「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」運用開始から1年半、利用は判明145件 「再生型私的整理」が約7割を占める
「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」の実態調査
帝国データバンクは、GL手続きのなかで中立的な立場から再生支援を担う「第三者支援専門家」 として中小企業基盤整備機構および事業再生実務家協会が公表しているリストに登録のある専門家(弁護士・公認会計士・税理士・中小企業診断士など213名)に限定してGLの対応状況についてアンケート調査を行い、判明した結果をもとに分析した。
<調査結果(要旨)>
「第三者支援専門家」のなかで、2023年9月末までに「第三者支援専門家」として実際にGLに基づく事業再生に関与したのは52名(構成比33.3%)
「第三者支援専門家」が関与した案件数は、145件。そのうち、計画案成立済は55件(構成比37.9%)、計画実施済は41件(同28.3%)。145件のうち、再生型私的整理は99件(構成比68.3%)、廃業型私的整理は46件(同31.7%)
145件のうち確認できた業種をみると、「製造」が33.0%でトップ、「小売」が25.0%で続く。地域別では、「関東」が33.3%でトップ、「近畿」が32.0%で続く。年商別では、「1億~5億円未満」が38.7%でトップとなり、負債別でも「1億~5億円未満」が41.4%でトップ
「第三者支援専門家」として依頼された経緯は「外部専門家」からが72.9%、「金融機関」からが24.3%、「その他」(債務者や中小企業活性化協議会からなど)が2.8%
※調査期間は2023年8月28日~9月29日、有効回答数は213名中156名(回答率73.2%)。
※調査機関:株式会社帝国データバンク
「 第三者支援専門家」としての関与は33.3%、手がけた件数は145件
「第三者支援専門家」の活動状況
「第三者支援専門家」213名に対して、GL運用開始後、「GLに基づいた事業再生を手がけた・あるいは手がけているか」尋ねたところ、156名が回答(無回答57名)。156名のうち「はい」が52名(構成比33.3%)、「いいえ」が104名(同66.7%)となった。運用から1年半で約3割の専門家が「第三者支援専門家」としてGLに基づいた手続きに関わったことが判明した。
GLの利用実績
「はい」と回答した「第三者支援専門家」52名に、手がけた・あるいは手がけている案件について尋ねたところ、手続きが開始となった件数は145件だった。145件のうち、再生型私的整理は99件(構成比68.3%)、廃業型私的整理は46件(同31.7%)だった。
手続きが開始となった145件の進捗について尋ねると、すでに再生計画案が成立したものが55件(構成比37.9%)だった。このうち、計画をすでに実施・完了しているものが41件(同28.3%)だった。
計画案が成立した55件の内訳は、再生型私的整理が38件(構成比69.1%)、廃業型私的整理が17件(同30.9%)。再生型38件のうち、債務減免、リスケがそれぞれ19件(同50.0%)だった。
計画をすでに実施・完了している41件の内訳は、再生型私的整理が28件(構成比68.3%)、廃業型私的整理が13件(同31.7%)。再生型28件のうち、債務減免は19件(同67.9%)、リスケは9件(同32.1%)だった。
再生案件は「関東」と「近畿」に集中、年商・負債は「1億~5億円未満」に約4割が集中
GLに基づく再生案件の特徴
2022年4月~2023年9月までに発生したGLに基づく事業再生案件145件について、「第三者支援専門家」に「業種」「所在地」「年商規模」「負債規模」「依頼を受けた経緯」について尋ねた結果を分析した。(1案件1回答ではないため、母数は一致しない)
業種別でみると、「製造」が33.0%で最も高く、「小売」が25.0%、「サービス」が13.0%で続いた。「その他」には今回のGLで扱えるようになった社会福祉法人などがある。
所在地別でみると、「関東」が33.0%でトップとなり、「近畿」が32.0%、「中国」が12.6%と続き、「関東」と「近畿」で全体の65%を占めた。
年商規模別にみると、「1億~5億円未満」が38.7%で最も高く、「5億~10億円未満」が18.3%、「10億~50億円未満」「5000万~1億円未満」はともに17.2%となった。
負債規模別にみると、「1億~5億円未満」が41.4%で最多となり、次いで「5億~10億円未満」が21.8%で続いた。年商・負債いずれも「100億円以上」の案件はなかった。
「第三者支援専門家」を依頼された経緯を尋ねると、「外部専門家」からの依頼が72.9%と最も高く、次いで「金融機関」からの依頼が24.3%、「その他」が2.8%となった。「その他」は中小企業活性化協議会(以下、協議会)などがあった。GLで、協議会では取り扱いのなかった廃業型私的整理が新たに設けられたため、協議会で進めていた案件が、GLの廃業型私的整理に移行したケースなども聞かれた。
