高齢心不全におけるフレイル評価ツール3種の比較
― FRAGILE-HF多施設前向きコホートでの解析 ―
順天堂大学 大学院医学研究科循環器内科学の中出泰輔 非常勤助教、前田大智 非常勤助教、末永祐哉 准教授、および南野徹 教授らの研究グループは、高齢心不全患者を対象に、3種類のフレイル(*1)評価法(Frailty Screening Index[FSI](*2)、FRAIL scale(*3)、Fried phenotype(*4))により判定されるフレイルと退院後2年間の全死亡との関連、ならびに予後に対するリスク層別化能の差を検証しました。本研究では、FRAIL scaleおよびFried phenotypeで判定されるフレイルは、いずれも退院後2年間の全死亡と有意に関連していた一方、FSIで判定されるフレイルは全死亡との有意な関連を認めませんでした。さらに、従来のリスク指標を考慮した予後に対するリスク層別化の上乗せ効果はFried phenotypeが最も大きく、3つの評価法の中で最も高い予後のリスク層別化能を示しました。これらの結果は、FRAIL scale およびFried phenotypeが「高齢心不全患者の全身的な脆弱性を捉える簡便かつ有用な指標」であることを示しており、今後の予後のリスク層別化や臨床判断に寄与する可能性があります。本研究成果はAge and Ageing誌のオンライン版に、2026年2月24日付で掲載されました
本研究成果のポイント
● フレイル該当率は評価ツールで大きく異なり、同じ集団でも「フレイル」と判定される患者割合が変化した。
● FRAIL scaleおよびFried phenotypeで判定されるフレイルは退院後2年以内の全死亡と有意に関連した一方、FSIでは有意な関連を認めなかった。
● 予後のリスク層別化の上乗せ効果はFried phenotypeが最も大きく、3つの評価法の中で最も高い予後予測能を示した。
背景
日本を含む多くの国で高齢化が急速に進む中、心不全患者数は年々増加しており、その予後の悪さは社会的に大きな課題となっています。特に高齢心不全患者では、筋力低下や身体機能の衰えを背景とする「フレイル」がしばしば合併し、再入院のリスクを高めるだけでなく、死亡リスクの上昇とも関連することが知られています。フレイルは「全身的な脆弱性」を捉える概念である一方で、その評価法には複数のアプローチが存在します。例えば、質問票により簡便にスクリーニングできる手法(Frailty Screening Index[FSI]、FRAIL scale)もあれば、握力や歩行速度などの身体機能を含む、より客観的な評価法(Fried phenotype)も用いられており、臨床現場では施設環境や目的に応じて多様なツールが選択されています。しかし、同じ「フレイル」を評価しているはずでも、ツールが異なれば判定されるフレイルの割合や、予後との関連性が一致しない可能性があります。にもかかわらず、高齢心不全患者において複数の主要なフレイル評価ツールを同一集団で直接比較し、「どのツールがより予後を適切に層別化し得るのか」を検証した大規模データは十分ではありませんでした。高齢心不全は加齢とともに全身的な脆弱性が進行しやすい疾患であるため、フレイル評価は治療戦略や退院後管理の意思決定に直結し得る重要な情報です。したがって、フレイル評価において「評価を行うこと」だけでなく、「どのツールを選択するか」が予後に対するリスク層別化や臨床判断に与える影響を明確にすることが求められています。本研究では、このような背景を踏まえ、高齢心不全患者を対象とした多施設前向きコホート研究(FRAGILE-HF(*5))を用いて、3種類の代表的フレイル評価法による判定の違いと、退院後2年間の全死亡との関連、ならびに予後予測能の差を検証しました。
内容
本研究では、2016年から2018年にかけて国内15施設で実施された多施設前向きコホート研究「FRAGILE-HF」に登録された高齢心不全患者のデータを用いて解析を行いました。FRAGILE-HFは、急性非代償性心不全で入院し、その後独歩退院が可能となった65歳以上の患者を前向きに登録した研究です。今回の解析対象は、退院前に3種類のフレイル評価(FSI、FRAIL scale、Fried phenotype)が実施され、解析に必要なデータが揃っていた961名の高齢心不全患者(中央値年齢80歳、女性41.5%)でした。退院前評価にあたっては、質問票で評価する項目については「入院前の状態を想起して回答する」よう指示し、急性期入院の影響を可能な限り抑えた上でフレイルを評価しました。まず、各ツールにより判定されるフレイルの頻度を比較したところ、フレイル該当率はFSI 48.5%、FRAIL scale 44.5%、Fried phenotype 55.8%と、同一集団であっても用いるツールにより「フレイル」と判定される患者割合が大きく異なることが示されました。