イスラエルはガザ住民の強制移動の停止を──退避要求はメンタルヘルスに甚大な影響

イスラエル軍はパレスチナ・ガザ地区で、住民に突然の移動を強いる退避要求を暴力的に使い続けている。絶え間ない爆撃、援助物資搬入のほぼ全面的な封鎖、そして退避要求によって、何十万人もが狭い空間に移動させられ、閉じ込められている。長く続く警戒態勢と予測不可能な退避要求がメンタルヘルスに与える影響は甚大だ。国境なき医師団(MSF)は、ガザの人びとの強制移動を終わらせなければならないと訴える。
繰り返し強いられる移動
「イスラエル軍は、ガザの住民のあらゆる生活手段を心理面、物理面の双方で破壊しています。強制移動は、イスラエル軍と当局によるパレスチナ人の民族浄化作戦の一部です。人びとには他に行く場所などありません」と、MSF緊急対応コーディネーターのクレア・マネラは非難する。
2023年10月に紛争が激化して以来、パレスチナの人びとは何度も退避を強いられ、多くは命がけで居場所を転々としてきた。イスラエルが3月18日に停戦を破ってから出された退避要求は31件に上り、5月19日にハンユニスで出された退避要求はガザ地区面積の22%が対象となった大規模なもので、MSFスタッフも70人超が影響を受けた。また、5月26日に出された退避要求はガザ中心部と南部の40%が対象になった。
MSFのロジスティック・マネジャー、オマール・アルサッカはこう語る。
「残されたテントも、居場所を作るスペースもありません。夜中に子どもを連れてどこに行けばいいのかと同僚に聞かれても、答えが見つからないのです。生き延びるすべも尽きてきています」
こうした退避要求や立ち入り禁止の軍事区域は、今やガザの約80%に広がり、攻撃を免れた地域は一つもない。5月26日、ガザ南部にあるハンユニス診療所のすぐ近くが攻撃を受け、MSFは17人の負傷者を治療した。そこは退避先として指定されていた地域だった。人びとは「安全な避難場所」とされる場所へ退避させられても、そこで再び爆撃を受けている。3月18日以降、複数回移動を強いられた人は約60万人に上る*。

強制移動がもたらす精神的負担
現地で活動するMSFの渉外担当者であるアスマー・アブアサケルは、退避要求が出された時の様子をこう語る。
「子どもたちを起こし、ちょっと出かけるだけだよと伝えました。子どもたちは泣き出しました。私は恐怖で動悸がしながら、平静を装っていました」
これらの退避要求は予測不能で、与えられる時間はごく短い。人びとは、ビラやSNS投稿や電話で、攻撃が迫っていることを知らされる。そこから持ち物をまとめて避難先を探す時間は限られている。行くあてもなく命の危険にさらされながら、多くは真夜中の強制移動が何度も繰り返され、体への影響だけでなく、計り知れない精神的負担がもたらされている。
MSFの心理療法士で、何度も避難を経験しているサブリーン・アルマッサーニはこう語る。
「今回はバッグも書類も何もかも、荷造りする気になれませんでした。また家を出るという考えを精神的に受け入れられないのです。小麦粉も食料もなく、新しい苦しみの始まりです。以前は自分の生活があり、家と仕事場で普通の生活をしていました。突然、生活に必要な物も手に入らず、水や携帯の充電場所を探しながら、過酷な環境で見知らぬ人たちと暮らさなければならなくなったのです。そして、私たちの地域全体がまたも攻撃を受けました」
退避要求によってパレスチナ人はますます狭い地域に押し込められているが、イスラエル軍は退避要求を出さずに攻撃することもある。4月9日、ガザ市内にある7つの建物からなる住宅地を狙った攻撃で、20人超が殺害された。その中には、MSFのスタッフ2人の家族も含まれていた。空爆を受けた時は2人とも仕事中だったため、家族ががれきの下に埋もれてしまったことは後になって知った。
「私たちは常に警戒態勢にあり、逃げろという通告をいつ受けるか分かりません。次は自分たちかもしれないと思うと、夜も眠れません」とアルマッサーニは話す。退避要求は、パレスチナの人びとの心の健康に影響を与え、不安をもたらしている。
MSFはイスラエル軍に対し、ガザの人びとに行っている強制移動と民族浄化作戦を直ちに中止するよう求める。また、イスラエルの同盟国に対しても、支援と加担を停止するよう求める。
* サイトマネジメントクラスター(2025年5月21日)

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