OKI、300mmシリコンウエハーへ光半導体を異種材料集積するタイリング「CFB」技術を開発
光電融合技術の発展に貢献、パートナーと連携し早期実用化を目指す
OKIは、CFB®(Crystal Film Bonding、(注1))技術を用いたタイリング「CFB」技術を開発しました。本技術は、これまで難しかった小口径の光半導体ウエハーから300mmシリコンウエハーへのウエハーサイズの壁を越えた異種材料集積を実現し、急速に拡大する光電融合技術(注2)の発展に貢献します。今後はパートナー企業や大学との協業を通じ、早期実用化を目指します。

近年、AI(人工知能)の急速な発展によりデータセンター需要が拡大し、処理能力拡大と消費電力増大抑制の両立が深刻な社会課題となっています。こうした課題の解決策として、電子回路と光回路を融合した光電融合技術による高性能・低消費電力化が注目されています。特に、シリコンウエハーへの光半導体の異種材料集積は、シリコンフォトニクス(注3)と光半導体の融合を可能にし、さらなる性能向上が期待されています。
一方、異種材料集積にはさまざまな技術的な課題もあります。たとえば、シリコンフォトニクスが200mm(8インチ)や300mm(12インチ)の大口径シリコンウエハーが使われる一方で、InP(インジウムリン)などの光半導体ウエハーは、エピタキシャル成長の難しさから2インチ(50mm)~4インチ(100mm)の小口径化合物半導体ウエハーが主流です。また、シリコン光導波路はナノスケールの粗さ制御が必要なため、ダメージを与えない異種材料集積プロセスが求められています。

OKIが開発したタイリング「CFB」技術は、異なるウエハーサイズ間のギャップを克服し、ダメージなく異種材料集積を実現するものです。本技術は、2インチInPウエハー1枚から300mmシリコンウエハー全面に52回のタイリングが可能であり、InP系結晶薄膜材料を効率的に活用できます。転写後のInPウエハーはそのまま再利用できるため、リサイクルやリユースも可能で、環境負荷の低減にも貢献します。また、位置精度は±約1µmで、角度精度は±約0.005°です。この精度により、OKI独自のシリコンフォトニクス技術「立体交差導波路」(注4)と組み合わせることで、光半導体とシリコン導波路間の高効率な光結合を実現できます。
実証実験では、2インチInPウエハー上に犠牲層および光半導体として機能するInP系結晶薄膜をエピタキシャル成長させ、素子ごとに分離しました。各素子には、犠牲層エッチング時の薬液浸食から保護するための保護構造と、一括転写用の支持体を形成しました。これにより、InP系結晶薄膜素子は浸食なく中間転写基板へ一括転写ができました。中間転写基板への一括転写は、シリコンウエハーを除去プロセス中のダメージから保護することを目的としています。中間転写基板上で保護構造と支持体を除去することで、これらの除去プロセスでシリコンウエハーへダメージがおよぶことはありません。また、中間転写基板の独自構造により、保護構造および支持体の除去プロセス時にInP系結晶薄膜素子が剥がれず接合状態を維持し、転写時にはInP系結晶薄膜素子を容易に転写することが可能です。
さらに、中間転写基板から「CFB」スタンプを用いて繰り返し転写を行うことで、300mmシリコンウエハー全面へのタイリング「CFB」技術を実現しました。「CFB」スタンプは必要な素子のみを選択的に転写できる構造であり、繰り返し転写により効率的なタイリングが可能です。また、中間転写基板上に高密度ピッチで配置された素子アレイから、デバイスに必要な低密度ピッチの素子アレイを繰り返し転写できるため、材料を無駄なく活用できます。今回使用した「CFB」スタンプのサイズは30mm×30mmで、300mmシリコンウエハー全面への転写回数は52回、所要時間は約10分と、実用的な生産性を有しています。
今回、2インチから300mmシリコンウエハーへのタイリング「CFB」技術を実証しました。本技術は3インチや4インチのInPウエハー、200mmシリコンウエハーなどにも柔軟に対応可能です。また、既存の光半導体製品にも応用でき、高放熱基板への転写による性能向上や、大口径化による生産性向上にも寄与します。
タイリング「CFB」技術は、拡大する光電融合技術の発展や環境負荷低減にも貢献します。今後OKIは、デバイスメーカーとの連携を強化し、本技術の早期実用化を目指します。
なお、OKIは2025年6月29日開催の「30th OECC/PSC 2025」(札幌・WS1-9)および、2025年8月1日開催の「COMNEXT」(東京ビッグサイト・セミナーFOE-9)にて、本技術を説明予定です。
用語解説
注1:CFB(Crystal Film Bonding)
プリンター事業で2006年に実用化したOKIの独自技術。半導体などの結晶薄膜(Crystal Film)を剥離し、異なる材料の基板やウエハーに直接接合することで、異種材料集積デバイスを実現する。着剤を使わないため、電気・光・熱の伝搬が可能である。
注2:光電融合技術
電子回路(電気信号処理)と光回路(光信号処理)を組み合わせ、一体化して最適化・高度化を図る技術。データ転送速度の向上や消費電力の削減、大容量化を実現する。
注3:シリコンフォトニクス
シリコンを導波路層とする光集積回路技術。シリコンチップ上で光変調器・受光器・光フィルターといった光デバイスや光導波路を集積化できる。
注4:立体交差導波路
OKI独自のシリコンフォトニクス技術。シリコン光導波路と光半導体を立体的に交差させることで、両者間の位置ずれに対する許容範囲を従来比で10倍以上拡大するため、±3µm程度のずれであっても高効率な光結合を実現する。本技術は、東京科学大学西山研究室とデバイス応用に向けて共同研究を進めており、2025年3月の第72回応用物理学会春季学術講演会(17p-K305-6、17p-K305-7)にて共同発表を行った。
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