「動くことが支える心不全治療」へ
― 急性期からの運動介入に新たなエビデンス ―
2025年6月、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科の神谷健太郎教授、順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学の末永祐哉准教授らの研究グループは、急性非代償性心不全(ADHF)【※1】【※2】で入院した患者に対する早期心臓リハビリテーション(CR)の有効性と安全性を検討した多施設ランダム化比較試験(RCT)【※3】の結果を、米国心臓病学会誌『JACC: Heart Failure』に発表しました(Kamiya K, et al. J Am Coll Cardiol HF. 2025 Jun, 13 (6) 912–922)。本研究は、ADHF入院中の非フレイル患者に対し、入院早期からCRを導入することが、身体機能や生活の質(QOL)の改善に寄与し得ることを示した、世界でも先駆的な試験です。

本研究(ACTIVE-ADHF)は、北里大学病院、北里大学メディカルセンター、亀田総合病院の3施設で実施され、91名のADHF患者を対象に、入院早期(中央値2日)から運動療法を基盤とするCRを導入した介入群と通常治療群を比較しました。主要評価項目である6分間歩行距離(6MWD)【※4】の退院時変化は、介入群で平均75.0m、対照群で44.1mと、両群間に30.9mの有意差が認められました(95%CI: 4.8–57.0, P=0.021)。さらに、副次評価項目として、認知機能やQOL、歩行自己効力感(歩くことに対する自信)、退院後の日常生活や身体活動量なども改善が見られ、臨床的な意義のある効果が確認されました。
心不全入院中の身体機能低下は、その後の生命予後や退院後の生活に大きな影響を及ぼすことが知られています。これまでの多くの研究は退院後約2ヶ月以上経過した慢性心不全患者を対象としたものであり、入院中からの早期CRの意義は明らかではありませんでした。本研究はこの点に焦点を当て、急性期からのCRが退院後の社会参加への橋渡しとして重要な役割を果たす可能性を示しています。
本研究の論文は、2025年1月にオンライン先行公開され、3月に発表された日本循環器学会の「心不全診療ガイドライン」にも早くも引用されました。急性期からのCRの重要性を裏づける根拠の一つとして位置づけられています。

論文情報
掲載誌:JACC: Heart Failure (Volume 13, Issue 6, June 2025, Pages 912-922)
論文名:Effects of Acute Phase Intensive Exercise Training in Patients With Acute Decompensated Heart Failure
著 者:Kamiya K, Tanaka S, Saito H, Yamashita M, Yonezawa R, Hamazaki N, Matsuzawa R, Nozaki K, Endo Y, Wakaume K, Uchida S, Maekawa E, Matsue Y, Suzuki M, Inomata T, Ako J
※ Journal Impact Factor:10.3(2023年)
用語解説
※1 心不全(Heart Failure):
心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を送り出せなくなる状態。
※2 急性非代償性心不全(Acute Decompensated Heart Failure: ADHF):
慢性心不全が急激に悪化し、呼吸困難や体液貯留などを呈する状態で、多くは入院が必要となる。
※3 ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial: RCT):
被験者を無作為に割り付けて行う臨床試験で、介入の因果効果を評価する上で最も信頼性の高い研究デザインとされる。
※4 6分間歩行距離(6-Minute Walk Distance: 6MWD):
6分間に歩ける距離を測定する簡便な運動耐容能の指標で、心不全などの疾患における機能的状態の変化を評価する。
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