たな価値の創出と、アイケア領域における技術・製品の研究開発につなげてまいります。
用語説明
① コンドロイチン硫酸エステルナトリウム(CS) ― 体内の軟骨や皮膚、眼などに存在するコンドロイチン硫酸のナトリウム塩で、糖鎖の一種です。水分を保持する性質があり、点眼剤などにも広く使用されています。
② グリコカリックスバリア ― 細胞の表面を覆う、糖鎖を豊富に含む保護層です。眼表面では、MUC16などの膜型ムチンやGal-3などから構成され、眼の表面を外部の刺激から守るとともに、涙液の安定性維持にも関わっています。
③ ムチン ― 多くの糖鎖を持つタンパク質です。涙液中や目の細胞の表面に存在し、目の表面を潤し、保護する役割を担っています。
④ 膜型ムチン16(MUC16) ― 角膜や結膜の細胞表面に存在する代表的な膜型ムチンの一つです。グリコカリックスバリアを構成し、目の表面を保護したり、涙液を安定に保ったりする上で重要な役割を担っています。
⑤ ガレクチン-3(Gal-3) ― 特定の糖鎖を認識して結合するタンパク質です。複数の分子をつなぐ働きを持ち、眼表面ではMUC16などの膜型ムチンと相互作用することで、グリコカリックスバリアの維持に関わっています。
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