氷河で繁殖している藻類に高い感染率でツボカビが寄生していることを発見
〜ツボカビの感染が氷河の融解を抑制する〜
千葉大学大学院理学研究院の竹内望教授および大学院融合理工学府博士前期課程2年の小林綺乃、横浜国立大学大学院環境情報研究院の鏡味麻衣子教授らの研究グループは、米国アラスカの氷河で繁殖している藻類に、高い感染率でツボカビが寄生していることを発見しました。ツボカビは、様々な生物に寄生する菌類として知られていますが、氷河のような寒冷環境での活動はほとんど情報がありませんでした。近年北極圏の氷河は、雪氷性の藻類の繁殖によって表面が黒くなり、融解が加速している事実が明らかになっています。その藻類に高い感染率でツボカビが寄生していることは、これらの氷河上の微生物の相互作用によって氷河融解が加速または抑制される可能性を示しています。
本研究成果は、2023年3月9日(木・ロンドン時間)に、Scientific Reportsよりオンライン公開されました。
本研究成果は、2023年3月9日(木・ロンドン時間)に、Scientific Reportsよりオンライン公開されました。
- 研究の背景
ツボカビは、生活環(生物の成長、生殖による変化が一通り出現する周期の一つ)において、水中を泳ぐことのできる遊走子(注1)を持つ菌類のグループです。ツボカビの一部は寄生性であることが知られており、様々な脊椎動物や無脊椎動物、微生物に寄生し、宿主を死に至らしめることもできます。ツボカビは水環境や陸域環境に広く生息し、宿主の個体数を減らすことで生態系に強い影響力を持ちます。
近年、ツボカビの中に寒冷環境下でも繁殖する種が存在することが明らかになってきました。北極圏の海洋や、高山の積雪下または氷河周辺の土壌、さらに積雪や氷河そのものの上にも存在することが報告されています。さらに環境DNA解析からは、世界各地の寒冷環境のツボカビが、系統的に一つのグループに入ることも示唆され、これらは進化的にも関係の深い特殊なツボカビであることがわかってきました。
近年、北極圏を中心に氷河の後退が進んでいます。その原因は地球温暖化等の気候変動に加え、氷河上で繁殖する藻類が表面を暗色に着色し、日射の吸収を増やすことで融解を促進する効果も大きいことがわかってきました。この藻類に感染するツボカビは、藻類を死に追いやることでこの効果を軽減する力を持っていることになります。しかし、このツボカビが、実際に氷河上に生息する藻類にどのくらいの影響力があるのかについては、ほとんどわかっていませんでした。そこで、本研究では、アラスカの氷河で採取した藻類を分析し、ツボカビの感染実態を明らかにすることを目的にしました。顕微鏡観察から、形態的にどのようなツボカビが、どのくらいの感染率で藻類に寄生しているのか、その感染率は氷河の場所によって異なるのかについて分析しました。
- 研究の成果
氷河の表面は、融解水の流れ方や標高による気温の違いなど、環境条件が不均一に分布します。これらの条件がツボカビ感染にどのように影響するかを確かめるため、氷河上の標高の異なる3地点(S2、S3、S4)、およびクリオコナイトホールという融解水がたまった水たまりと氷の表面で、藻類に対するツボカビの感染率を比較しました。その結果。標高による感染率の差はほとんどありませんでしたが、どの標高でも氷表面よりクリオコナイトホールの感染率が4倍から10倍程度高いことがわかりました(図3)。これは、氷河上でも水がたまった環境の方が、ツボカビの感染が進みやすいことを示しています。クリオコナイトホールという水たまりが、ツボカビ感染のホットスポットとなっていることがわかりました。
- 今後の展望
- 用語解説
(注2)アポフィシス:ツボカビが宿主の細胞に伸ばした仮根で、膨らんだ部分。
- 研究プロジェクトについて
- 論文情報
著者:Kino Kobayashi, Nozomu Takeuchi, Maiko Kagami
雑誌名:Scientific Reports
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-023-30721-w
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