2年間の追跡期間中に187名(19.5%)が死亡していましたが、Cox比例ハザードモデル(*6)を用いて従来の予後予測指標であるMAGGICリスクスコア(*7)およびlog BNP(*8)などを調整した解析を行ったところ、FRAIL scaleおよびFried phenotypeで判定されるフレイルは、いずれも退院後2年以内の全死亡と有意に関連していました。一方で、FSIで判定されるフレイルは、全死亡との有意な関連を認めませんでした。具体的には、FRAIL scaleで判定されるフレイルの調整後ハザード比(*9)は1.31(95%信頼区間(CI)(*10): 1.01–1.71)、Fried phenotypeでは1.35(95%CI: 1.04–1.75)であったのに対し、FSIでは1.11(95%CI: 0.84–1.37)でした。さらに予後予測モデルの検討では、標準モデル(MAGGICスコア+log BNP)にフレイル評価を追加した際の予後に対するリスク層別化能の上乗せ効果を比較したところ、Fried phenotypeを追加したモデルが最も高い予後のリスク層別化能を示しました。すなわち、リスク再分類の改善(ネット再分類改善度:NRI(*11)など)はFried phenotypeで最大となり、同じ「フレイル評価」であっても、どのツールを選択するかが予後に対するリスク層別化に影響し得ることが明らかとなりました。これらの結果から、FRAIL scaleおよびFried phenotypeは「高齢心不全患者の全身的な脆弱性を捉える簡便かつ有用な指標」である可能性が示され、予後のリスク層別化や臨床判断に寄与することが期待されます。
今後の展開
今回の研究により、高齢心不全患者におけるフレイル評価は「実施の有無」だけでなく、「どの評価ツールを選択するか」によって、予後のリスク層別化の精度が変わり得ることが示されました。とくに、質問票のみで実施可能なFRAIL scale、ならびに握力・歩行速度など客観的な身体機能を含むFried phenotypeは、高齢心不全患者の全身的な脆弱性を捉え、退院後の予後評価に寄与し得る簡便な指標である可能性があります。そのため、握力や歩行速度の測定が可能な環境では、より客観的な身体機能を含むFried phenotypeを用いることで、予後のリスク層別化の精度向上が期待されます。一方、患者が受診できない状況(例:電話再診・遠隔診療)や、そもそも測定機器・医療従事者が十分でない診療環境では、質問票のみで実施できるFRAIL scaleを代替として用いるなど、臨床のシチュエーションや実装条件に応じて評価ツールを使い分けることが重要です。ただし、現時点では、FRAIL scaleやFried phenotypeで診断されたフレイルに対して、介入によって予後が改善することを直接示した十分な研究結果は限られています。今後は、運動療法や心臓リハビリテーション、栄養介入などによりフレイルが改善し得るか、またその改善が臨床アウトカム(死亡や再入院、生活機能)にどのように結びつくかを検証する前向き研究・介入研究が求められます。

図1:本研究の結果のまとめ
高齢心不全患者(n=961)において、3種類のフレイル評価ツール(FSI、FRAIL scale、Fried phenotype)を比較した。フレイル該当率はツールにより異なり、FSI 48.5%、FRAIL scale 44.5%、Fried phenotype 55.8%であった。MAGGICリスクスコアおよびlog BNPで調整後、FRAIL scaleおよびFried phenotypeで判定されるフレイルは退院後2年間の全死亡と有意に関連した一方、FSIでは有意な関連を認めなかった。さらに、標準モデル(MAGGIC+log BNP)に追加した際の予後に対するリスク層別化の上乗せ効果(NRI等)はFried phenotypeが最も大きく、3つの評価法の中で最も高い予後予測能を示した。
用語解説
*1 フレイル:(Frailty)加齢に伴って心身の予備能力が低下し、ストレスに対する抵抗力が弱くなる状態を指す。身体的要素(筋力低下・歩行速度低下)、精神・心理的要素(認知機能低下・抑うつ)、社会的要素(孤立・経済的困難)など、多面的な脆弱性を包括する概念。
*2 Frailty Screening Index[FSI]: 日本を含む臨床現場でも用いられる、質問票中心のフレイルスクリーニング指標。短時間で評価可能である一方、身体機能測定を含まない。
*3 FRAIL scale: 質問票のみで評価できる簡便なフレイル評価法。一般に、Fatigue(疲労)/Resistance(階段昇降困難)/Ambulation(歩行困難)/Illness(併存疾患)/Loss of weight(体重減少)の5項目から構成される。
*4 Fried phenotype: フレイルを身体的側面から評価する代表的手法。一般に、体重減少・疲労感・身体活動量低下・歩行速度低下・握力低下の5項目から構成されるフレイル評価ツール。
*5 FRAGILE-HF: 日本で行われた高齢心不全患者を対象とした多施設前向き研究(コホート)。
