メタンの半球輸送におけるアジアモンスーンの役割を解明

〜温室効果ガスの収支評価の高精度化につながる知見〜

国立大学法人千葉大学

温室効果ガスや大気汚染物質などの主な発生源がある北半球から南半球への物質の半球輸送の経路の解明は、これらの物質の全球分布を明らかにする上で重要です。国立大学法人千葉大学(千葉市)と海洋研究開発機構(JAMSTEC・横浜市)で構成される研究グループ(統括:Dmitry Belikov千葉大学特任研究員)は、日本の衛星GOSAT(注1)のメタンの観測データと大気化学輸送モデルのメタンのシミュレーションデータを利用して、物質の半球輸送を季節別に詳細に解析しました。
本研究の結果、半球輸送は350-150 hPaの上部対流圏で最も活発であること、熱帯南アメリカ、熱帯アフリカ、東南アジアでは北半球から南半球への半球輸送が一年を通して活発である一方、熱帯インド洋では南アジアの夏モンスーンにより半球輸送に大きな季節性があること、ならびに夏モンスーンにより、チベット高原~インド上空の上部対流圏に輸送された高濃度メタンの空気塊が熱帯アフリカ東部を通って南半球に輸送されていることがわかりました。本研究により、温室効果ガスの収支(発生源・発生量および消失源・消失量)の評価の高精度化が期待できます。
本研究の成果は2022年7月27日にJournal of Geophysical Research: Atmospheresよりオンライン出版されました。
  • 研究背景
メタンは、大気中の寿命が全球平均で9年程度であり、発生源の多くが熱帯および北半球の陸域にあります。地表から放出された物質の半球輸送のタイムスケールは約1.4年と見積もられており、メタンは半球輸送の解析に利用するのに適した物質です。また、メタンは重要な温室効果ガスであるため、発生源から放出されたメタンが大気中をどのように輸送されていくのかを明らかにすることは、メタンによる温室効果の寄与を計算する上でも重要です。
熱帯での物質の輸送経路や半球輸送における夏モンスーンの役割はこれまで十分に解明されていませんでしたが、日本の衛星GOSATに搭載されたセンサTANSO-FTSの熱赤外バンドで観測されたメタンの鉛直濃度分布データと、大気化学輸送モデルMIROC4-ACTM(注2)のメタンのシミュレーションデータを利用して、物質の半球輸送の経路に関する解析研究を行いました。

  • 概要
物質の半球輸送は主にハドレー循環(注4)と季節によって位置が遷移する熱帯収束帯(ITCZ)によって支配されています。上部対流圏では、GOSATとMIROC4-ACTMのメタンの濃度分布が互いによい一致を示しており、上部対流圏のメタンの高濃度域は、1-3月は熱帯の南半球側にありますが、7-9月にはITCZが北方に遷移するに伴って北西側に移動しています。また、7-9月の特徴として、チベット高原~インド上空にインド-ガンジス平原で放出され上空に輸送されたメタンの高濃度域があり、夏モンスーン性高気圧の南端の東風によって高濃度メタンが大西洋および南半球に輸送されています。一方、インド洋や太平洋では夏モンスーンによってメタンの輸送が阻害されていることがわかりました(図1)。

 

 さらに、半球輸送が活発な領域を調べるために、上部対流圏の低緯度(10ºS-10ºN)においてメタンの移流傾向を計算したところ、以下のことが明らかとなりました。

(1)  熱帯南アメリカ(図2:青紫)、熱帯アフリカ(図2:緑と黄)、東南アジア(図2:赤紫)において年間を通して最も活発に半球輸送が起こっている。

(2)  これらの領域では移流傾向がどの季節も負(北半球から南半球へ輸送される)になっており、北半球で放出された物質が南半球へ輸送され、効率的に全球に「分配」される。一方、熱帯インド洋(図2:オレンジ)では夏モンスーンの影響で半球輸送に大きな季節性があること、熱帯アフリカも東西(緑と黄)で夏モンスーンの影響が異なっている。

(3)  北半球の夏季はITCZの位置が北方に遷移しているため多くの領域で移流傾向が正(南半球から北半球への輸送)となっているが、熱帯アフリカ東部(図2:黄)では8月から9月にかけて南半球への輸送が強化される。

  • 研究助成
本研究は、環境再生保全機構・環境研究総合推進費(JPMEERF20182002、JPMEERF21S20800)、宇宙航空研究開発機構委託研究費(JX-PSPC-545977)の支援を受けて実施されました。
  • 発表論文
【タイトル】
An analysis of interhemispheric transport pathways based on three-dimensional methane data by GOSAT observations and model simulations
GOSAT観測とモデルシミュレーションの3次元メタン濃度データにもとづく半球輸送経路の解析
【DOI】https://doi.org/10.1029/2021JD035688
【著者】D. Belikov1, N. Saitoh1, and P. K. Patra1,2
1. 環境リモートセンシング研究センター, 千葉大学, 千葉, 263-8522, Japan
2. 海洋研究開発機構 (JAMSTEC), 横浜, 236-0001, Japan
  • 補足情報
(注1)GOSAT(温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」):宇宙航空研究開発機構が2009年1月に打ち上げた温室効果ガス観測に特化した衛星であり、フーリエ変換分光型の温室効果ガス観測センサ(TANSO-FTS)が搭載されている。

(注2)MIROC4-ACTM:大気海洋結合モデル(MIROC4)をベースとした大気化学輸送モデル。気象場(水平風、気温)は気象庁JRA-55データを用い、メタンの地表放出量と吸収量、大気中での化学反応(水酸化ラジカルOH、励起酸素原子O(1D)、塩素ラジカルCl)を与えて大気中のメタン濃度を計算する。

(注3)アベレージングカーネル:衛星等のリモートセンシングによる観測の高度ごとの感度を表す、観測の高度分解能の指標となる値。

(注4)ハドレー循環:地球規模の大気大循環の一つであり、赤道付近で上昇し、南北30º付近で下降する循環。

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会社概要

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https://www.chiba-u.ac.jp/
業種
教育・学習支援業
本社所在地
千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33  
電話番号
043-251-1111
代表者名
横手 幸太郎
上場
未上場
資本金
-
設立
2004年04月