地中海での難民・移民の捜索救助活動を再開──新船「オイボン号」が世界で最も危険な移民ルートへ

国境なき医師団

国境なき医師団の新しい捜索救助船「オイボン号」=2025年11月8日 © MSF

国境なき医師団(MSF)は11月12日、地中海で移民・難民の海難捜索救助の活動を再開すると発表した。昨年まで運航していた救助船ジオ・バレンツ号の活動が中止に追い込まれてから、ほぼ1年ぶりの再開となる。

地中海中央部で失われる命

中東やアフリカでの紛争や迫害、貧困から逃れるため、多くの人びとが欧州を目指し命がけで地中海の横断を試みている。しかし過密状態の小さなボートが転覆するなどして、海上で失われる命が後を絶たない。地中海中央部は、世界で最も危険な移民ルートの一つとされる。

 

MSFの新たな救助船であるオイボン号は、ノルウェー語で「島への希望」を意味し、以前はノルウェーで救急船として航行していた。この度、地中海中央部で捜索救助活動を行うために改修され、必要な機材が取り付けられた。

 

MSFで地中海の捜索救助活動の責任者を務めるフアン・マティアス・ギルはこう話す。

 

「医療・人道援助団体として、移動を強いられた人びとを支援するという使命は揺るぎません。リビアの劣悪で非人道的な環境で拘束や虐待、搾取に耐えた末、小さなボートでの船出を余儀なくされ、海上で危機に陥った人びとがいます。私たちはそのような人たちの命を救うため、再び戻ってきたのです」

活動開始にあたって研修を行うスタッフ=2025年11月8日 © MSF

イタリア政府の政策が救助活動を妨害

MSFはイタリアの厳しい法律と政策の下で2年以上にわたりジオ・バレンツ号による救助活動を続けてきたが、2024年12月、活動を停止せざるを得なくなった。救助活動にさまざまな制約を加える「ピアンテドージ令」や、下船地を遠方の港に指定されるといった制限により、活動が事実上不可能になったためだ。船は最大700人を収容可能であったにもかかわらず、わずか50人の救助者を乗せて遠隔港へ向かうよう命じられることが続いていた。

 

「MSFがより小型で高速の船を導入する決定は、捜索救助船を標的に制限や妨害を加えるイタリア政府の法律と慣行への戦略的な対応です」とギルは話す。

 

MSFは地中海中央部の活動を再開することで、リビアから逃れた人びとの体験を記録することも目指している。人びとはリビア沿岸警備隊などによる海上での暴力的な拿捕、さらに、イタリアの裁判所や国連機関が国際海事法、人権法、難民法への違反だとするリビアへの強制送還に遭っている。

 

この数カ月、地中海を横断する人びとや人道救助船へリビア沿岸警備隊やその他の武装勢力による暴力的な攻撃が増加している。

 

オイボン号にはMSFの医師や看護師らが乗船し、命の危機にある人びとに医療を提供する。低体温症、燃料吸入、燃料によるやけど、さらにリビアでの虐待や拘束で負った傷の治療などを行う予定だ。

地中海での捜索救助活動

国際移住機関(IOM)によると、地中海中央部は依然として世界で最も危険な移民ルートの一つであり、2014年以降、この海域で少なくとも2万5630人の男女および子どもが行方不明または死亡した。2024年だけで1810人に上り、平均して1日5人が死亡したことを意味する。地中海を渡る人の数が減少傾向にあるにもかかわらず、2024年には2017年以降2番目に多くの人が死亡した。

 

MSFは2015年以来、地中海中央部で捜索救助活動を行っており、単独または他のNGOと協力して9隻の異なる救助船を運航し、9万4200人以上を救助してきた。

 

2023年1月、「ピアンテドージ令」がイタリアで施行され、民間救助船にのみ適用される新たな規則と、違反時の制裁措置が導入された。制裁は、港での10~20日の拘留から船舶の没収にまで及ぶ。

 

この懲罰的なピアンテドージ令の施行以来、ジオ・バレンツ号は4回制裁を受け、合計160日間の拘留を強いられた。さらに、2022年12月から2024年12月までの間、妨害的措置により、救助した人びとの下船のためにイタリア南部の近隣港ではなく北部の遠隔港へ向かうことを強いられ、追加で6万4966キロを航行し、163日間余分に海上にいることを余儀なくされた。

オイボン号には医師や看護師らが乗船する=2025年11月8日 © MSF

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会社概要

国境なき医師団(MSF)日本

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URL
https://www.msf.or.jp/
業種
医療・福祉
本社所在地
東京都新宿区馬場下町1-1  FORECAST早稲田FIRST 3階
電話番号
-
代表者名
村田慎二郎
上場
未上場
資本金
-
設立
1992年12月