第三者支援専門家からの主なコメント
【GLの認知度や利用申請に関して】
スケジュール面が柔軟で使い勝手がよい。今後も硬直的にならぬよう実務家が工夫していくべき
地域によっては認知度が低く浸透していない部分もあるため、協議会が選ばれることが多い
担当者によってはGLへの理解に差があるため、金融機関向けの勉強会やセミナーが必要
慣れていないということもあるが、補助金の申請手続きが複雑で大変
【中小企業活性化協議会(以下、協議会)との役割分担などについて】
協議会は受理されるまでに時間がかかる一方、GLはスピード感をもって取り組める
GLには協議会のようなサポートや調整機能がないので、誰が音頭を取るのかで問題となる
協議会か、GLかの使い分けに迷いがあり、金融機関からもどちらがよいか質問を受ける
金融機関の認知度に濃淡があり、まだ「まずは協議会」というところが多い
【対象債権者について】
政府系金融機関はGLに積極的だが地銀や信金はまだ認知度が低い
協議会と類似した手続きなので、違和感はない様子で、スムーズに進む。メインバンクは協力的
廃業型ではリース会社も対象にいれることがあるが、リース会社にはまだ浸透していない印象
【再生型私的整理・廃業型私的整理について】
案件が持ち込まれるタイミングが遅く、手続きを進める間の資金繰りがもたず破産となった
廃業型はGLにしかなく、ニーズがある。後継者がいないケースに使いやすい
廃業型の入り口はたやすいが清算価値保障などを考えると終わり方が難しい
再生型はスポンサー探し、計画案、債権者との交渉など外部専門家の働きが大事。うまくいかなければ、後ろ倒しになる。入り口部分で主要債権者からある程度同意が得られないと困難
【担い手について】
GLの担い手が少ない。県内に「第三者支援専門家」の登録が少なすぎる
補佐人制度があるが、「第三者支援専門家」のいない県で登録者を増やすのは現状では難しい
企業に接触する専門家が再生メニューとしてGLを紹介するほど認知されていない
まとめ
昨年4月から運用がはじまったGLの案件数は今年の9月末時点で判明したのが145件となった。「第三者支援専門家」リストの専門家のうち、アンケートに回答した156名の約3割に当たる52名が「第三者支援専門家」としてGLに基づく私的整理を手がけたことが判明した。1人あたり1件~複数件手がけており、複数手がける専門家は「関東」と「近畿」に集中している。
専門家のなかには「第三者支援専門家」ではなく外部専門家として関わっているケースも多くみられるほか、地域によっては企業や金融機関のGLに対する認知度が低く、再生メニューとしては全国的にはまだ定着していない印象だ。
協議会の2022年度の再生計画策定支援の完了件数は1067件で、そのうち債務圧縮や減免を伴う抜本的な支援は115件だった。GLは、手続きが類似する協議会と比べるとまだ認知度も低く、件数は決して多くはない。他方で、協議会では扱うことができない社会福祉法人や学校法人等を扱うことが可能であるうえ、GLでしか扱えない廃業型私的整理手続きもあるなど、「需要は高く今後は増える」とみる専門家が多かった。
専門家からは実務面で「補助金の手続き」に関するコメントも多く聞かれたが、慣れの問題もあり、案件数が増えるに従ってスムーズに行われるようになっていくものとみられる。
今後については、私的整理の選択肢として、専門家に限らず金融機関、中小企業自身においてもいかにしてGLの認知度を高めるかが当面の課題と言えよう。
「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」は、(一社)全国銀行協会を事務局とする「中小企業の事業再生等に関する研究会」によって2022年3月4日に公表、同年4月15日より運用が開始となった、事業再生について中小企業者・金融機関の基本的考え方や具体的な私的整理手続きを定めたもの
ガイドラインは第一部「本ガイドラインの目的」、第二部「中小企業の事業再生等に関する基本的な考え方」、第三部「中小企業の事業再生等のための私的整理手続」に分かれている。第二部において、中小企業者を「平時」「有事」の段階に分け、それぞれの段階で中小企業者と金融機関が果たすべき役割を明確化し事業再生等に関する基本的な考え方を示したことや、第三部において「有事」の場合に迅速に取り組める、新しい準則型私的整理手続きにおいて「再生型私的整理手続き」に加えて「廃業型私的整理手続き」を定めたことが注目されている
「第三者支援専門家」は「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」において初めて定められた役割。私的整理の開始段階では弁護士などの専門家が関わる(「外部専門家」という)が、再生計画案の作成・調査を行う中立的な立場として外部専門家とは別に選任される
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