*6 Cox比例ハザードモデル: 生存期間などの経過を解析するための統計手法。年齢や合併症などの影響を調整したうえで、特定の因子が死亡リスクにどの程度関与するかを評価する。
*7 MAGGICリスクスコア: 国際共同研究に基づいて作成された心不全の予後予測スコア。年齢、心臓の機能、血圧、腎機能、体格、治療内容など複数の因子を総合して死亡リスクを推定する。
*8 Log BNP: 心不全の重症度を反映する血液マーカーBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)の値を対数変換したもの。統計解析を行いやすくするために用いる。
*9 ハザード比: 時間経過に伴うイベント発生の相対的なリスクを示す統計指標。値が 1 より大きい場合は基準群に比べてイベント発生リスクが高く、1 未満の場合は低いことを示す。
*10 95%信頼区間: 母集団における真の値が、この範囲の中に含まれていると考えられる確からしさが 95%であることを示す区間推定の指標。
*11 ネット再分類改善度(NRI):(Net Reclassification Improvement)新しい指標を加えることで、患者ごとのリスク分類(高リスクか低リスクか)がより適切に修正されたかを示す指標。0に近ければ改善なし、正の値なら改善を意味する。
研究者のコメント
本研究の強みは、臨床現場で「どのフレイル評価ツールを使うべきか」という実務的な悩みに対し、同一の高齢心不全患者集団で3つの代表的ツール(FSI、FRAIL scale、Fried phenotype)を同一条件で直接比較し、フレイル頻度の違いだけでなく予後との関連性とリスク層別化能まで一貫して示した点にあります。その結果、客観的指標(握力・歩行速度)を測定できる環境ではFried phenotype、測定が難しい場面ではFRAIL scaleを用いるなど、状況に応じた使い分けの実装イメージを提示できました。
原著論文
本研究はAge and ageing誌のオンライン版に2026年2月24付で公開されました。
タイトル: Comparative Prognostic Value of Three Frailty-assessment Tools in Older Patients With Heart Failure: post hoc Analysis of the FRAGILE-HF Cohort
タイトル(日本語訳): 高齢心不全患者における3種フレイル評価ツールの予後予測能の比較:FRAGILE-HFコホート事後解析
著者: Taisuke Nakade 1), Daichi Maeda 1)2), Yuya Matsue 1), Nobuyuki Kagiyama 1), Yudai Fujimoto 1), Yoshiaki Ikeda 1), Tsutomu Sunayama 1), Taishi Dotare 1), Kentaro Jujo 3), Kazuya Saito 4), Kentaro Kamiya 5), Hiroshi Saito 6), Yuki Ogasahara 4), Emi Maekawa 5), Masaaki Konishi 7), Takeshi Kitai 8), Kentaro Iwata 9), Hiroshi Wada 10), Takatoshi Kasai 1), Hirofumi Nagamatsu 11), Shin-Ichi Momomura 12), Shuntaro Sato 13) and Tohru Minamino 1)
著者(日本語表記): 中出 泰輔 1), 前田 大智 1)2), 末永 祐哉 1), 鍵山 暢之 1), 藤本 雄大 1), 池田 吉亮 1), 砂山 勉 1), 堂垂 大志 1), 重城 健太郎 3), 齋藤 和也 4), 神谷 健太郎 5), 齋藤 洋 6), 小笠原 由紀 4), 前川恵美 5), 小西 正紹 7), 北井 豪 8), 岩田 健太郎 9), 和田 浩 10), 葛西 隆敏 1), 長松 裕史 11), 百村 伸一 12), 佐藤俊太朗 13), 南野 徹 1)
著者所属(日本語表記): 1) 順天堂大学, 2) 大阪医科薬科大学, 3)西新井ハートセンター病院, 4) 心臓病センター榊原病院, 5) 北里大学, 6) 亀田総合病院, 7) 横浜市立大学, 8) 国立循環器病研究センター, 9) 神戸市立医療センター中央市民病院, 10) 自治医科大学附属さいたま医療センター, 11) 東海大学, 12) さいたま市民医療センター, 13) 長崎大学
「FRAGILE-HF」は、ノバルティスファーマ研究助成金および日本心臓財団研究助成金によって支援されました。本研究はAMEDから助成番号JP21ek0109543により資金提供を受け実施されました。
なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。
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