ガザ:ラファの医療体制崩壊で「避けられたはずの死」の脅威が迫る

国境なき医師団

パレスチナ・ガザ地区で戦闘が激化して半年余り。人びとの健康被害は、イスラエル軍の砲撃や空爆によるものにとどまらない。医療体制が壊滅的な被害を受けたことから、栄養失調児や妊産婦、持病の悪化や心の病気を抱えた人が行き場を失っている。国境なき医師団(MSF)は、『ガザの静かなる殺害:医療システムの破壊とラファで生き残るための闘い』と題した報告書(英語版)を発表し、医療へのアクセスが不足する中で、多くの人びとが避けられたはずの死の脅威にさらされていると訴える。

報告書(英語版):https://www.msf.org/gazas-silent-killings-destruction-healthcare-system-rafah

エミラティ産科病院で双子を出産した母親=2024年3月23日 © Annie Thibault/MSFエミラティ産科病院で双子を出産した母親=2024年3月23日 © Annie Thibault/MSF


  • 心身をむしばむラファの生活環境

「床で患者の処置をせざるを得ないほど追い込まれた病院で、多くの子どもが肺炎で命を落としました。何人もの赤ちゃんも予防可能な病気で亡くなりました。糖尿病を抱えた患者、病院が攻撃を受け人工透析が続けられない患者はいったいどうすればいいのでしょう。これは報道されないガザの“静かなる殺害”です」と、MSFの緊急対応責任者、マリカルメン・ビニョレスは問いかける。


崩壊した医療体制と非人道的な生活環境が、病気の流行や栄養失調、長期に及ぶ心の傷のリスクを高めている――ラファで活動するMSFチームは、医療データと患者の証言をもとにそう指摘する。ラファでは複数の病院が外傷患者の対応だけでパンク状態にあり、合併症を持つ妊婦や慢性疾患の患者にまで治療が追いついていない。またガザ北部から強制避難させられた100万人以上が暮らすこの小さな地域の生活環境は、人間の生存に適していないと明らかにしている。飲料水や入浴用の清潔な水は絶望的に不足し、通りはゴミや汚水に囲まれているという。ラファへのさらなる軍事侵攻は、計り知れない大惨事につながると、即時かつ持続的な停戦を改めて呼びかけている。


  • 外傷以外の治療に手が回らない

MSFは、運営するラファのアル・シャボウラとマワシ地区の2カ所の診療所だけでも、毎週平均5000件の診療を行っている。その多くは劣悪な生活環境に起因したもので、かぜ症状などが全体の診療件数の4割余りを占めるが、A型肝炎の疑い例の増加も確認している。2023年10月から12月、5歳未満児の下痢性疾患の症例は、前年同期比で25倍となった。さらにMSFが2024年1月から3月までに治療した、中度または重度の急性栄養失調の5歳未満児は216人に上った。


ガザには推定5万人の妊婦がいるとされ、1日平均180人が出産する。MSFはラファで唯一機能するエミラティ産科病院を支援し、1日100件近い分娩に必死に対応している。同病院の患者の中には、避難中に陣痛が来たが出産できる医療施設がみつからず、避難先近くのトイレで出産したが、赤ちゃんは亡くなってしまったという母親もいた。


他のMSF診療所では、高血圧、糖尿病、喘息、てんかん、がんなどの診療が増加。患者は経過観察や治療薬を求めているが、病状が悪化しても、特殊な医薬品や器具は手に入りづらく、こうした患者にできることはほとんどない。現在のガザでは、救急医療搬送の多くは遅れるか、そもそも不可能な状態だ。


ガザの住民は心の健康をひどく害しており、医療スタッフも例外ではない。MSFの診療所にやってくる患者のほとんどは、心身症やうつなど、不安やストレスに関連した症状を抱えている。ガザでは精神科専門の診療は受けられないため、重度の精神障害を持つ家族を介護している人の中には、本人の安全を守り、自傷や他害行為を防ぐために、鎮静剤の過剰投与に頼っている人もいる。


  • 即時かつ持続的な停戦と、意味のある人道援助を

MSFにとってもガザの医療体制を支援することは、危険を伴い、困難を極めている。また、イスラエル当局が課す制限のために、ガザへの医療・人道援助物資の搬入に大きな遅れや困難が生じている。


MSFの緊急対応コーディネーター、シルバン・グルクスは言う。「緊急医療援助団体として、MSFはより多くの援助を行うための知識と手段を持っています。またパレスチナの医療スタッフは人命救助の高い技術を持っています。しかしそれは、そうした仕事が許される場合にのみ可能なのです。現在それは不可能であり、即時かつ持続的な停戦と、意味のある人道援助がなされなければ、さらに多くの人びとが命を落とすことになるでしょう」


  • ガザ地区におけるMSFの活動

MSFは現在、ガザ地区で、アル・アクサ病院(中部)、インドネシア仮設病院(ラファ)、エミラティ産科病院(同)の3カ所の病院、およびラファのアル・シャボウラとマワシ地区にある3カ所の医療施設で活動し、手術を含めた外科の支援、外傷ケア、理学療法、産科、基礎医療、予防接種、心の診療を行っている。しかし、さまざまな病院に対するイスラエル軍の包囲や避難命令によって、活動はますます狭い範囲に押しやられ、制限されている。


 MSFはまた、ラファのさまざまな場所で1日300立方メートルの清潔な水を提供し、量を増やすために継続的に取り組んでいる。3月28日には、マワシ地区への新しい海水淡水化プラントを設置した。

このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります

メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。

すべての画像


関連リンク
https://www.msf.or.jp/
ダウンロード
プレスリリース素材

このプレスリリース内で使われている画像ファイルがダウンロードできます

会社概要

国境なき医師団(MSF)日本

33フォロワー

RSS
URL
https://www.msf.or.jp/
業種
医療・福祉
本社所在地
東京都新宿区馬場下町1-1  FORECAST早稲田FIRST 3階
電話番号
03-5286-6123
代表者名
村田慎二郎
上場
未上場
資本金
-
設立
1992年12月