托卵するのはカッコウでしょうか、いいえ、ダニでも ―ミヤコカブリダニは卵が食べられそうな時だけ托卵する―
本研究の成果は英国の国際学術誌Functional Ecologyに掲載(現在オンラインで早期公開)されました。
研究の背景
研究グループは、農業の重要害虫であるミカンキイロアザミウマを捕食するキイカブリダニやミヤコカブリダニが、自分の子供の生存率を高めるためにとる行動について研究を行ってきました。
ミカンキイロアザミウマは作物を食害しますが、カブリダニ類の卵も捕食する雑食性であり、上記2種のカブリダニにとっては餌でありながら、卵の捕食者でもあります。キイカブリダニは自分の卵のそばにいて卵を捕食者から守る習性がある一方、ミヤコカブリダニではそのような行動は知られていません。そのうえ、キイカブリダニはミヤコカブリダニの幼虫を、ミヤコカブリダニはキイカブリダニの卵と幼虫をそれぞれ食べることが分かっています。それにも関わらず、両者を一緒にすると同じ場所に産卵することが観察されます(図1)。
本研究では、どうしてこの2種のダニが同じ場所に産卵するのか、という疑問に対する答えとして、「ミヤコカブリダニはミカンキイロアザミウマから自身の卵を守ってもらうために卵を守る種であるキイカブリダニと同じ場所に産卵する」という仮説をたて、その検証を行いました。
研究成果
ミヤコカブリダニに、ミカンキイロアザミウマを餌として与え、キイカブリダニの卵のある場所とない場所を与えると、卵のある場所に好んで産卵します。ところが、卵を保護する習性のないチリカブリダニの卵のある場所とない場所を与えると、どちらかを区別することなく産卵します(図2)。これは、ミヤコカブリダニがキイカブリダニの卵を認識したうえで、意図的に産卵する場所を選んでいることを意味します。
キイカブリダニが自身の卵を守る行動は、捕食者を積極的に追い払うわけではなく、ただ卵のそばにいるだけのものです。そのため、鳥類の托卵のように、キイカブリダニはミヤコカブリダニの卵のために時間やエネルギーを割くわけではありません。しかし、托卵をするミヤコカブリダニの母親はキイカブリダニの卵を食べるため、キイカブリダニにとって托卵するミヤコカブリダニの存在は不利益になります(図3(a))。
その一方で、卵を食べるミカンキイロアザミウマがいないとき、ミヤコカブリダニの子孫の生存率は卵から孵化した幼虫がキイカブリダニの母親に食べられることによって低くなりました(図3(b))。これは、ミヤコカブリダニは托卵によって不利益を被る場合があることを示す結果です。ところが、ミカンキイロアザミウマがいるとき、ミヤコカブリダニの子孫の生存率はキイカブリダニの母親が一緒にいることによって、高くなりました(図3(b))。これは、ミヤコカブリダニの卵がキイカブリダニの母親に守ってもらえることを示す結果です。
ここまでの結果から考えると、ミヤコカブリダニは自身の卵が食べられそうな状況でのみ、托卵することで子孫を多く残せると予想されます。実際、ミヤコカブリダニに、卵を食べないナミハダニを餌として与えた場合には、キイカブリダニの卵のある場所に好んで産卵しませんでした(図4)。
これらのことから、ミヤコカブリダニは自身の卵が食べられそうなときだけキイカブリダニに托卵することで卵の生存率を高めることが明らかになりました。
今後の展望
動物が捕食を免れるために托卵をし、それによって子孫の生存率が高まることを示したのは本研究が世界で初めてです。今回の研究に用いた節足動物は、これまでに托卵の研究が行われてきた動物種と比べ世代期間が短いという特徴をもち、様々な実験を行うことが容易です。今後は、「動物はどうして托卵するようになるのか?」、という進化的な問題の解明だけでなく、「どうやって托卵する場所を見つけるのか?」といった托卵のメカニズムの解明にも取り組む予定です。
カブリダニ類は、農業現場で害虫を防除するために用いられることのある天敵資材です。一方、害虫のミカンキイロアザミウマは植物を好んで食べるもののカブリダニの卵も食べてしまう雑食性で、これは天敵を用いた防除の効率を下げる一因になります。卵を守るための托卵を研究することで、天敵による害虫の防除の効率を高めることにつながる可能性があります。
掲載論文
論文タイトル:A tiny cuckoo: Risk-dependent interspecific brood parasitism in a predatory mite
著者:Choh Y, Janssen A
掲載誌:Functional Ecology
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